実は夢をあきらめていた

ことを思い出した。

子供のころから音楽が好きで、12歳でフォークギターを持った。その後は主に弦楽器を弾き、高校時代には学業そっちのけで音楽活動に勤しんでいた。

だが。。。。

思い返せば中学生の時、家で弾き語りの練習をしていたら親に音痴だと馬鹿にされた。自分は歌が下手なのだと思い、それ以降私は人前で楽器は演奏するがうたを歌わなくなった。

高校に入ると音楽活動は過熱、コンサートにも沢山出た。漠然と将来はこのままミュージシャンになれたらなあ、と思っていた。だが、そのころ一緒に演奏していたサックス担当の男子(今はプロになっている)が見事な絶対音感を持っていて、彼を見ていると絶対音感を持たない私は楽器に対する自信をも失ってしまった。

絶対音感を持たない音痴な自分は音楽を続けていても仕方ない、そう思うようになった。あれだけ大好きだった演奏活動も、どうせ自分は音楽では食っていけない、と大学受験を理由に止めてしまった。と言っても止めたのが高校3年生の秋だったので、その後の受験勉強も思うように行かず、「音楽に携わっていたいなあ」と音響の専門学校への進学を希望していると親に言ったが反対された。

その後20歳で結婚し大学中退、出産、夫との死別、等色々あったので楽器からは離れていたが、子供たちに手がかからなくなった15年ほど前にとあるきっかけでまた楽器を持つようになった。

それでもやっぱり歌だけは歌えない。自分は音痴なのだから。

だが、コロナ自粛が始まって1年たった2021年の3月、これもとあるきっかけで「声楽」を習うことになった。偶然ネットで見つけた先生だったが、何かに突き動かされるように「教えてください」とメールしていた。

歌を習うのは初めてである。音痴な自分だが、もうこんな年なのであんまり恥ずかしくなかった。レッスンが始まってしばらくして、先生に聞いてみた。「先生、私って音痴ですか?」

「まったく音痴ではないですよ。音程もしっかりしているし、音がずれていると一度も感じたことはないですよ。」 

そうだったんだ・・・自分は音痴なんだと、周りの人たちは私のことを音痴だと思っていると信じ込んでいた。ゆえに、ますます歌えなくなり、ますます下手になり、ますます音痴だと思うようになっていった。

私が歌えなかったのは、音痴だからではなく「音痴だと思い込んで歌っていなかった」から。そう思うと歌うことが楽しくなった。

「今年の秋には発表会に出ましょうね」と先生は言った。

「はい。お願いします」

というわけで、ばばちゃん57歳、初めて人前でアリアを歌います。

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