議員コスプレに見る日本の「身分制」

はじめに


 先日、偽の議員バッジを付けた男が中央官庁に侵入して逮捕されていたという事件が報道されました。
 幸い侵入されただけのようだったのと、国葬もあったため、メディアはこの事件をあっさりとした報道しただけで済ませてしまった。
 いや、済ませなきゃならなかったのか……。と疑いたくなるほど、あっさりでした。
 

「身分制」が支配する日本


 けれど、「これヤバくない?」と思った人は多かったと思います。
 国民にはマイナンバーカードを作れ作れと言っておきながら、国の中枢が全くデジタル化していないどころか、議員バッジを付けている人なら顔パス、バッジパスで官庁に入れてしまう「身分制」がいまだに採用されていたのです。
 この「身分制」は法学者の佐藤直樹さんが提唱しています。
 日本人が年齢や役職にこだわるのは、この「身分制」が大きく作用しているからだと言います。
 自分より身分が上の(と思われる)人に対しては、名前や要件を聞いてはいけないという風習です。
 少し前は、ドラマなんかでこの風習を皮肉って、会社に侵入した窃盗犯があまりにも堂々としているため、どこかの役員と勘違いして恭しく送り出すという話がコメディとして描かれたりしていました。
 今回は、それが現実になってしまった事件です。
 コメディは現実にならないからおもしろいのであって、現実になってしまえばもう笑えないですよね。
 

部長と長男


  日本の「身分制」は、日常生活にも取り入れられています。
 佐藤さんによれば、その代表が「名刺」です。日本の名刺には、その人の肩書きが記してあり、それによって双方の上下関係が決まります。こういった風習は、アメリカやヨーロッパにはないそうです。
 先日、「レプリカズ」というアメリカ映画を見ていたら、上司と部下が会話する場面で、部下がズボンのポケットに手を入れながら話しているのに驚きました。日本でやったら、即効注意されますよね。
 例え上司が許しても、周りが許さない場合もあります。「○○さんにあんな態度取りやがって」みたいに。
 家庭においても、日本は長男、次女、末っ子など生まれた順番に名前が付きます。でも、海外ではブラザー、シスターしか呼び名がありません。
 そのため、映画などの翻訳家は登場人物の関係性で上下を決めるそうですが、どうしてもわからない場合もあるようです。
 
 

問題はセキュリティ対策ではない


 今回の事件は、ある意味、日本人にしか思いつかなかった方法だと思います。だって、まさか未だに顔パスで官庁に入れる先進国があるなんて、他の国は思いもしていないからです。
 今は大学でも学生証の提示が求められます。私は1度大学を出て、すぐに忘れ物を取りにもどったところで看守に呼び止められたことがあります。
 会社でもIDカードをかざさないと入れないところが多いと思います。
 それなのに、どうして議員だけ……と思ってしまいますが、それも「身分制」ゆえです。
 
 学生や社員は管理される身分だが、議員は管理される身分ではない。もし議員も管理しろという者があれば、それはまことに失礼なことであり、身分不相応なことである。
 
 という意識が働いているとしか思えません。
 そうであるなら、この「身分制」を国の中枢からなくさない限り、いくらセキュリティを強化したところであまり意味はないでしょう。
 

「文句ある?」と言う上司


 この「身分制」は、日本の生きづらさの1つでもあります。
 学校では「個性を伸ばす」教育や、メディアでは「自分らしく」と聞こえのいい言葉が飛び交っていますが、現実はそうはなっていません。
 いい仕事がしたいだけなのに、上司と違う意見を述べると一蹴されたり、ひどい時は嫌がらせを受けたりします。
 私は以前働いていた会社で上司に意見したところ、上司の一言目は「文句ある?」でした。
 旧統一教会の問題もそうです。
 どんなに疑わしい集会でも、お世話になっている先輩に誘われたら断ることができない。断ったらもう援助してもらえないかもしれませんし、さいあく議員を辞めさせられるかもしれません。
 

尊敬は強要されるものではない


 もちろん、目上の方を敬うのは、日本の伝統的な考え方であっていいと思います。でも、それは敬う方の意識の問題に限ります。
 今は「身分制」が嫌な奴をつけ上がらせる方向にしか作用していません。それのどこを尊敬しろと言うのでしょう。
 日本が「身分制」から離れられるかどうかで、この国の在り方はずいぶんと変わってきます。
 はやいうちに「身分制」のなくなった日本で、本当に国民から尊敬される議員が生まれることを願います。
 
 
 ありがとうございました。

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