グルメインスタグラマーの動画にもやもやする
はじめに断っておくが、SNSの使い方は人それぞれであり、なんら表現の自由を制限しようという立場ではない。もちろん、犯罪行為、著作権やプライバシー権など他人の権利を侵害するようなものは論外である。
そのうえで、SNS上で最近もやもやしていることがある。タイトルの通り、インスタグラムを見ているとタイムライン上に表れるグルメ動画である。こちらは、外食をして気に入った店、これから行ってみたい店のフォローをしているアカウントから見ているので、次から次へと似たようなリール動画が勝手に流れてくる。
「お前が言うな」というツッコミが聞こえてきそうだ。外食に行くたびに画像と共にお店に関するルポルタージュを書き記し、自身のSNSやGoogle Mapのクチコミに投稿してきた。それらがきっかけで、ウェブマガジンの編集者から依頼を受けて、連載記事を書いたこともあるし、なかには書籍化された記事もある。SNSでつながっている人とリアルに対面すると「いつも美味しそうなものばかり食べてるね」と冷やかされることもしばしばだ。
しかし、投稿しているのは大半が静止画。動画はほとんどない。ましてや、編集もしないしテロップを載せることもない。ぼくが嫌悪感を抱いているのは、以下のような動画だ。
店の外観のパーンから始まり「福岡で一番〇〇の店を見つけた」などとテロップが表示される。続いて店の内装やキッチンの様子などが映し出されるのだが、中にはその手前に、扉を開けて店の中へと入っていく若い女性の後ろ姿を挟み込んだものもある。
そこからは料理のオンパレード。フレームインしてくる皿、箸やフォークで持ち上げるシーン、手に持ったものを無駄に左右に揺らすものもある(意味あるのか?)。口に運ぶシーンや「食リポ」はほとんどなく、ただひたすら料理ばかりである。
それらの料理の動画には「この雰囲気はデートに最高」「このコスパ、知らない人損してる」などとテロップが重ねられていく。ここら辺で、場合によってはもやもやどころではなく、脳内がふつふつと煮立ってイライラしてくる。
なんだろうこの嫌悪感。当然、この投稿者に悪意はないだろうし、見ている人にそんな感情を与えていようとは、微塵も感じていないだろう。しかし、なぜこれだけこっちがもやもやし、イライラするのか。考えれば考えるほど、理由がいくつも出てくる。
理由その1。「お前が決めるな」である。「最強コスパの焼肉店」「一番予約が取れない人気店」、そう言い切れるだけのエビデンスはあるのか? これ、仮に店側がそう謳っていたとすれば消費者庁が飛んできて、いわゆる「No.1広告」として規制の対象になる話だ。ついでに言うと「ここ知らない人損してる」も、余計なお世話である。
理由その2。「味わう暇ないやろ」。静止画なら撮影に要する時間はほんの数秒、シャッターを押したあとはスマホを置いて、それからじっくりと料理を味わえる。食べている途中の写真を撮る人なんてほとんどいない。しかし動画となるとそうはいかない。湯気がモワッと出したり、きれいにフレームインさせたり、さらにそれを切り分けたり持ち上げたり、一つ一つを撮影し、場合によっては何度もやり直し、やっとこさ口に運ぶのかと思いきや、ムダにふりふり左右に揺らす。そんな状態からだともう料理の味は半減しているだろうし、そもそも集中力が味覚ではなく撮影する方に向いていて、舌の刺激は脳に伝わらない。
その証拠に、これらの動画にはほとんど料理の味に関するコメントがない。テロップに表示されるのは店の雰囲気とコスパばかり。きっとろくに味なんて覚えちゃいないのだろう。あまり想像したくないのだが、少人数で行ったにしては出てくる料理の量が多すぎるものもあって「本当に完食しているのか」と疑いたくなるものまである。
理由その3。会話が楽しめない。前項と重なる部分もあるが、静止画まででやめておけば、料理をじっくり味わえるだけでなく、同行者たちとのおしゃべりも楽しめる。外食(会食)の目的は、空腹を満たすだけではないことは、わざわざここで書くことでもないだろう。動画を撮影していれば声は入っちゃいけないだろう。下手すりゃ近くで食事をしている人にまで気を遣わせているんじゃないだろうかと、余計な心配までしてしまう。
理由その4。若い女の子の後ろ姿。これは単なるやっかみかもしれない。こっちは中年のオッサンであり、一緒に行く相手も同じオッサンか、仮に異性であったとしても大抵若くない(失礼)。フォロワーやいいね! の数を増やすためなら、モデルをしてくれそうな人に頼むしかなく、しかしそんなことをすればパパ活と間違われるのがオチだ。
実はこの件に関して、先日あるラジオ番組を聴いていたら、パーソナリティがこんなことを暴露していた。「あるとき、とある飲食店の前を通りかかったら、女性が店に入ろうとしているシーンをスマホで撮影している場面に遭遇した。だが、その撮影が終わるやいなや、女性も撮影者も実際には店に入らずに立ち去っていった」と。SNSの闇を見た思いだ。
理由その5。あと一つ、もやもやの原因が何かあったような気がしていたのだが、それがなんなのかが分からずにいた。なので余計にもやもやしていたわけなのだが、つい最近、ときどき食事に行っているラーメン店の店主がこんな投稿をインスタグラムにあげていたのを読んで、腑に落ちた。長いので少し端折りながら引用する。
「料理は承認欲求を満たすための道具ではありません」。まさに「それな!」である。そもそもその料理は投稿者自身が作ったものではなく、お店の人が作ったもの。それを使って、フォロワーを増やし、いいね! の数を増やし。「人の褌で相撲を取る」以外の何者でもない。
そもそもSNSでフォロワーを増やしたいのであれば、自分で何か努力して会得したもので勝負するべきではないか。料理はもちろん、ダンスや楽器演奏でも良いし、スリーポイントシュートでもリフティングでも良い。あぁ、美しいペン字を書く動画とかも良いねぇ。
もちろん、お店側が「タダで宣伝してもらって、お客さんが増えるのであれば」と歓迎しているのであれば、それはそれで良いこと。しかし一方で、こんなふうに考えている料理人もいるということは、投稿者側もよく肝に銘じておいた方がいい。
中には、お店からいくばくかの報酬やサービスを提供されて投稿した動画もあるだろう。ただ、当然それらにはちゃんと「#PR」といったものを明示しておかないと、いわゆるステマ規制(景品表示法違反)に引っかかるからご注意を。
最後に言い訳がましくなってしまうが、ぼく自身のSNS投稿は先ほど引用したラーメン店店主が許容している「食の備忘録」である。舌の記憶を忘れる前に書き留めておくことはもちろんなのだが、この年齢になってくると店の名前がパッと思い出せない。「あの辺で行った店、もう一回行きたいんだけど、なんて店名だっけ?」なんてことは日常茶飯事だ。
大事にしていることは、お店に対するリスペクト。料理人はもちろん、フロアスタッフの心遣いに対しても、感謝の気持ちを忘れずにいたい。そして、食材のひとつひとつ、お酒の一滴までしっかり味わい、舌の記憶として留めておく。同時に、同席してくれた人たちとも楽しい時間を共有したい。動画ばかりを撮っていれば、それらのいくつかは欠落する。ぼくはそう思う。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?