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私をオフして

いやな疲れ方をしている。
疲れているのに眠れない、足は棒のようなのに勝手に足が踊り出す。壊れた自動運転の貨物列車が1両編成で到着します。危ないですので黄色い線から離れてください。などなど。

誰か私の電源をOFFにして。
強制シャットダウンしますか?
その場合只今編集中のデータが保存できない場合があります。どうでもいい。パソコンごと叩き割りたいくらいよ。

心の底に排水溝のねばついた汚れが潜んでいるような罪悪感もある。掃除しなくっちゃいけないのは分かっている。

うちの部の斎藤さん、いや。
ちりぢりの金髪のロングヘアの男で今どき紙タバコを吸ってる。ちっちゃな出版社なのに業界人ぶっちゃって見ててイライラする。
それでも斎藤さんは結構背が大きいのと顔つきが冷たそうなのが相手を萎縮させるらしく、みんな逆らえないみたいで、そんなんだから、可愛くて若い女性社員に馴れ馴れしくして、ブスにはそこにいないみたいに無視して、そういうことが許されると思ってる。みみっちい。たまに編集長に、あいつあんな風だけど意外と優しいとこあるんだぞ、細かいことによく気づいてさあ、とか気に入られて要領よくやってる。

でも斎藤さんのことなんてどうだっていい。私が疲れてるのはそのせいじゃない。

排卵日なのにセックスするのを忘れた。
月に一度しかないのに。スマホのゲームに夢中で忘れてた。やらなければいけない事があるとそれを後回しにする癖がまさかここでも発揮されるとは。人間の変わらなさに呆れる。

私がまだそこらの綺麗な女子大生だった時コンピューターと人間の頭の違いについて思い耽った事がある。頭のハードのところが壊れていた同級生のミキちゃんが、私はここのナウローディングが遅いからってママに病院連れてかれたのよって指で頭を突きながら言った。ミキちゃんの髪の毛はサラサラのちゅるちゅるで大学の講堂の蛍光灯の下では天使に見えた。

疲れると変なことを考えるのは人間の常だ。
適当な男と寝てしまうのはどうか、バスルームで肩まで伸びた髪をスポーツ刈りにしてやろうかとか、お風呂にお湯を張ってそのままカミソリで、、、だとか。

神保町のカレー屋でこぎれいな老紳士が若い女の子を連れて、初めてエジプトに行った時の話を熱心にしていた。そして、青春ですよ頭の中はいつでも。と素敵な感じで言った。左様でございますか。と私は思った。

14歳の頃、不倫は青春できなくなった大人がするからあれは可哀想なんだとおもっていた。軽蔑というより憐憫である。

それは確かに当たっていて、そして今、青春は奇跡なのだと悟る。


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