フリーランス新法:「就業環境の整備」部分(厚労省所管)の政令・規則委任事項の議論②関係団体へのヒアリング
本稿のねらい
前回、厚生労働省雇用環境・均等局が設置する「特定受託事業者の就業環境の整備に関する検討会」(本検討会)のねらいやスケジュール感について説明した。
本日2023年9月29日、本検討会の第2回会議(本会議)が開催された。本会議は関係団体(合計4団体)へのヒアリングが行われた。
そこで、本稿では関係団体の意見等を紹介しつつ、特にプラットフォーム事業者が関与する場合について細かく触れようと思う。
ちなみに、既に2023年10月3日には第3回会議(2回目の関係団体ヒアリング)が開催されることが予定されている(厚生労働省ウェブサイト)。
日本フードデリバリーサービス協会
(1) 日本フードデリバリーサービス協会とは
一般社団法人日本フードデリバリーサービス協会(JaFDA)は、2021年2月3日付けで、Uber Eats Japan、出前館、menu、ライドオンエクスプレスホールディングス、楽天を中心としたフードデリバリーサービスを提供する13社にて設立された一般社団法人である(設立時プレス)。
なお、本稿執筆時点では、会員数は正会員A5社、正会員B3社の合計8社となっているようである(JaFDAウェブサイト)。
活動内容は次のとおり。
フリーランス新法における「就業環境の整備」部分と関係するのは3点目の「配達員/パートナーとの適切な関係性の構築」であろう。
JaFDAは、「配達パートナー就業環境整備委員会」なるものを10回近く開催し、2022年3月29日、「フードデリバリー配達員の就業環境整備に関するガイドライン」を策定し、また2023年5月30日、同ガイドラインを改訂した(「フードデリバリー配達員の就業環境整備に関するガイドライン(改訂版)」)。
(2) プラットフォーム事業者と配達員の関係
プラットフォーム事業者と配達員の関係について考える前に、そもそも利用者とプラットフォーム事業者の関係について考える必要があるように思われる。
つまり、利用者とプラットフォーム事業者の関係が、単にプラットフォーム事業者が飲食店や小売店の情報をプラットフォーム上に掲載し、あるいは決済代行なども行うにせよ、飲食や売買にかかる契約自体は利用者と飲食店や小売店との間に成立するのであれば、その飲食や売買にかかる目的物の配達業務をプラットフォーム事業者が負うことは論理必然ではない。別途、利用者又は飲食店や小売店から業務委託を受けていることが必要となる。
┃ Uber Eats Japan GKの例
以下では、「Uber Eats(日本)ユーザー利用規約」(Uber Eats利用規約)をもとに、Uber Eats Japan GKの場合における、利用者(注文者)とプラットフォーム事業者であるUber Eats Japan GKとの関係を整理する。
Uber Eats利用規約によれば、次のように整理できる。
利用者がUber Eats Japan GKから受けられるサービスは、①Uber Eatsプラットフォームの利用(アクセスサービス)と②Uber Eats Japan GKが提供するUber Eatsプラットフォーム上での配送サービス(配送サービス)の2つである(第1条)
利用者とマーチャント(おそらく飲食店や小売店)の間の商品供給契約は、マーチャントが注文を受け付け、Uber Eats Japan GKが利用者にその旨を通知した時点で成立する(第5条)
配送サービスについては、利用するかどうかは利用者の裁量に委ねられている(第2条・第5条)
つまり、利用者は、注文の際に、配送サービスの利用のほか、マーチャント配送又はピックアップを選択可能である(第2条・第5条)
利用者が配送サービス以外の方法を選択した場合、利用者とUber Eats Japan GKの間には「配送の要素」は含まれない(第2条)
他方、利用者が配送サービスを選択した場合、Uber Eats Japan GKは「配達パートナー」(オンデマンド配送サービスの提供を希望する独立契約者)に対し配送を依頼する(第2条)
利用者がマーチャントに支払う商品代金やUber Eats Japan GKに支払う配送手数料等はUber Eats Japan GKに支払う(前者についてはUber Eats Japan GKが収納代行を行っていることになる)(第6条)
このように、Uber Eats Japan GKは、利用者(注文者)が配送サービスの利用を選択すれば、自身が利用者(注文者)に対して商品の配送義務を負い(その限りで準委任契約が成立する)、その配送業務を配達員に対し更に委託している(つまり再委託契約が成立する)ことになる。
簡単にまとめると下図のとおりである。
このように、Uber Eats Japan GKのようなプラットフォーム事業者が配達員や配送業者(配達パートナー)に対し何らかの業務を委託したり(業務委託構成)、何らかの業務の遂行を指揮命令したり(雇用構成)するためには、そもそもプラットフォーム事業者が何らかの契約等により配達にかかる業務を行う義務を負っていることが前提となる。
┃ menu KKの例
上記Uber Eats Japan GKの例と対照的なのはmenu KKの例である。
以下では、menu KKの「利用規約」(menu利用規約)をもとに、menu KKの場合における、利用者(注文者)とプラットフォーム事業者であるmenu KKとの関係を整理する。
menu利用規約によれば、次のように整理できる。
menuとは、「出店者」(飲食店や小売店等)が自己の商品を有料で提供する商品のテイクアウト/デリバリー注文・決済を行うことができるサービス及びそのサービスを提供するアプリケーション(本サービス)である(第2.1条)
menu KKは、利用者(注文者)に対し出店者が提供する商品を注文するシステム等を提供するのみ(第2.2条)
商品に関する売買契約は、本サービス(※原文では「本アプリケーション」となっているが誤記)を通じ出店者から注文完了又は調理開始の通知を利用者(注文者)が受信した時点で、利用者(注文者)と出店者との間で成立する(第2.2条・第7.2条)
「配達パートナー」は、menuに配達パートナーとして登録し、利用者(注文者)への商品の配達等のサービス提供を出店者(※原文では「出品者」となっているが誤記)から「直接受託する」(第2.7条)
利用者(注文者)が出店者に支払うべき代金は、出店者から代理受領権を授与されているmenu KKに対し支払う(第7.3条)
このように、menu KKは、利用者(注文者)から商品の配送業務を受託せず、出店者が配達パートナーに対し直接配送業務を委託することになる。
簡単にまとめると下図のとおりである。
Uber Eats Japan GKやmenu KK以外のパターンもあり得るだろう。
上図(本会議資料1・7頁)のうち、「店舗側配達型」は、これまでもいわゆる店屋物(そばやピザの配達が典型か)について存在しており、基本的には配達員と飲食店等の店舗の関係は雇用であることが主流と思われ、フリーランス新法との関係は薄い。なお、飲食店等の店舗とプラットフォーム事業者の関係は独禁法等により規律されるべきである。
また、同じく上図(本会議資料1・7頁)のうち、「法人業務委託型」については、プラットフォーム事業者と配達員が直接の契約関係になく、配達員に再委託又は指揮命令しているのは配送業者である。配達員がフリーランスである場合にはフリーランス新法は関係するが、プラットフォーム事業者とフリーランスという構図ではない。なお、この類型でも、上記同様、配送業者とプラットフォーム事業者の関係は独禁法等により規律されるべきである。
そうすると、プラットフォーム事業者と配送業者の関係でいえば、上図(本会議資料1・7頁)のうち「個人業務委託型」(Uber Eats Japan GK等)や「個人業務仲介型」(menu)のみが残ることになる(だからこそわざわざ図まで作って紹介した)。
この「個人業務委託型」はまさにフリーランス新法が対象となる類型であるが、「個人業務仲介型」については、プラットフォーム上にフリーランスが登録等を行うことから対象の可能性につき議論はあるが、基本的にはフリーランス新法の対象とはならない類型と考えられている。
なお、Uber Eats Japan GKのような類型では、利用者(発注者)から見ればフリーランスである配達員は再委託先であるが、この場合の特定業務委託事業者であるUber Eats Japan GKは、事業者である元委託者から委託を受けた業務をフリーランスである配達員に再委託しているわけではないため、フリーランス新法第4条第3項は適用されない。フリーランス新法第4条第3項が適用され得るのは、Uber Eats Japan GKとフリーランスである配達員との間に配送業者等が関与しているケースである。(再委託の場合の報酬の支払いは別記事を参照)
(3) JaFDAからの要望
JaFDAは、大きく次の7点につき要望を出していた。
継続的な業務委託の定義
出産育児等の「必要な配慮」
ハラスメント対応の「対応体制」
アカウントの一時停止(解除該当性)
配達員に帰責性があるなどの場合を事前予告の例外に
所定の場合を理由開示の例外に
理由開示の方法として電磁的方法を許容
このうち、特に興味深いと思った3点(上記太字)について簡単に紹介する。
┃ 継続的な業務委託の定義
フリーランス新法第13条第1項は、「継続的業務委託」について定義を行っており、その「継続的業務委託」に該当すると、①フリーランスの出産育児等に対し「必要な配慮」を行う義務が生じ(同条項)、また②解除を行うために原則として30日以上の事前予告や理由開示を行う必要が生じる(同法第16条)。
この「必要な配慮」に関する義務は撤廃されるべきことはこれまでも散々書いてきたことや仮に義務を履行しなくても罰則まではないことから、もはや繰り返さないが、フリーランス新法第16条の解除予告等にもかかってくることから厄介なのである。
この点、JaFDAは、この継続的業務委託について、次のように要望を出している。
どのように法定するのかは難しいところだが、趣旨はもっともであると考える。基本契約型であり、かつ、個別契約の締結が完全にフリーランス側の裁量にあるようなケースでは、「継続的業務委託」の趣旨(詳細は省略※筆者は納得していない)に照らして不適当である。
«参考»
┃ 出産育児等の配慮義務
このあたりは指針(フリーランス新法第15条)において明確化されることが期待されているが、「稼働実績の多い特定受託業務従事者に追加の特典や報酬を付与するような仕組み」が禁止されることがないのは当然であり、むしろ、例えば育児休業を取得した父母につき、育児休業取得を理由に賞与の支給を拒否できないものの、以降の賞与等の評価にプラス評価を付けないことは可能であることとパラレルに考えれば、「追加の特典や報酬を付与」しないことも十分正当化される。
┃ アカウントの一時停止
アカウントの一時停止は、フリーランス新法第16条第1項が対象とする「契約の解除」や「契約期間の満了後に更新しない」ことには直接当たらないことから、少なくとも同条項の直接適用は受けない。
他方で、「継続的業務委託」の趣旨(…)からすれば、アカウントの一時停止についても "フリーランスにとって死活問題" ということになり、類推の基礎はありそうではあるものの、フリーランス新法は民事法ではなく経済法であることから、類推適用にはなじまないのではないかと思われる。
ここでJaFDAが要望している内容からすれば、仮にフリーランス新法第16条の適用があるとしても、例外として、つまりフリーランス側の帰責事由があるとして(※)事前予告や理由開示は求められないと考えられる(同条第1項但書、第2項但書)。
※ 厚生労働省令によりフリーランス側の帰責事由がある場合が事前予告や理由開示の適用対象外となることが前提である。
ITフリーランス支援機構
(1) ITフリーランス支援機構とは
ITフリーランス支援機構は、2021年2月1日に設立された一般社団法人である(ITフリーランス支援機構ウェブサイト)。
フリーランス新法との関係では、上図「労災防止・セーフティネットの拡充」が関係しそうである。
(2) ITフリーランスに関する受発注の関係
ITフリーランス支援機構によれば、この関係は大きく2つ、つまり発注者からの直接契約か、あるいは発注者がエージェント等を通じて再委託するかにわかれる。
※なぜ上図で「※今回は類型4について主に説明」とあり、再委託を行う立場からの記載が多いのか不思議に思っていたが、ITフリーランス支援機構が主にエージェント企業の集まりだからであった。
フリーランス新法において、「再委託」について明示的に定めているのは報酬に関する第4条のみであり、ITフリーランス支援機構が懸念する出産育児等への配慮義務、ハラスメント対応体制の構築や中途解約に関しては対応が困難になることが予想されるため、少なくともエージェント類型の場合、「元委託者」がフリーランスにとっての実質的な委託元(特定業務委託事業者)であるとして、指針や指導等を通じて適切なコントロールを図る必要があろう。
«出産育児等への配慮義務に関する懸念»
«ハラスメント対応体制の構築に関する懸念»
«中途解約に関する懸念»
(3) ITフリーランス支援機構からの要望
具体的な要望は特になし。
スポーツユニオン
スポーツユニオンは、2018年3月13日に設立された一般社団法人である(スポーツユニオンウェブサイト)。
活動内容は以下の6つであるとされている(同上)。
スポーツ&ヘルスケア産業で働く人材の環境整備支援
スポーツ&ヘルスケア業界における働き方改革の推進
スポーツ&ヘルスケア産業の持続的成長の実現
スポーツ&ヘルスケア業界全体の価値向上
国民のヘルスリテラシー向上
上記に附帯する一切の活動
フリーランス新法との関係では、上記1や2が関係しそうである。
どういう人がスポーツやヘルスケアの分野におけるフリーランスかというと、スポーツトレーナー、スポーツコーチ、ボディケア、アスリートにわかれるそうな(本会議資料3・4頁)。あまりピンとこなかったが、スポーツトレーナーなどもフリーランスなのかと勉強になった。
そうすると、発注者としては、スポーツクラブ、トレーニングジム、医療機関(リハビリ施設)などが多いそうである(本会議資料3・5頁)。
要望?としては次のようなものがあるようである。
全国建設労働組合総連合
全国建設労働組合総連合(全建総連)は、1960年設立の労働組合(産業別労働組合)とのことである(全建総連ウェブサイト、本会議資料4・1頁)。
フリーランス新法への意見として、総論としては、次のとおりとのこと。
各論的には、募集情報の表示、ハラスメント、出産育児等の配慮、中途解約等につき、現場では課題があるとの問題提起があった(本会議資料4・2頁)。
以上
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