【マイナンバー関連】「口座登録法」/「口座管理法」の金融機関関係の施行規則案パブコメ開始(12/12まで)①口座登録法編

本稿のねらい


2023年11月13日、デジタル庁は、次の2つのデジタル庁令(施行規則)のパブコメ(本パブコメ)を開始した。

1.公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律(口座登録法)施行規則の一部を改正する庁令案等(本案①

2.預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律(口座管理法)施行規則案等(本案②

このうち、預貯金口座情報(口座番号等)をマイナンバーと共に予めデジタル庁に登録しておくことで、所定の給付金等の申請時に口座情報等の記載や口座情報の確認作業が不要になるなど、国・国民共にメリットのある制度を構築する口座登録法は、既に一部施行されている。

預貯金口座の情報をマイナンバーとともに事前に国(デジタル庁)に登録しておくことにより、今後の緊急時の給付金等の申請において、申請書への口座情報の記載や通帳の写し等の添付、行政機関における口座情報の確認作業等が不要になります。

口座情報は、緊急時の給付金のほか、年金、児童手当、所得税の還付金等、幅広い給付金等の支給事務に利用することができます。

デジタル庁「公金受取口座登録制度
デジタル庁「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」
本WG第7回資料12頁
※色付き文字・囲いは筆者挿入・追記

本件の口座登録法関連の施行規則改正(本案1)は、上図青い囲いの金融機関経由の登録等に関する内容である。

(委託)
第8条 内閣総理大臣は、第3条第2項の申請、第4条第2項の申請、第6条第1項の規定による届出又は前条第1項の申請の受付に関する事務の一部を金融機関に委託するものとする。
 金融機関は、他の法律の規定にかかわらず、前項の規定による委託を受け、当該事務を行うことができる。
 第1項の規定による委託を受けた金融機関の役員若しくは職員又はこれらの者であった者は、その委託を受けた事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。

口座登録法(未施行部分)

また、口座管理法は、預貯金者の意思に基づき金融機関の預貯金口座にマイナンバーを付番し、災害時や相続発生時に、預貯金者やその相続人からの求めに応じて預金保険機構(預保)がマイナンバーで当該預貯金者の預貯金口座を特定し、当該預貯金口座の情報を提供可能にする制度を構築するものだが、現時点では完全に未施行である(2024年5月までには施行)。

本件の口座管理法関連の施行規則の制定等(本案2)は、口座管理法の施行に向けたものと考えられる。

なお、これら金融機関関連の施行が口座登録法や口座管理法の成立・公布から相当期間を要するのは、預保や金融機関におけるシステム改修が相応に必要であるなどの事情があるためである。

本稿では、これら口座登録法施行規則の改定(本案①)にかかる本パブコメの概要と疑問点を説明し、次の記事で口座管理法施行規則の制定(本案②)にかかる本パブコメの内容を説明することとする。

その後、2023年6月2日に成立し同月9日に公布された「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律」(マイナンバー法改正法)の説明を行うこととする。

なお、デジタル庁に設置された「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」(本WG)や以前紹介した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」において、マイナンバーカードを「デジタル社会のパスポート」と位置付け、それを起点に官民双方の利便性を向上させると共に、様々な課題を解決することが検討されており、公的個人認証サービス以外にもマイナンバーカード関連では今後の議論の動きが見逃せないものになりつつある。

本WG第8回資料4頁
本WG第8回資料7頁

本案①の概要


本案①は、上記のとおり金融機関経由での預貯金口座の登録等にかかる手続の細則を定めるものとなっており、口座登録法施行規則に第4条の2から第4条の11までを追加することを提案するものである。

※ 以下では未だ口座登録法施行規則となっていない本案①の条項も単に「口座登録法施行規則第●条」などと記すため留意

本案①で追加提案されている全10条のうち、9条分が本人確認関係の内容となっており、ざっと見た印象では犯罪収益移転防止法(犯収法)やマイナンバー法の「本人確認」の規律に近いと感じた(当然といえば当然か)。

以下では、本案①を次の6つのパートに分けて順に概説する。

  1. 金融機関に対する申請等の提出

  2. 本人確認

  3. 本人確認方法・本人確認書類

  4. 本人確認の特例

  5. 確認記録の作成・保存

  6. 代理人等の規律


(1) 金融機関に対する申請等の提出

金融機関に対する申請等の提出は、内閣総理大臣(デジタル庁)に対して行う登録等の申請(口座登録法第3条、同法施行規則第3条)と似通ってはいるものの、1点決定的に異なる点がある。つまり、内閣総理大臣(デジタル庁)に対する登録等の申請はすべてオンラインで行う必要があるのに対し、金融機関に対する申請等は書面の余地が残されている点である。

要するに、オンラインで完結できず、かつ、マイナンバー法改正法による「行政機関等経由登録の特例制度」(改正後口座登録法第5条の2【未施行】)でも登録ができないような面倒な層の相手はすべて金融機関に委ねるということである。(いい迷惑である)

なお、現時点では国税庁長官のみが指定されている登録の特例(口座登録法第5条第1項、同法施行規則第9条)における同意の取得手続も「書面又は電子情報処理組織」により行うとされているが(同第10条)、書面とは確定申告書のことであり、電子情報処理組織とはマイナポータルのことであるため(デジタル庁「よくある質問:所得税の確定申告手続における登録について」)、確定申告をしない給与や年金のみの受給者で、かつ、マイナポータルが利用できない層の相手は、やはり金融機関に委ねることになる。

(金融機関に対する申請書等の提出)
第4条の2
 第3条に規定するもののほか、預貯金者は、法第3条第2項の申請等について、法第8条の規定に基づき内閣総理大臣の委託を受けた金融機関に、第3条第2項各号に掲げる事項を記載した申請書又は届出書(以下「申請書等」という。)を書面又は電子情報処理組織を使用する方法により提出して行うことができる。
2 前項の申請書等の提出を受けた金融機関は、法第12条第2項に規定する電子情報処理組織を使用して、当該申請書等に記載された事項を内閣総理大臣に通知するものとする。

本案

(預金保険機構の業務の特例)
第12条 預金保険機構は、預金保険法第34条に規定する業務のほか、第1条の目的を達成するため、次の業務を行う。
 (略)
 内閣総理大臣の委託を受けて、第3条第2項の申請、第4条第2項の申請、第6条第1項の規定による届出又は第7条第1項の申請(前号に規定する金融機関が受付に関する事務を行ったものに限る。)をした者の個人番号の確認を行うこと。
 (略)
 預金保険機構は、内閣府令・デジタル庁令・財務省令で定めるところにより、前項の規定による業務を電子情報処理組織(預金保険機構の使用に係る電子計算機(磁気ディスク及び入出力装置を含む。以下この項において同じ。)と内閣総理大臣又は前項第1号に規定する金融機関の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。)によって取り扱うものとする。

口座登録法(未施行部分)

(2) 本人確認

【原則】

  • 預貯金者の本人確認が必要(口座登録法施行規則第4条の3第1項本文)

  • 預貯金者の代理人等が口座登録の申請等の任に当たる場合、当該預貯金者の本人確認のほか、代理人等の本人確認も必要(同条第3項)

(金融機関による本人確認)
第4条の3
 金融機関は、前条による申請書等の提出を受ける場合には、次条で定める方法により、法第3条第2項の申請等を行った預貯金者が本人であることを確認するため、本人特定事項(氏名、住所及び生年月日をいう。以下同じ。)の確認(以下「本人確認」という。)を行うものとする。
(但書略)
3 金融機関は、預貯金者の本人確認を行う場合において、当該預貯金者の同居の親族又は法定代理人が法第3条第2項の申請等を行うときその他の当該金融機関との間で現に法第3条第2項の申請等の任に当たっている個人が当該預貯金者と異なるときは、当該預貯金者の本人確認に加え、当該現に法第3条第2項の申請等の任に当たっている個人(以下「代理人等」という。)についても、本人確認を行うものとする

本案①

【例外】

本人確認不要となる例外的なパターンは次の2通りである(口座登録法施行規則第4条の3第2項、同第4条の8)。

  • 口座登録法施行規則第4条の6に定める方法により既に本人確認済みであることを確認した申請等についての本人確認は不要(同第4条の3第1項但書、同条第2項)⇠解釈に疑義あり/趣旨不明

  • 確認記録に相当する記録の作成・保存をしている場合において、本人確認に相当する確認を行っている預貯金者等について、口座登録法施行規則第4条の6に定める方法に相当する方法により既に本人確認済みであることを確認し、その記録を確認記録として保存する方法をとれば、それをもって本人確認を行ったことになる(同第4条の8)⇠基本はこれ!?

本案①における「本人確認」とは、口座登録法施行規則第4条の3第1項本文に定義が置かれているが、その定義に疑義がある。

つまり、同条項では「金融機関は、前条による申請書等の提出を受ける場合には、次条で定める方法により、法第3条第2項の申請等を行った預貯金者が本人であることを確認するため、本人特定事項(氏名、住所及び生年月日をいう。以下同じ。)の確認(以下「本人確認」という。)を行うものとする。ただし、本人確認済みの預貯金者の法第3条第2項の申請等については、本人確認を行うことを要しない。」と定めるが、ここでいう「本人確認」が次の2つのいずれの意味なのかがよくわからない。

  • 本人特定事項(氏名、住所及び生年月日)の確認

  • 次条(口座登録法施行規則第4条の4)で定める方法による、本人特定事項(氏名、住所及び生年月日)の確認

要するに、本人確認、つまり本人特定事項の確認の方法に限定があるかないかが不明確と思われる。

通常、口座登録法施行規則第4条の3第1項本文のように、「本人特定事項…の確認(以下「本人確認」という。)」である以上、前者の意味、つまり本人特定事項の確認の方法を限定しない意味であると思われる。

しかし、次の点から、後者の意味、つまり本人特定事項の確認の方法を限定する意味だと解さざるを得ないと思われる。

  • 口座登録法施行規則第4条の4柱書は「本人確認の方法は、次の各号に掲げる方法のいずれかとする」と規定していること

  • 本人確認を不要とする口座登録法施行規則第4条の6の方法における確認記録の定義について「金融機関が本人確認を行った場合において直ちに、第4条の10第1項各号に掲げる方法のいずれかにより作成する第4条の11第1項各号に掲げる事項に関する記録をいう…)」とされており(同第4条の3第2項第1号)、口座登録法施行規則に沿った確認記録が要求されていること

そのため、金融機関が口座登録法施行規則に沿った本人確認を実施し、かつ、その内容等につき確認記録を作成・保存していなければ、仮に金融機関が別の場面(例えば犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認〔同法第4条第1項第1号〕)において「本人確認」を実施していたとしても、口座登録法施行規則第4条の3第2項による「本人確認」を不要とする効果を得られないと思われる。

したがって、口座登録法施行規則に沿った本人確認が実施され、かつ、確認記録が作成・保存されている場合は同第4条の3第2項第3号により、改めての本人確認は不要となり、別の場面において本人確認が実施されていた場合は、同第4条の8第1項により口座登録法施行規則に沿った本人確認を実施したことになると整理することになる。

この点、金融機関が預金口座を開設する場合、少なくとも本人確認法施行以後は必ず本人確認を実施しているはずであり、多くの場合、口座登録法施行規則第4条の8第1項により処理されることになる。

口座登録法施行規則第4条の3第2項第3号で処理しなければならないのは、本人確認法や犯罪収益移転防止法による本人確認や取引時確認未了先であり、かつ、一度以上は口座登録法に基づく口座登録を行っており、それを変更するような場合だろうか。

(金融機関による本人確認)
第4条の3
 (本文略)
ただし、本人確認済みの預貯金者の法第3条第2項の申請等については、本人確認を行うことを要しない。
2 前項に規定する「本人確認済みの預貯金者の法第3条第2項の申請等」とは、次に掲げる場合における預貯金者による法第3条第2項の申請等であって、金融機関が第4条の6に規定する方法により当該預貯金者について既に本人確認を行っていることを確認した法第3条第2項の申請等をいう。
一 当該金融機関が他の金融機関に委託して前条による申請書等の提出を受ける場合において、当該他の金融機関が預貯金者について既に本人確認を行っており、かつ、当該本人確認について確認記録(金融機関が本人確認を行った場合において直ちに、第4条の10第1項各号に掲げる方法のいずれかにより作成する第4条の11第1項各号に掲げる事項に関する記録をいう。以下同じ。)を保存している場合
二 当該金融機関が合併、事業譲渡その他これらに準ずるものにより他の金融機関の事業を承継する場合において、当該他の金融機関が預貯金者について既に本人確認を行っており、かつ、当該金融機関に対して、当該本人確認に係る確認記録を引き継ぎ、当該金融機関が当該確認記録を保存している場合
三 当該金融機関が預貯金者について既に本人確認を行っており、かつ、当該本人確認に係る確認記録を保存している場合

本案①※犯収法の規律と同様

(預貯金者について既に本人確認を行っていることを確認する方法)
第4条の6
 預貯金者について既に本人確認を行っていることを確認する方法は、金融機関が次の各号のいずれかにより預貯金者が確認記録に記録されている預貯金者と同一であることを確認する方法とする。
一 預貯金通帳その他の預貯金者が確認記録に記録されている預貯金者と同一であることを示す書類その他の物の提示又は送付を受けること。
二 預貯金者しか知り得ない事項その他の預貯金者が確認記録に記録されている預貯金者と同一であることを示す事項の申告を受けること。
2 前項の規定にかかわらず、金融機関は、預貯金者又は代理人等と面識がある場合その他の預貯金者が確認記録に記録されている預貯金者と同一であることが明らかな場合は、当該預貯金者が確認記録に記録されている預貯金者と同一であることを確認したものとすることができる。

本案①※犯収法の規律と同様

(本人確認の方法の特例)
第4条の8
 金融機関は、本人確認に相当する確認(当該確認について確認記録に相当する記録の作成及び保存をしている場合におけるものに限る。)を行っている預貯金者又は代理人等については、第4条の6に規定する方法に相当する方法により既に当該確認を行っていることを確認するとともに、当該記録を確認記録として保存する方法により本人確認を行うことができる。

本案①

【参考】犯罪収益移転防止法関連

(既に確認を行っている顧客等との取引に準ずる取引等)
第13条 法第4条第3項に規定する顧客等との取引に準ずるものとして政令で定める取引は、次の各号のいずれかに該当する取引とする。
 当該特定事業者(法第2条第2項第1号から第38号まで及び第40号に掲げる特定事業者に限る。以下この号において同じ。)が他の特定事業者に委託して行う第7条第1項第1号又は第3号に定める取引であって、当該他の特定事業者が他の取引の際に既に取引時確認(当該他の特定事業者が当該取引時確認について法第6条の規定による確認記録(同条第1項に規定する確認記録をいう。次号において同じ。)の作成及び保存をしている場合におけるものに限る。)を行っている顧客等との間で行うもの
 当該特定事業者が合併、事業譲渡その他これらに準ずるものにより他の特定事業者の事業を承継した場合における当該他の特定事業者が他の取引の際に既に取引時確認を行っている顧客等との間で行う取引(当該他の特定事業者が当該特定事業者に対し当該取引時確認について法第6条第1項の規定により作成した確認記録を引き継ぎ、当該特定事業者が当該確認記録の保存をしている場合におけるものに限る。)
 法第4条第3項に規定する政令で定めるものは、当該特定事業者(前項第1号に掲げる取引にあっては、同号に規定する他の特定事業者)が、主務省令で定めるところにより、その顧客等が既に取引時確認を行っている顧客等であることを確かめる措置をとった取引(当該取引の相手方が当該取引時確認に係る顧客等又は代表者等になりすましている疑いがあるもの、当該取引時確認が行われた際に当該取引時確認に係る事項を偽っていた疑いがある顧客等(その代表者等が当該事項を偽っていた疑いがある顧客等を含む。)との間で行うもの、疑わしい取引その他の顧客管理を行う上で特別の注意を要するものとして主務省令で定めるものを除く。)とする。

犯罪収益移転防止法施行令

(顧客等について既に取引時確認を行っていることを確認する方法)
第16条 令第13条第2項に規定する主務省令で定める方法は、次の各号に掲げることのいずれかにより顧客等(中略)が確認記録に記録されている顧客等と同一であることを確認するとともに、当該確認を行った取引に係る第24条第1号から第3号までに掲げる事項を記録し、当該記録を当該取引の行われた日から7年間保存する方法とする。
 預貯金通帳その他の顧客等が確認記録に記録されている顧客等と同一であることを示す書類その他の物の提示又は送付を受けること。
 顧客等しか知り得ない事項その他の顧客等が確認記録に記録されている顧客等と同一であることを示す事項の申告を受けること。
 前項の規定にかかわらず、特定事業者は、顧客等又は代表者等と面識がある場合その他の顧客等が確認記録に記録されている顧客等と同一であることが明らかな場合は、当該顧客等が確認記録に記録されている顧客等と同一であることを確認したものとすることができる。

犯罪収益移転防止法施行規則

(3) 本人確認方法・本人確認書類

内閣総理大臣が行う本人確認は、内閣総理大臣が適当と認める方法で行うことができるとされているのに対し(口座登録法施行規則第4条)、金融機関が行う本人確認は、口座登録法施行規則第4条の4で定める方法により行う必要があるとされている点で異なる。

(電子情報処理組織による申請又は届出)
第4条 内閣総理大臣は、前条による法第3条第2項の申請等を受ける場合には、内閣総理大臣が適当と認める方法により、前条の電子情報処理組織に電気通信回線で接続した電子計算機を使用する者が当該法第3条第2項の申請等を行う者であることを確認しなければならない。

本案①※太字部分の改正が予定されている

とはいえ、口座登録法施行規則第4条の4で定める方法は、金融機関が嫌というほど対応している犯罪収益移転防止法施行規則第6条の本人確認の方法とほぼ同じであり、目新しさはない。

<参考>オンライン完結〜いわゆるeKYC〜

また、口座登録法施行規則第4条の5で定める本人確認書類も、犯罪収益移転防止法第7条の本人確認書類とほぼ同じである。

三井住友銀行ウェブサイト

(4) 本人確認の特例

上記のとおり、口座登録法施行規則第4条の3第2項第1号で定義されている確認記録に相当する記録の作成・保存をしている場合において、(おそらく同第4条の4の方法による)本人確認に相当する確認を行っている預貯金者等について、同第4条の6に定める方法に相当する方法により既に本人確認済みであることを確認し、その記録を確認記録として保存する方法をとれば、それをもって本人確認を行ったことになるとされている(同第4条の8)。

その特例が、むしろ多くの金融機関にとっての原則形となると思われることも上記のとおりである。

この特例のポイントは、次の太字部分であると思われる。

(本人確認の方法の特例)
第4条の8
 金融機関は、本人確認に相当する確認(当該確認について確認記録に相当する記録の作成及び保存をしている場合におけるものに限る。)を行っている預貯金者又は代理人等については、第4条の6に規定する方法に相当する方法により既に当該確認を行っていることを確認するとともに、当該記録を確認記録として保存する方法により本人確認を行うことができる。

本案①

つまり、もし上記太字部分の「当該記録を確認記録として保存する方法により本人確認」を行うことができなければ、金融機関は、犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認の記録(同法第6条、同法施行規則第19条・第20条)のほか、同様の事項を記録する口座登録法施行規則第4条の9・第4条の10の確認記録をも別途作成・保存しなければならないことになる。

この規定により、既に犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認かつ確認記録の作成・保存済みの預貯金者に関しては、改めて、口座登録法施行規則に基づく本人確認や確認記録の作成・保存は不要となる。

(5) 確認記録の作成・保存

これも基本的には犯罪収益移転防止法第6条、同法施行規則第19条・第20条と同じ規律となっている(口座登録法施行規則第4条の9、第4条の10、第4条の11)。

(6) 代理人等の規律

これも基本的には犯罪収益移転防止法第4条第5項、同法施行規則第12条第5項と同じ規律となっている(口座登録法施行規則第4条の7、第4条の8第2項)。

本案①への疑問


【疑問】

番号確認に関する規律は不要か?

【理由】

マイナンバー法第16条は、個人番号利用事務等実施者(同法第12条に定義)が付番者から個人番号の提供を受ける場合、券面に個人番号が記載された個人番号カード(マイナンバーカードのこと)の提示を受けるか、その他政令で定める措置を講じる必要があると定めている。

(本人確認の措置)
第16条 個人番号利用事務等実施者は、第14条第1項の規定により本人から個人番号の提供を受けるときは、当該提供をする者から個人番号カードの提示を受けることその他その者が本人であることを確認するための措置として政令で定める措置をとらなければならない。

マイナンバー法

このマイナンバー法第16条の規定は、一般に、「番号確認」と「本人確認」の2つの措置を講じる必要性について定めたものと理解されている。

つまり、付番者から個人番号の提供を受ける場合、その付番者が本人である必要があるのはもちろんだが(Authorityの問題)、それ以上に、提供を受ける個人番号が当該付番者に付番された番号と一致するのかどうかが重要である。

そのため、本人確認はもちろん、番号確認を行う必要があるとされている。

この2つの要請を満たすため、マイナンバー法では、大きく次の3つの方法が示されている。

  1. マイナンバーカードの提示(番号確認+本人確認)

  2. 住民票の写しの提示(番号確認)+顔写真付き本人確認書類(本人確認)

  3. その他

デジタル庁「リーフレット

<参考>国税庁関係 ※より詳細な情報はこちら

国税庁ウェブサイト

いずれにせよ、マイナンバー法第14条第1項の規定により個人番号の提供を受ける場合は、本人確認のほかに番号確認も必要であるが、本案①は専ら本人確認に焦点を当てており、番号確認については一切触れられていない。

(提供の要求)
第14条 個人番号利用事務等実施者(中略)は、個人番号利用事務等を処理するために必要があるときは、本人又は他の個人番号利用事務等実施者に対し個人番号の提供を求めることができる。
 (略)

マイナンバー法

ここで「個人番号利用事務等実施者」とは、「個人番号利用事務実施者及び個人番号関係事務実施者」(マイナンバー法第12条)、「個人番号利用事務実施者」は「個人番号利用事務を処理する者及び個人番号利用事務の全部又は一部の委託を受けた者」(同法第2条第12項)、「個人番号関係事務実施者」は「個人番号関係事務を処理する者及び個人番号関係事務の全部又は一部の委託を受けた者」(同条第13項)のことである。

また、「個人番号利用事務等」とは、「個人番号利用事務又は個人番号関係事務」のことであり(マイナンバー法第10条第1項)、それぞれ次の意味である。

個人番号利用事務とは、主として、行政機関等が、社会保障、税、災害対策その他の行政分野に関する特定の事務において、保有している個人情報の検索、管理のために個人番号を利用することをいう。

個人情報保護委員会「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」13頁

およそ従業員等を有する全ての事業者が個人番号を取り扱うこととなるのが個人番号関係事務である。具体的には、事業者が、法令に基づき、従業員等の個人番号を給与所得の源泉徴収票、支払調書、健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届等の書類に記載して、行政機関等及び健康保険組合等に提出する事務である。
行政機関等及び健康保険組合等の個人番号利用事務実施者は、このようにして提出された書類等に記載されている特定個人情報を利用して、社会保障、税、災害対策その他の行政分野に関する特定の事務を行うこととなる。

個人情報保護委員会「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」13頁
※本来国等が自ら行うべきの税・社会保障等の事務の片棒を担ぐこと

(定義)
第2条 
10 この法律において「個人番号利用事務」とは、行政機関、地方公共団体、独立行政法人等その他の行政事務を処理する者第9条第1項から第3項までの規定によりその保有する特定個人情報ファイルにおいて個人情報を効率的に検索し、及び管理するために必要な限度で個人番号を利用して処理する事務をいう。
11 この法律において「個人番号関係事務」とは、第9条第4項の規定により個人番号利用事務に関して行われる他人の個人番号を必要な限度で利用して行う事務をいう。

マイナンバー法

金融機関が口座管理法第8条第1項により内閣総理大臣から口座登録にかかる申請等の事務を受託する場合、マイナンバー法にいう個人番号利用事務と個人番号関係事務のいずれに該当するだろうか。

(委託)
第8条
内閣総理大臣は、第3条第2項の申請、第4条第2項の申請、第6条第1項の規定による届出又は前条第1項の申請の受付に関する事務の一部を金融機関に委託するものとする。

再掲・口座登録法(未施行部分)

それは、個人番号利用事務(マイナンバー法第9条第1項)に該当すると考えられる。口座登録法に基づく口座登録(同法第3条)などは別表第一により内閣総理大臣が行うべき事務とされており、その内閣総理大臣の委託を受けて金融機関が当該事務を行うためである。

(利用範囲)
第9条 別表第一の上欄に掲げる行政機関、地方公共団体、独立行政法人等その他の行政事務を処理する者(法令の規定により同表の下欄に掲げる事務の全部又は一部を行うこととされている者がある場合にあっては、その者を含む。第4項において同じ。)は、同表の下欄に掲げる事務の処理に関して保有する特定個人情報ファイルにおいて個人情報を効率的に検索し、及び管理するために必要な限度で個人番号を利用することができる。当該事務の全部又は一部の委託を受けた者も、同様とする
 (略)※地方自治体関係
 (略)※法務大臣関係
 健康保険法…第48条若しくは第197条第1項、相続税法…第59条第1項、第3項若しくは第4項、厚生年金保険法…第27条、第29条第3項若しくは第98条第1項、租税特別措置法…第9条の4の2第2項、第29条の2第6項若しくは第7項、第37条の11の3第7項、第37条の14第34項、第70条の2の2第19項若しくは第70条の2の3第16項、国税通則法…第74条の13の2若しくは第74条の13の3、所得税法…第225条から第228条の3の2まで、雇用保険法…第7条又は内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律…第4条第1項若しくは第4条の3第1項その他の法令又は条例の規定により、別表第一の上欄に掲げる行政機関、地方公共団体、独立行政法人等その他の行政事務を処理する者又は地方公共団体の長その他の執行機関による第一項又は第二項に規定する事務の処理に関して必要とされる他人の個人番号を記載した書面の提出その他の他人の個人番号を利用した事務を行うものとされた者は、当該事務を行うために必要な限度で個人番号を利用することができる。当該事務の全部又は一部の委託を受けた者も、同様とする。

マイナンバー法

別表第一
100 内閣総理大臣

公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律(令和3年法律第38号)による公的給付支給等口座登録簿への登録に関する事務であって主務省令で定めるもの

マイナンバー法

第73条 法別表第一の100の項の主務省令で定める事務は、次のとおりとする。
 公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律(令和3年法律第38号)第3条の公的給付支給等口座登録簿への登録に関する事務
 公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律第4条の公的給付支給等口座登録簿の変更の登録に関する事務
 公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律第5条の公的給付支給等口座登録簿の登録の特例等に関する事務
 公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律第6条の公的給付支給等口座登録簿の修正又は訂正に関する事務

行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律別表第一の主務省令で定める事務を定める命令

そうすると、個人番号利用事務実施者(マイナンバー法第2条第12項)としての金融機関は、同法第16条等に基づく番号確認と本人確認が必要になるのではないだろうか。

その本人確認の部分について、口座登録法施行規則において特例的な内容を設けたということはいえるかもしれないが(マイナンバー法と口座登録法の間で優劣関係はあるのか!?)、番号確認についてはマイナンバー法に沿った方法や確認書類で行う必要があるということだろうか。

現時点で、口座登録法の一部は既に施行されているが、同法や同法施行規則において番号確認の手当はされていない。

口座登録法における口座登録の原則形であるマイナポータル方式(同法第3条第2項、同法施行規則第4条)では確実にマイナンバーカードが必要となること、また特例に当たる国税庁方式(確定申告方式)(同法第5条、同法施行規則第10条)でも確定申告書の場合はマイナンバー法第16条等に基づく対応がなされており、e-Taxの場合はマイナポータル方式と同様マイナンバーカードが必要であることから、特段、番号確認の問題が生じないだけである。

国税庁「お知らせ

以上


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?