抑止論がなぜ失敗するのか

抑止論とは、昨今の国防論において最も主流な考え方であり、簡単に言うと「攻めてきたら痛い目に会うぞ」と相手に思わせることによって、侵略を防ぐというものです。確かに一見論理的に聞こえる考え方ですが、この抑止論が戦争を防ぐどころか、かえって抑止論こそが戦争の原因になっていることは、歴史を見ると明らかです。この記事では抑止論がなぜうまくいかないのかを説明していきます。

戦争に最も使われる言い訳が「国防」

まず話の大前提を確認する必要があります。グローバル化が進んだ近代では、領土獲得のメリットより国際的孤立のデメリットの方が大きく、領土的野心による侵略戦争はほとんどありません。仮に領土的野心を持っていたとしても、国際的に孤立しないために何かしらの「言い訳」を用意する必要があります。

しかし、その「言い訳」も適当に作ればよいというわけではなく、誰もが納得する形にしなければなりません。そうでなければ、国際的信用度以前にそもそも何十万もの国民を軍隊として殺し合いに送ることはできません。

それではその「言い訳」ですが、近代戦争のほぼすべてが「国を守るため」に行われています。今回のウクライナ戦争が最も分かりやすい例です。プーチンの真意は彼のみが知ることになりますが、少なくとも戦争の大義として「ロシア民族をネオナチから守るため」「NATOの脅威からロシアを守るため」という理由でウクライナに戦争をしかけました。

これが抑止論と何の関係があるのか?と思われるでしょうが、実は抑止論がすべての元凶です。ソ連時代の弾圧の記憶、マイダン革命以降のロシア系住民との紛争などがあり、ロシアの軍事介入を脅威に感じたウクライナは「抑止力」としてNATO加盟の意向を示しました。そして、それに脅威を感じたロシアも「抑止力」としてウクライナに軍事的圧力を強めていきました。最後は煮えを切らしたプーチンがついに行動に出てしまったのです。

戦争はどのようにして起こるのか

イラク戦争とウクライナ戦争には共通点があります。それは「予防的攻撃」つまり「やられる前にやれ」というものです。ロシアは一方的にウクライナに侵攻してきたと西側メディアでは話されていますが、アメリカがイラクを攻めた時と同様に、ロシアもウクライナに脅威を感じて出兵したのです。

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