いじめを受けて限界に達し、警察を呼んだ。いじめの中心人物は学校から消え、クラスメイトから恐れられるようになった。しかし、風紀委員や学級委員、生徒会などの美少女から好まれ、興味を持たれた第7話 レインでの電話

 テテテテテン。テテテテテン。

 晴斗のスマートフォンが室内で鳴り響く。場所は晴斗の部屋だ。

 画面には、雫架純と名前が表示される。レインを媒介しての電話だ。

「…まじ…」

 晴斗の顔が点になる。信じらない現実に直面する。

「まさか、あの雫さんから電話? これは現実だよな」

 目の前の出来事を疑い始める。その間にもスマートフォンは電子音を吐き出す。

「とにかく出ないと」

 急いで晴斗は画面に記される応答のボタンをタップする。電話開始のタイマーもほぼ同時に表れる。

「…もしもし…」

 緊張した面持ちで電話に答える。微かに唇も震える。

「おー! 白中か! いきなりすまないな」

 スマートフォンの電話口から架純の肉声が聞こえる。

 凛として落ち着いた声は晴斗の鼓膜を刺激する。耳にしても痛くない声色だ。

「それは構わないけど。…いきなりどうしたの?」

 未だに緊張が取れない。明らかに身体の動きは硬い。まだ架純と会話することに慣れない。

「いや大したことではない。今日借りたラノベに関する雑談をしたくてな。そのために連絡した。もし、面倒臭ければ言ってくれ。すぐに電話を切るぞ」

「い、いや! そんなこと全然ないよ!! ラノベの話か〜。快く受け入れるよ。楽しみだな〜」

 大慌てで、晴斗は架純の言葉を否定する。焦りからか。自然とベッドから立ち上がっていた。無意識の行動だ。

「それはよかった。正直、白中から拒否される未来も少なからず想定していたんだ。電話する前は幾分か不安もあった」

 言葉の調子から嘘偽りは感じない。

(あの雫さんが俺に電話するために緊張する? 不思議だ)

「それにしても、禁著は最高だな! 帰宅して即座に読書に着手した結果、2時間ほどで読破してしまったぞ! 先ほど読み終わったところでもある」

 興奮気味な口調で、架純は近況を述べる、自身の趣味に関する話をすることが楽しくて仕方ないのだろう。

「そ、そうなんだ。俺は禁著はアニメしか見てないから。原作については存じ上げないかな」

 晴斗の脳内には禁著のアニメシーンがフラッシュバックする。禁著は3期までアニメ放送されている。そのため、3期までのアニメシーンに関する記憶を晴斗は保持する。

「是非原作も読んでだ方がいい! あたしも1巻しか読んでいない。だから明日には2巻を借りる予定だ。すべてを読み終わるには先が長いがな」

「そうだね。禁著は確か全部で50巻ほどあるはずだよね?」

「ああそうだな。ラノベにしてはあり得ない数の巻数だ。それと、白中は今日借りた方を読み終わったか?」

 聞かれるであろう問いが投げ掛けられる。これまでの話の展開から平易に推測できた。

「実はまだ1ページも開いてないんだ。貸出期間が2週間あるから」

 正直、少しでも手を付けておけば良かったと後悔した。そうすれば、少しでも本日借りたラノベに関して架純と話の共有ができた。

「そうか。まぁ、ゆっくり読んだ方がいい。読むペースは人それぞれだから。ちなみにあたしは他人よりも読むスピードは早いと思う」

「ははっ。そうだと思うよ。だって俺は2時間でラノベを読破できないもん」

 素直に心から漏れた言葉だ。一体いくら高速で読めばそこまで短時間で読み終わるのだろうか。

「それと1つ聞きたいことがあるんだが。いじめに関する話だ」

 《《いじめ》》といった単語を耳にするだけで、晴斗の嫌な記憶が呼び覚ます。

 愉快に晴斗を痛めつける今泉、岸本、今水の顔が脳内にフラッシュバックする。思い出すだけで不快な気分を呼び起こす。

「…うん」

 数秒の間を意図的に開け、晴斗は返事する。

「白中をいじめていた人物の名字を教えてくれないか? 警察に連行された奴だ。他にも協力者がいるなら複数人の名字を頼む」

(なんでそんなことを聞くんだ? 雫さんには関係ないだろうな)

 架純の意図が読めない。晴斗の頭内にクエッチョンマークが発生する。

「…。今泉、岸本、今水。すべて同じクラスメイトの男子」

 要望通り、晴斗はいじめっ子3人の名前を口で紡ぐ。言語化する度に、怒りと恐怖が入り混じった複雑な感情に支配される。

 その感情は晴斗の胸中で熾烈に渦巻く。

「…そうか。…教えてくれてありがとう」

 お礼を伝えると突然、架純は電話を切る。

 最後の口調はどこか奇妙だった。どことなく普段の架純の声色とは異なり、冷淡さも際立った。

「え!? 雫さん! 雫さん!」

 電話口に対して声を吹き込むが反応はない。

 ツーー。ツーー。
 
 スマートフォーンから電話の切れた音を示す電子音のみ吐き出される。

 もう1度掛け直すか躊躇した。だが、勝手に迷惑になると推量し、行動に移さなかった。

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