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小説「北の街に春風が吹く~ある町の鉄道存廃の話~」第3話-②

第三話 動物園でデートしよう


「ありがとう、大吾。試しに北曙駅からレンタサイクルに乗ってみるよ」

「それにしても、お前んとこのお父さんすっげーよな?」

「えっ? うちの親父?」

大吾が話題を僕の親父に切り替えた。吉田さんのお母さんが駅で言っていたことが思い出された。

「お前の親父さんだろ? 瑠萌線の存続をHRに訴えたっていうのは」

「どういうこと? さっきも彼女のお母さんに同じことを言われて……、俺、全く何も知らないんだけど?」

「お前、親父さんが何をしたのか知らないのか?」

「うん。えっ、いつ頃の話?」

「去年の……、う~ん。正確な月までは覚えてないけど春頃だったよ」

「去年の春……、俺まだその頃は東京だった。確か、旅行に行ったり、バイトしたりしてたから、こっち帰ってこなかったな」

「お前、前にお父さんが役場で働いてるって言ってたろ? 俺、そのこと覚えてて沼太町の石井さんって人が瑠萌線の存続協議会で大演説したって聞いて、たぶんお前の親父さんだろうって思ってたんだ」

「あっ、うん。言ったことあったな。でも大演説って?」

「俺も役場の中で人づてに聞いた話ではあるけど、お前のおやじさんがHRとの交渉で、会議室のドアを開けてどなりこんだって話だぜ」

「やっぱり? やっぱり怒鳴りこんだんだ?」

「だから瑠萌線の廃線問題、会議の前までは深河から瑠萌までを存続したいなら、資金援助をしてくれってHRは言ってたんだ。お前のおやじさんたちは、沿線の人たちと協議会作って反対してたんだ」

「うん。なんかそういう話は漠然とは聞いたことはあったけど……」

「で、その会議に北海道知事の……」

その時、「ねっ、大ちゃんすごいよ! この列車十両もあるよ」

大吾の彼女が帰ってくるなり、はしゃぎながら話を始めた。

「茜ちゃん、……全部の車両を見てきたの?」

「うん、グリーン車もあったけど、すっごい良いシートだったよ。三列しか座席がないの」

「そりゃすごいね。で、茜ちゃん、今俺昔の友達と話してるんで、ちょっと待って……」

「でさ、ちょうど良く座席がふたつ空いてるのよ。今だったらまだ座れるから、行こうよ!」

「茜ちゃん、でも俺、今……」

さっきの凛々しい大吾が彼女の前では、別人のようだ。

「ごめんなさいね。また、いつかお話しましょう!」

大吾の彼女は僕と大吾の会話を勝手に終わらせる。

「おい、大吾! 怒鳴りこんだってはな……しを」

「ごめん、また今度な」

 大吾は彼女に腕をがっちりつかまれて連行されていった。またもや親父が会議室に怒鳴りこんだ話は途中となり、よけいにその会議のことが気になって仕方がなくなった。


つづく


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