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小説「北の街に春風が吹く~ある町の鉄道存廃の話~」第3話-③
第三話 動物園でデートしよう
僕たちは朝日山動物園の最寄り駅である北曙(あけぼの)駅で初めて列車を降りてみた。
念のために朝日川駅では、改札からいったん出てバス乗り場の状況を確認した。大吾が言ってたとおりで、改札を抜けた瞬間から人が今まで以上に多く、なにかのお祭りがあっているようだった。バス乗り場にも長い行列が出来ていて、乗れるまでにはかなり時間がかかりそうだ。しかも、立たないといけない。乗ることはあきらめて再び改札から中に戻った。会員パスだと改札での出入りが自由に出来るのが助かる。
「いいな。私もその会員パス欲しいな」
吉田さんはここまでに、このセリフをすでに五回はつぶやいている。
「初めてこの駅で降りたね」
北曙駅は朝日山動物園の最寄り駅ではあったが、まともな駅舎もなく、誰もが利用していない駅だった。そのため、動物園に行くときはほとんどの人が朝日川駅からバスを利用していた。
ホームから階段を伝って外に出る時になにやら大きな白い半円形のパネルがホームに設置してあることに気付く。ホーム側からは気付かなかったが、階段を降りて後ろを振り返るとそこには嬉しい驚きがあった。
「きゃー、かわいい。何、この駅、シロクマの顔になってる」
そう。僕たちは知らなかったが、この駅舎は外から見ると大きなシロクマの顔のようになっていて、くぐった穴はシロクマの口の部分になっていたのだ。
多くの人がシロクマの前で写真を撮っている。
「ええ? 昔は何もないしょぼい駅舎だったけど、いつの間にこんなの作ったんだ?」
「でも、かわいい。早く写真撮ろう!」
僕たちもシロクマの前で二人が写るように自撮りで撮ってみる。
「これインスタ向きだね」
「動物園への出発点には最高だね」
レンタサイクルの貸出所も併設されていた。動物園は歩いて三十分くらいの距離なので自転車がぴったりだ。走り始めると季節的に風がすごく気持ちいい。こんな風は東京では感じることはなかった。
「サイクリングもたまにはいいね!」
僕と吉田さんは北海道特有のまっすぐなそして平坦な道を、お互いを抜いたり抜かれたりしながら走る。道沿いの電柱には色とりどりの旗が取り付けてあり、動物のシルエットと名前が描かれている。これも動物園にいる動物を紹介するために新しく設置されたのだろう。いくつかの旗には、動物に関するクイズが書かれているのにも気付く。
つづく
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