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小説「北の街に春風が吹く~ある町の鉄道存廃の話~」第4話-②

第四話 存続協議会 その1

「ところで、あかりさんはどうして地元に帰ってきたの? 少し前に役場内で沼太土木はお兄さんが継ぐことになったって話を聞いたこともあるけど」

「あ、はい。それは本当です。でも、うちは土木関係の工事だけじゃなく、鉄道の軌道工事も下請けでやっているんです。兄は道路工事が主ですけど、私は将来、鉄道の仕事をしたいと言ったんです。私も大学で都市工学、昔の土木工学の専攻だったんですけど、やはり環境問題とかが気になって、鉄道をもっと良くしないといけないって思ったんです」

「へぇ、女性で鉄道の工事っていうのも珍しいね」

「吉田さん、駅とか造るの?」

「そうね、あとは線路の保守工事とかやってるわよ。鉄道の工事は専門の資格があるの」

「でも、吉田さん、それだけ鉄道がやりたいって言うけど、この前動物園に列車で行こうって言ったとき、反対したよね。なんかおかしくない。あの時、俺はすごく気を遣って話しをしたんだよ」

「あぁ、あの時? そうね。なぜかしらね? 私は前に言ったように車の運転はあまり好きじゃないけど、列車賃にお金使うくらいなら美味しいものを食べた方が良いって思ったのかな? 結果はオーライだったけど」

「なんか納得いかないけど……」

「いいじゃない? あの時、新しい鉄道のことが知れて良かったわ。やっぱり列車にはお客さんがいっぱい乗っている方が良いってうれしくなったのよ。少しはHRも今からは儲かるようになるんじゃないの?」

「そうだと良いけどね。北海道のローカル線は今まで廃線の危機を迎えていたんだからね。鉄道工事の仕事をあかりさんみたいな女性が目指すってことも驚くけど、いろんな意味で鉄道が変わろうとしてるんだろうね」

「でも、線路の仕事は大変じゃないの?」

「あ、はい。まだ自信もないんですけど……」

「冬はやっぱり除雪作業とかするの?」

「そうね。雪だけは無くならないでしょうからね。今、北海道も気象が激しくなってドカ雪が降るから大変なんです。もっと抜本的な対策を打たないといけないって、みんなが思ってるんだけど、予算は限られているし・・・」

「確かに保線の仕事は大変だと思うけど、あかりさんが圭介と話すのを聞いてても、しっかりしているから大丈夫だって感じますよ」

「ありがとうございます」

「鉄道会社の経営が良くなれば、色々な保線機械も増えて少しは除雪も改善されるとは思うけどね」

「いつ頃から、鉄道の仕事を目指そうと思ったの?」

「そうね、私、……中学生の時、家族でここをトロッコ列車に乗ったことがあって……なんかその思い出もあって、その頃から漠然と鉄道関係の仕事が出来ないかって思ってたんです。その頃は線路の仕事ではなかったんですけどね」

「そうなんだね。確かに瑠萌から足毛までルモッコ号が走ってたよね。うちもまだ圭介が小さいころ乗せたことあるけど、圭介覚えてるか?」

「あ、うん。覚えてる。まだ幼稚園の頃だったけど、楽しかったの覚えてるよ」

僕も子供の頃に、親父が北海道内の色々なところに列車で連れて行ってくれた楽しい思い出がたくさんある。

「なぁ、親父?」

「なんだ?」

「この前は神妙な顔をして答えてくれなかったけど、朝日川に行ったときや、その後も会社の人や、沼太町のもいろんな人から親父の話を聞いたんだ。おやじがHR相手に大演説をしたって。なんか色々なひとから聞いたんで情報が混乱しちゃってるんだけど……、親父がHRの社長に物申したとか、鈴井知事を怒鳴りつけたとか、号泣してお願いをしたとか、人によって話がバラバラで訳が分からないんだけど、正しい話を教えてくれないかな?」

「えっ、俺は鈴井知事を怒鳴りつけたってなってるのか?」

「いや、そうは思ってないけど……、少なくとも鉄道についての提案は親父が考えたことではあるんじゃないの?」

「そうか確かに、おまえにもきちんと話しておかないといけないな。いつかは話そうと思ってたんだ。だから、君たちに一緒に行こうって誘ったんだ」

「えっ? 急に足毛までドライブに行こうって言ったのは、なにか関係があるの?」

「ああ、……俺じゃないんだ。俺は、何もな。ただ、……」

 既に廃線となった線路を左手にずっと見ながら親父はその日のことを話し始めた。

つづく


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