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「(支援員ガチャ)という現実」

さまざまな福祉制度を組み合わせ、駆使しながら暮らしを組み立てている重度障害者にとって、切実な問題がある。

それは、「支援員ガチャ」だ。

親ガチャ、国ガチャ、子ガチャ……「○○ガチャ」という言葉が流行し、現在もなお新たなガチャが生み出されているが、支援員ガチャというのは耳なじみが薄いのではないだろうか。

「障害者の地域生活を支える」という理念に基づき、法改正以降、一定以上の要介護状態に認定された障害者(65歳未満)にはひとりずつ支援員と呼ばれる専門職がつくことになった。

なお、65歳以上になると原則として医療保険から介護保険に切り替わり、支援員ではなくケアマネージャーがプランナーとして派遣されることになる。

正確には、支援員とは「相談支援専門員」のことで、ヘルパー、看護師などの総称として用いられる支援員とは区別されている。

ただ、ここでは慣例的に呼びなれているということで、「支援員=相談支援専門員」の意味で使うことにする。

支援員の主な仕事は以下の通りである。

 介護計画書の作成
 福祉サービスの紹介
 本人及び家族の生活相談

要するに、利用者の暮らし全体を包括的にバックアップしてQOL向上をサポートする……というのが表向きの立て付けのようだ。

基本的には、「生活状況の聞き取り→必要な福祉サービスの整理→介護計画の作成」という流れとなっており、おおよそ半年に一度程度の間隔でヒヤリングが行われ、介護計画が見直されることになっている。

たとえば、通いたいデイサービスがあれば時間調整をしたうえでデイサービス側と交渉を行ってくれたり、利用できるサービスがわからない場合はサービスについてゼロから説明し、利用までつなげたりしてくれる。

支援員ガチャと言うからには、「良い支援員」と「悪い支援員」がいるということだ。

もっと言えば、「当たりはずれ」があるということだ。

まず、「悪い支援員」の特徴について見ていこう。

  1. 対応が遅い

  2. ヒヤリングが雑

  3. 余計なサービスを利用させたがる

1については説明不要だろう。これに関しては、事業所の規模や地域は関係ない。むしろ、都会の大規模な支援センターほど対応が遅く、1枚の書類申請に何カ月も待たされる、というパターンも珍しくはない。

2も1と密接に結びついている。

要するに、忙しすぎるのだ。時間がなさすぎるのである。

ベテランの支援員ともなると、キャリアアップや実績作りのため、ひとりで何十人もの利用者を抱え込んでいるケースも多い。

「担当ケースが多い=有能な支援員」というイメージが未だに根強く残っているのも、その原因だろう。

このような状況では当然、「利用者ひとりひとりの状況を丁寧に把握」などできはしない。ヒヤリングも毎日、分刻みのスケジュールとなり、ヒヤリング以外の時間はほぼ書類作成やケア会議に追われる、という流れになっていく。

さらに多忙で、実績だけを作りたい支援員は自費で雇ったスタッフにヒヤリングや書類作成を任せ、自分は上がってきた書類を軽く修正するだけで管轄の役所に提出する、というシステムを作り上げていたりする。

利用者のほうも本来の支援員と顔を合わせるのは数年に一度だけで、「支援員の名前も性別もよくわからない」というパターンすら珍しくはない。

そのくせ、この手の支援員は不要なサービスばかり利用させたがる。

たとえば、新規にデイサービスを利用させればそれだけで支援員側の点数となり、実績としてカウントされる。また、デイサービス側にも「利用者を斡旋した」ということで面目が立ち、長期的なつながりが生まれる。

日本的に言えば、「持ちつ持たれつ」ということになるだろうか。

悪い支援員ほど「業務効率化」のための算段に長けている。あちこちの福祉施設にコネクションを作り、利用者斡旋のためのネットワークを張りめぐらせている。

デイサービスによっては、支援員の名前がついた「○○枠」を確保しているところも多い。

「あの支援員から紹介された利用者は断れない」というわけだ。

無論、これらの努力はすべて、支援員自身のためであり、利用者のニーズなどはほとんど考えていない。利用者がデイサービスで居心地の悪い思いをしようと、効果の上がらないリハビリをいつまでも続けようと、支援員にとっては「サービスを利用させた」という事実が重要であり、それ以上でも以下でもないのである。

ただし、それは支援員個人の問題とも言い切れない。支援員が必死に実績作りに走る背景には「利用者がそもそも多すぎる」という根源的な背景があり、ここにこそ介護業界全体の病理が隠されている。

あるいは、「担当件数=実績」という現行の評価システムも見直すべきだろう。

支援員も人間である以上、相性の良し悪しが存在するのはある程度やむを得ない。しかしながら、「支援員ガチャ」によって私たち障害者の暮らしが根本から左右され、支配されることは決してあってはならない。

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