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事実は小説より、ドラマがある①

『東京に行ってみたい』
黙ってNHKを観る父にそう話しかけた
『東京は住むところじゃない』
そんな事を言われ会話は終わった。

大学時代、遠く離れた東京に憧れていた。
東京には、
素敵なカフェや今をトキメクアーティスト達がいる。
間違えではないが、それが全てだと、当時の私は純粋に思っていた。

謎に心の中には熱い希望はあるものの、何のキッカケも掴めないまま、時は過ぎていた。

そんな大学生活も残す数ヶ月となった新年1月のある日のこと。

女性ファッション雑誌を眺めていると、
『カリスマ美容師による100人無料カットモデル募集企画!!』
の文字が目に飛び込んできた。

会場は勿論、東京、表参道。
よく分からないけど、私には魅惑の東京行きの切符の様に思えた。
行くしかない。

真面目かつ地元を愛する両親のもと育った私は、なにしろ家族旅行なんて行った事がない。
新幹線の乗り方も、飛行機の乗り方も、切符の買い方さえ知らない。
とりあえず、ドキドキしながらも応募ハガキをポストに投函した。

数日後、現実は動き出した。

投函して間もなく、雑誌編集部より当選及び当日スケジュールについての電話が鳴った。

地元から東京まで、片道半日はかかるが、とにかく無事に行って帰る事が目標。
そもそも当時学生の私には、ホテルを取るとか、観光しようとか、そんな知恵も余裕もお金もなかった。
Googleマップや地下鉄乗り換えアプリなんてものもまだない。
思い付く限りのことはした。
本屋さんで、東京の地図と、『カリスマ美容師』が実在するという表参道の地図を買った。
バイトで貯めた10万満たない全財産を財布に入れて。

当日東京入りする為には、自宅から地元の駅まで送り届けてくれる協力者が必要だ。
家族にバレる訳にはいかない。
唯一伝えたのは、欲がほとんどなく、真面目で素朴な男の子こと、頼れるのはいつも同級生の優男ボーイフレンドだった。
彼は、快く前日から私をかくまってくれ、取り立ての免許と中古の軽自動車アルトで、早朝始発の時間までに駅へ送り届けてくれた。


新幹線に乗り込めたら、こっちのもん。
早くも夢の東京行きは成功に終えれた様な気分だ。

お正月の香りが残る1月、朝6時始発の新幹線。
窓から見える外の景色は、まだまだ静まり返っていた。

同じタイムラインに存在するがパラレルワールドかの様な、まだ見ぬ世界東京へ。

私は不安と期待で一杯だった。

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