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コロナ危機の次は食糧危機

昔から人類の歴史の中で、疫病の後には戦争、そして飢饉が来るというパターンは幾度となく繰り返されてきたわけですが、どうやら21世紀に入ってもそれは変わらないことになりそうです。

▼小麦価格の記録的な高騰

大手肥料メーカーのヤラ・インターナショナルは、ロシアのウクライナ侵攻によって世界的な食糧供給が危うい状態だと警告しています。

ウクライナとロシアは合計で世界の小麦輸出の約29%、トウモロコシ輸出の19%、ひまわり油輸出の80%を占めている。
それだけでなくロシアは窒素肥料の生産に不可欠な天然ガスや原料も輸出。ヤラによると、窒素とカリ、リン酸という肥料の3大原料は欧州向けの25%がロシアから供給されている。

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短期的に見ると、ヨーロッパでの食糧生産に使われる原材料をまかなう調達源はなく、世界の最も恵まれた人々しか十分な食糧を得られなくなる可能性があるというのです。

教科書などでは必ず習う日本の低い食料自給率。その中でもダントツに低いのは小麦であり、約9割は輸入に頼っているというのが現状です。そのため、政府は小麦を安定的に供給するためほぼ全量を買い入れて、製粉会社などに売り渡しています。

その価格は直近の半年間の国際価格を参考に決定されているのですが、昨年アメリカとカナダが干ばつによる不作に見舞われたため、この4月には17.3%の引き上げが決まりました。

ただし、4月の価格改定には、ウクライナ情勢やロシアへの経済制裁の影響を一部しか織り込んでおらず、次回の売り渡し価格が改定される10月にはさらに上昇する可能性があるそうです。

小麦の輸出国ランキングベスト10(FAOSTAT)

▼世界的な肥料不足も起きている

実は、ウクライナ侵攻前の2月はじめからロシア政府は2か月間の「硝酸アンモニウム」の輸出禁止を発表しています。

この硝酸アンモニウムというのは、世界各国では肥料の原料として広く使われているもので、ロシアの輸出量は世界1位、生産量も世界1位。生産量は世界の 3分の2を占めているため、ロシアから多くを輸入している国では、これから大きな影響が出てくるものと思われます。

硝酸アンモニウムと尿素は、世界で最も多く使用されている窒素肥料の主な原料なのですが、昨年11月の時点の韓国での報道では、価格上昇についての懸念が示されていました。

世界のエネルギー、農業、気象に関するデータを扱う企業「DTN」の資料を確認したところ、先月最終週現在の世界の主要肥料メーカーの1トン当たりの尿素の平均価格は751ドルで、9月の最終週の価格(620ドル)から21%上昇した。1年前の昨年10月の価格(358ドル)の2倍を超えており、2012年5月(770ドル)以来9年ぶりの高値だ。

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尿素は主に石炭と天然ガスから抽出したアンモニアを使って製造されています。その2つの原料価格が上昇していることで、尿素の価格も跳ね上がっており、最大の生産国・中国が、国内需要を満たすために輸出制限したこともさらに追い討ちをかけているそうです。

窒素とともに肥料の3大原料に数えられるカリウムとリン酸も価格が急騰している。DTNの資料によると、先月最終週現在のカリウム価格は1トン当たり731ドルで、1カ月前の647ドルから12.9%の上昇。1年前(332ドル)の2.5倍近くに跳ね上がっている。

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また、中国はリン酸についても2022年6月まで輸出を禁止しています。

米国の肥料メーカー「CFインダストリーズ」は、第3四半期の実績発表会で「少なくとも2023年までは国際的に強い肥料需要が続くことから、肥料の量は十分ではない」とし「不足する肥料を確保できなければ、来年は全世界の穀物収穫量が減少するだろう」と述べている。

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世界第2位のトウモロコシ輸出国・ブラジルはロシアからの硝酸アンモニウムの最大の輸入国でもあるため、ウクライナ侵攻直前にボルソナロ大統領がロシアを訪れて、ロシア製肥料の調達など経済的な連携について話し合いを行っていました。

同じように、世界第1位のトウモロコシ輸出国・アメリカでも、肥料価格高騰によるコストの上昇を嫌って春作物の植え付け面積が減るという懸念があるようです。

日本の農業では硝酸アンモニウムは使われていないそうですが、日本に輸出されている農産物は海外からの輸入品が多いわけで、ロシアによる肥料の輸出禁止は、今後の食糧価格に大きな影響を与えることが確実でしょう。

加えて、カリウムとリン酸は日本国内でも広く使われている肥料です。日本と同じコメ生産国であるタイでは、肥料代の高騰によるコメ生産への打撃が予想されていて、タイ農業協会の会長は以下のように主張しています。

「いまや1トンの肥料の方が1トンのコメより高い。政府は介入すべきだ」

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小麦だけでなくコメの価格も高騰となれば、日本人にとっても、かつて冷夏の影響でタイ米を緊急輸入した平成のコメ騒動の再来か、それ以上に危機的な状況になる恐れもあります。

ちなみに、前述の韓国の記事の中で、現代の農業において肥料の果たす役割について触れていたのが印象的でした。

一部の専門家は、窒素系肥料がなかったとしたら世界の人口は現在の半分程度だっただろうと予想する。

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▼食料を買い占めている中国

尿素、リン酸という重要な肥料を輸出禁止としている中国。その一方で、あまり報道されていないことですが、国家をあげて大規模な食料の買い占めを行っていることが報道されています。

米農務省の推計データから、2022年前半(穀物年度、期末)の世界の在庫量に占める中国の割合はトウモロコシが69%、コメは60%、小麦は51%に達する見通しで、いずれも過去10年間で20ポイント前後高まったという。

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中国税関総署によると2020年の食品輸入額(飲料除く)は981億ドル(約10兆円)と、10年間で4.6倍に増えたとされる。5年間で大豆やトウモロコシ、小麦の輸入額が2〜12倍に急増、牛肉や豚肉、乳製品、果物類も2〜5倍に伸びた

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米農務省によるとトウモロコシなど主要穀物の世界在庫量の過半が、世界人口の2割に満たない中国に積み上がっている。中国の巨大な食欲が穀物の高騰や貧困国の飢餓拡大の一因になっているとの見方もある。

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昨年秋、中国商務省が地方政府に対し、冬から春にかけて生活必需品を確実に供給するよう指示。一般家庭に対しても冬の数カ月、非常事態に備えて日用品を備蓄するよう促しました。

この声明に対してネット上では、食料備蓄の要請は台湾への攻撃と関連しているなどと臆測するコメントが相次いだため、国営メディアは食料備蓄の呼び掛けは、コロナ感染拡大で自宅待機を余儀なくされた場合に備えるためだという火消しを行なっています。

また、ウクライナ侵攻後には、複数のメディアで中国での小麦の収穫が「史上最悪」になる見通しが報じられました。

中国の冬小麦の状態は「史上最悪」である可能性があると、中国の農業大臣が3月5日に述べ、世界最大の小麦消費者である中国の穀物供給について懸念を表明した。

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その原因は、2021年の大雨によって通常の小麦作付面積の約3分の1の作付けが遅れたからだと言います。

冬が始まる前に行われた冬小麦の作物の調査で、第一期と第二期の作物量が 20%以上減少したことがわかった。

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日本は中国から小麦の輸入をしていませんが、世界全体の穀物供給が少なくなっている状況の中では、大きな影響につながりかねません。

▼穀物の価格高騰をまとも食らう畜産業

人間にとっても不可欠なカロリー源である穀物ですが、その価格上昇によって確実に大きなダメージを受けるのが「食肉」。家畜を育てるエサが高くなることで畜産業者が窮地に立たされることになります。

ウクライナ情勢を受け小麦やとうもろこしが入ったエサの価格が今後、1トンあたりおよそ5000円値上げされる見通しだといいます。

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一方で、新型コロナの感染拡大による外食や学校給食が減ったことで肉の需要は下がる一方。エサ代の負担が増えても肉の需要が低ければ牛は高く売れず、その分、自分たちがかぶるしかありません。

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記事中で取材された神奈川県・葉山の畜産業者の方は「このままの状態が続けばどんどん畜産業をやめる人が増えてくる」と言います。

食肉を生産するには、エサとなる穀物が不可欠。一般的には、肉1kgを生産するのに牛なら11kg、豚なら7kg、鶏なら4kgの穀物が必要と言われており、いまや世界の穀物の半分は畜産のエサに使われている状態です。

その穀物の供給が激減したらどうなるか・・・?
人間の食べる穀物と優先するか、家畜が食べるエサを優先するか、という話になるのは当然の流れでしょう。

2022年から始まる食料危機では、まず肉から食べれなくなっていきます。いちおう、代替案は提示されていますが。

▼代替肉が躍進する

いわゆる「代替肉」とは、大豆などの植物性タンパクから作られていながらも、本物の肉のような食感味わいが再現された食品。もともと肉魚を食べないベジタリアンや、動物性タンパクを一切摂らないヴィーガンの人たちに好まれています。

こうした代替肉は大きく分けて「植物肉」と「培養肉」の2種類があります。

「植物肉」
大豆、小麦、じゃがいもなどから作られ、フェイクミートとも呼ばれています。

「培養肉」
動物の細胞を培養して作られます。細胞から作られるので家畜を殺す必要がありません。微生物を発酵させてタンパク質を作る方法も研究が進んでいるそうです。

このような代替肉のメリットは、畜産業が放出する温室効果ガスを削減できる事だとされてきましたが、食料危機によって半ば強制的に「リアル・ミート」からの転換が進むことが予想されます。

世界経済フォーラムが2030年までに起こる「グレート・リセット」の中で、肉の消費は最小限にまで抑制されると予測していたように、一般大衆の食事からは本物の肉が消えることになるでしょう。

また、代替肉が普及して畜産肉を上回るシェアを占めることになれば、畜産業で働く人、食肉の流通・販売に関わる人も「リセット」されることになります。

また、代替肉のさらなるオルタナティブとして、「昆虫食」というのも用意されています。イナゴを食べられる人なら抵抗ないのでは?


▼先進国はすべて代替肉に変えるべき

世界的なパンデミックを5年以上も前に予測していた世界最大の慈善事業家であるビル・ゲイツ。彼も代替肉を強力にプロモートしている人物の一人ですが、インタビューの中で食糧問題について以下のように語っています。

豊かな国々の牛肉を100%代替肉に変えるべきです。味にはすぐに慣れますし、時間が経てばもっと美味しくなるはずです

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グリーンプレミアム(代替肉に移行するコスト)は控えめになり、人々の行動を変えたり、需要を変えるルール作りをすることは可能です

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もちろん、エールを送るだけでなく、ゲイツ氏はこうした代替肉メーカーへの投資も怠っていません。代替肉を手掛ける2大メーカー、インポッシブル・フーズとビヨンド・ミートそれぞれに投資しています。

また、投資家としてだけではなく、2021年春にはアメリカ最大の農地所有者になったことも報じられていました。

ゲイツ夫妻は18の州に広大な農地を所有しているという。そして、ゲイツ家が所有する最も広い農地があるのはルイジアナ州(6万9071エーカー、約280平方km)で、そのほか、アーカンソー州(4万7927エーカー、約194平方km)、ネブラスカ州(2万588エーカー、約83平方km)などにあると報じている。

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ゲイツ氏がそこまでたくさんの農場を買っている意図は不明だそうですが、彼の農場で作られている作物はニンジン、大豆、米、玉ねぎ、イモ、綿花など。なんだか普通・・・に思えますが、先を見通すのが得意なゲイツ氏なので、これから高騰する作物なのかもしれませんね。

ちなみに以下の記事によると、マクドナルド用のジャガイモも作っているのだそうです。

そして、ビル・ゲイツ氏と言えば、新型コロナウィルスをはじめとしたワクチン開発への支援で有名ですが、代替肉を製造する技術を応用することで、レタスやほうれん草などの野菜にコロナワクチンを注入した遺伝子組み換え野菜も作ることが可能だそうです。

カリフォルニア大学リバーサイド校・植物学部のジラルド教授によれば、

「レタス1本で人間1人に必要なワクチンを生み出せる。レタスの葉にメッセンジャーRNA細胞が含まれているため、これを食べればワクチンを接種したのと同じ効果が期待できる」。

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ファイザーやモデルナのワクチンに使われるmRNAの溶液を野菜に移植することで、日常的なコロナ感染対策が可能になるというのです。

この技術は上述のレタスやほうれん草だけでなく様々な野菜にも適用できるそうで、ジラルド教授は大規模な農家にも恩恵をもたらすことになるだろう、と予測しています。

▼食料自給率37%の日本はどうなるか

世界的に見ても、日本の食料自給率(カロリーベース)は極端に低い部類にありまして、2018年のデータになりますが主要な先進国では以下のようになっています。

カナダ 266%
オーストラリア 200%
アメリカ 132%
フランス 125%
スペイン 100%
ドイツ 86%
イギリス 65%
オランダ 65%
スウェーデン 63%
イタリア 60%
スイス 51%
日本 37%
韓国 35%

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「カロリーベースの食料自給率」というのは、食事を通じて摂取できるカロリーの自給率を表しています。国産の牛肉や豚肉を食べたとしても、牛や豚のエサである飼料がすべて輸入されている場合、摂取カロリー自給率は0カロリーとなります。

日本の飼料自給率は25%と飼料の4分3を輸入飼料に依存しているため、牛肉の自給率は9%、豚肉6%、鶏肉8%、鶏卵12%、牛乳・乳製品26%となる。

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もし、飼料の輸入が途絶えてしまえば、日本の畜産業は壊滅的な打撃を被ることになります。数字だけで言えば、牛肉の生産は現状の9%になる可能性すらあるということです。

以前にも紹介したことがありますが、政府が公表している「不測時の食料安全保障マニュアル」によれば、もし食料の輸入が途絶えた場合に、生きていくために必要な1日当たりの摂取カロリーを確保する食事メニューは以下のようになると予想されています。

・朝食:茶碗1杯のご飯、蒸しジャガイモ2個、糠漬け1皿
・昼食:焼き芋2本、蒸しジャガイモ1個、りんご4分の1個
・夕食:茶碗1杯のご飯、焼き芋1本、焼き魚1切れ


・その他:2日に1回1杯のうどんと味噌汁、3日に1回2パックの納豆、6日に1回コップ1杯の牛乳。7日に1回1個の卵、9日に1回108グラムの食肉

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さらに、マスコミがコロナ報道→ウクライナ報道に忙しい中、農業の現場では大変なことが起きているそうです。

去年2021年から上述した肥料に加えて、農薬、ハウス用ビニール、機械の価格が高騰し、大規模な農家が苦境に陥っていると。

ただでさえ農家では高齢化も進んでいた上に、2020年からコロナ禍での外食産業などの需要が減ってしまって農産物の価格は下落。そのために廃業を決める人も増えているそうなのです。
その結果、(ウクライナ危機がなくとも)食料危機が2〜3年、早ければ1年で来るのではないかと現場の農家さんは予想されています。

先に書いた食料自給率で日本は韓国と並んで最下位にあり、私たち日本人の食卓は、とても脆弱な基盤の上に成り立っているのをお分かりいただけたと思います。

今後、ウクライナでの紛争が長引けば長引くほど石油・天然ガス価格が上昇、食料を含めてあらゆるインフレが進むことで、紛争当事国であるNATO(ヨーロッパとアメリカ)、欧米に経済制裁されているロシアよりも大きな被害を受けることになるかもしれません。

最悪、飢餓をさけるために食糧を配給制にする、というシナリオもありえるのではないでしょうか。そして、配給を受ける際には、これまでなかなか普及が進まなかった「マイナンバーカード」が必要となる→ それを元に国民全員をデジタルIDで紐付けして一元管理、という流れも見えてきます。

それを行うことで、今後AIの普及や職業自体がなくなるような「グレート・リセット」によって仕事を失う人にベーシック・インカムを配布するインフラも整う、というメリットもあるわけです。

全国民へのデジタルID配布は、陰謀論ではなく国連SDGsや世界経済フォーラムが2030年に向けて計画している目標でもあります。そのあたりについては、以下の記事で書いておりますのでご参照ください。

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基本的に、気になる投稿があったら随時追加して更新しています。



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