スタートアップのピボット、PMFのリアル
こんにちは、Anyflowの坂本です。
Anyflowは2017年創業のスタートアップで、API領域のSaaSプロダクトを提供している会社です。
iPaaS/RPA関連のnoteやピッチコンテストでの優勝、大手VCからの資金調達などで、もしかすると名前くらいは知っているという方もいるかもしれません。
しかし、実際のところは2020年前後で事業が停滞し、チームの縮小や、資金調達に苦戦するなど、窮地に追い込まれていた時期がありました。
このnoteは、一見順調そうに見えるスタートアップがなぜ停滞し、そしてどのように停滞から抜け出したのか、というnoteです。
悩んでいる起業家やプロダクトマネージャーの方に、少しでも参考になればと思い筆を執りました。
空前のRPAブームとiPaaS
Anyflowを立ち上げた2019年~2020年において、日本でRPAが急速に盛り上がり始めていて、ある種バズワードになっていました。
ただ、頻繁にアップデートが行われるSaaSとRPAの相性が悪く、SaaSの普及と共に、iPaaSのようなAPIベースのインテグレーションが次のトレンドになっていくだろう、という仮説がありました。
海外製のiPaaSは、今ほど認知度が高くなく、使っている会社も限られていました。
バズワード化されているRPAや、なぜiPaaSを選択したのかなどについては、以下のnoteで書いています。
そのような背景の中、国産のSaaSに最初から接続でき、シンプルなUIで、非エンジニアでも業務の自動化ができる、というコンセプトでAnyflowはリリースされました。
なぜピボットが必要だったのか
Anyflowのリリース時には、ピッチコンテストなどの優勝などもあり、リリース間もないタイミングで、数百件の問い合わせがあるなど、出だしは好調でした。
しかし、一つの問題に直面します。
一言で言えば、エコノミクスが合わないという問題です。
当時のAnyflowは、誰でも簡単にシステム間の連携ができますよ、というコンセプトで主にSMBをターゲットにしていました。
そのような背景もあり、ITリテラシが高くないお客様も多く、通常の問い合わせの対応の他に、API連携のロジックの実装を弊社で担当するなどの業務が発生し、CSのコストが増加していました。
CSのコストが増える事自体は問題ないのですが、サービスのARPAが安かったのです。当時のAnyflowは、月額3万円から使えるような安価なサービスだったため、高いCSコストと単価が徐々に釣り合わなくなってきていました。
「CSコストが重いなら、単価を上げればいいのでは?」という話に当然ながらなるのですが、SaaSの単価を上げるためには、プロダクトで提供できる価値を増やさなければ、お客様に納得いただくことはできません。
一方で、その時のAnyflowはライトなユースケースを自動化できるiPaaSであり、複雑なワークフローを自動化できるシステムやアーキテクチャになっていなかったため、当時のプロダクトのまま単価が上げづらいというジレンマに陥っていたのです。
ピボットの意思決定とニーズ検証
このような状況下で組織は拡大しており、ランウェイも約1年と限りがある状態になっていました。
個人的に、SaaSを提供する限りにおいて、安く広く売るか、高く狭く売るか、このどちらかにポジションを寄せないといけないと考えています。
当時のAnyflowは安く広く売る、PLGモデルを志向していましたが、上記理由から高く狭く売る、SLGの戦略にピボットを検討し始めました。
ただ、安く広く売るようなプロダクトと、高く狭く売るプロダクトでは、求められる要件や水準に大きく乖離があるため、この意思決定は慎重に行う必要がありました。
解決すべき課題を探索する
残りのランウェイはあと1年。この1年で結果を出さなければ、資金調達に苦戦し、最悪会社を解散させないといけないかもしれない。そんなヒリヒリする時期だったのを覚えています。
一方で、API周辺の領域に可能性は感じており、API、iPaaS、インテグレーションのドメインを大きく変える選択肢はありませんでした。
そこで我々は、過去の商談を全て洗い出し、どのような企業属性を持っている会社からの問い合わせが多いのか等の分析、ビザスクなどでのインタビューなど、できることは全てやり、結果、1つのインサイトを得ることができました。
それは、SaaSベンダーからの問い合わせの中で、「うちのサービスとAnyflowでAPI連携してくれないか」といった要望を多くもらっていた、というものです。
なぜそのような要望をもらっていたのかを深掘りしていった結果、SaaSベンダーであればほぼ100%、「◯◯(他SaaS)とAPI連携できませんか?」と顧客から要望される、ということに気がつきました。
API連携はコア機能ではないために、コア機能開発が優先され、社内のリソースも大きく張れず、リリースした後のメンテナンスも必要。結果的に他社SaaSとのAPI連携が後手後手に回ってしまっている現状があるからこそ、Anyflowとの連携を望まれていました。
このインサイトを得てから、「SaaSベンダーは、API連携を顧客から望まれるが、やりたくてもできない」という課題の仮説検証を始めました。
その課題に身銭を切れるか?
課題らしきものを特定した後、我々が取った方法は、プロダクトがない状態で、営業資料だけでプロダクトが売れるか、身銭を切るほどまで強い課題があるのか、解こうとしている課題に対して、いくらまで払う価値があると思っているのか、を検証していきました。
プロダクトが存在しないので、Figmaでプロトタイプを作ったり、Final Cutで動画を作ったりして、極力イメージが湧きやすい状態にし、営業を行いました。
結果、受注率は数十%を超え、開発をスタートしました。
それが、今年正式リリースしたSaaS事業者に向けた、API連携プラットフォーム、Anyflow Embed という製品です。
誰もPMFしているかどうか、疑問を持たなくなる
Anyflow Embedは、性質上、開発すべき機能が多く、複雑性も高いプロダクトなため、描いていたビジョンを実現するために必要な機能郡が揃うまでには、多くの時間がかかりました。
苦しい時期もありましたが、正式リリース時には反響も得ることができ、プロダクトの改善などによって、徐々に反応も好転。
PMFしているかしていないかは、PMFすると分かる。疑問を持っている時点でPMFしていない、などと巷では言われています。
創業してからずっと目指していたPMFも、いつの日からかPMFしているのかどうかについて、社内のメンバーは疑問を持たないような空気になっていきました。
気づいたらPMFを目指そう!と誰も言わなくなった、というのはPMFしているかどうかのバロメータなのかもしれませんね。(もちろん、PMFは一度すればいい、というものではないですが)
ピボットは"強くてニューゲーム"
結果的に、Anyflow Embedは、非常に良いピボットになりました。
ありがたいことに、前年比率で、600%以上の成長ができています。
仮に、創業当時にこのピボットが上手くいったかといえば、絶対できていません。Anyflowという事業を通して、課題の解像度も上がり、お客様とのリレーションシップが築けていたり、iPaaSというジャンルで一定の認知を得られていたことや、一度iPaaSを開発したエンジニアのチームの存在など、多くの資産があったからです。
ノウハウやアセットがない状態で同じ領域にチャレンジするより、成功角度が上がるのは当たり前のことです。(全くの飛び地にピボットするのは例外ですが)
最後に
窮地に立たされた状態でピボットを選択するのには勇気が必要です。ただ、その課題について、一番考えているのは起業家やプロダクトマネージャーなのは間違いないはずです。このnoteが、悩んでいる方の背中を少しでも押せるようであれば幸いです。
そんな弊社では、APIのインフラを目指し、多くの人の時間を創出していくようなプロダクトを作る仲間を探しています。全方位で仲間を探しているので、少しでも興味を持っていただけたのなら、ぜひ一度お話しさせてください!(DMとかもWelcomeです)
また、同じような状況の起業家やプロダクトマネージャーの方も、少しでもお役立ちできればと思うので、DMでお気軽にご連絡ください。
最後までお読みいただいてありがとうございました!
皆さんのサポートやコメントに助けて頂いて書き続けられております。いつもありがとうございます。