ねこねこサミット【物語】
「それでは……『ミミズクはネコ科か?』について、『ミミズクはネコ科かもね。たぶん』で、みなさまの見解が一致しました」
彼ら、肉球だとイマイチ音が鳴らないので拍手はしない。そのかわり、ケケケケと一斉にクラッキングする。スズメを見たときと、この議場でしか使われない。
「続いての議題に移らせていただきます」
集まった猫議員達は思い思いに一息つく。前足で顔を洗い、アクビしながら伸びをして、小さい蛾をペシンと打ち落とす。緊張と緩和、である。
「みなさん、そろそろよろしいかな?」
議長のハチワレ猫がポクッと木魚をひとつ叩く。飼い主はこの寺の住職だ。
「次のお題はコチラ……『ウミネコとは何ぞや?』であります」
すると、俄に猫議員達がザワつきはじめた。
「猫なのに海とかヤバくにゃい?」
「海水ベタつくし、波は恐怖だね」
「アンタ泳げる?」
「溺れそうになったら犬かきするけどさぁ……自分からはまず泳がんよね」
ポクポクッ!
「ご意見のある方は挙尾願います!」
しっぽピーン ピピーーン
「はい、では茶トラのお嬢さん、どうぞ」
「わたくしは、ウミネコはエラ呼吸できるネオタイプの猫だと考えます」
「フム、なるほど。水中におるってわけね。はい、そちらの三毛猫三姉妹」
「ウミネコとは、海辺の邸宅に住むセレブにゃんこの総称だと思います!」
「あら、私は海で活躍するワイルドなイケメン猫のことだと思っていたわ」
「えっ、アタシは湖にいるのかと……」
「ウミから湖連想するって捻りすぎじゃない?」
ポクポクッ!
「はい、他にご意見ある方?」
しっぽピーーン!
「はい、キジトラのあなた」
「そもそもウミネコって、猫なんでしょうか?」
静まり返る場内。
やがて、あちこちからニャゴニャゴ囁き合う声が。
「ミミズクより猫なのは明らかだろ?」
「だよな」
「だって、ウミネコだぜ? 名前に猫って付いてるんだぜ?」
キジトラのしっぽが鋭くピーーン!
「議長、議題は『ウミネコとは何ぞや?』でしたよね」
「そうね」
「この場合、ウミネコがどんな猫か? ではなく、どんな生物なのか? を議論すべきだと思うんです」
「ほほお~」
「彼、冴えてるわねぇ」と、白猫女子はうっとり。一方、他の猫議員達は余計に頭が混乱してきたのか、しきりに前足をなめたり、目を見開いたままクアッとアクビし出す。
「みなさん、キジトラくんの視点・論点でいかが?」
「異議なし!」
「異議なし!」
すると、キッズスペースから抜け出してきた、今年生まれのブチ猫、黒猫、サバトラ、青猫、サビ猫のちびっこ達が闖入。
「これこれ、入ってきたらダメではないか」
「ここは神聖なる議論の場であるぞ」
慌てる大人たちをよそにピョンピョコ飛び跳ね、ちびにゃん達が口々に言う。
「ぼくたち、ウミネコのこと知ってましゅ!」
「見たことありまちゅ!」
再び騒然とする場内。
「きみたち、大人をからかってはいけないよ」
「さあ、向こうへ戻って『岩GOさんのねこ歩き』(録画)を観なさい」
しかし、ハチワレ議長は目を細めて思案したのち、ちびっこ達を呼び寄せた。
「みなさん、せっかくだし彼らの話も聴いてみませんか? 何かヒントになりそうだ」
ちび達は、細いしっぽを目一杯ピーンと立てながら、壇上(沓脱ぎ石)へ、んちょんちょとよじ登った。
「ぼくはヘソ天でゴロンしているときに見ました」
「アタチはカーテンで爪とぎしてたとき」
「オラは蝶々を追っかけてるときに見まちた」
「ほほう、で、ウミネコはどこにいたんだね? 海かね?」
「いいえ」
「ちがいましゅ」
「では、教えておくれ。ウミネコはどこにいて、どんな姿だったのか」
場内の猫議員達に緊張が走る。うっすら毛が逆立っている猫も。
するとちび達は、声を揃えて言った。
「空です!お空にいました!」
ザワザワザワ ポクッ!
「静粛に!」
「飛ぶ類いのネコ科か」
「ミミズク系だな」
「きみたち、どうぞ続けて」
ちび達は興奮気味に答えた。
「ご本でちゅ!」
「ウミネコはパタパタとお空を飛んでまちた」
「小雑誌!」
「グラビア!」
「ご本でちゅ!」
「童話しうでしゅ!」
「文庫本!」
キジトラ議員は肩をすくめて頭を振る。議長が猫なで声で聞き返す。
「ウミネコだよ? 本? 小雑誌? 猫要素まったくないじゃないの」
「でも、ホラ!」
空を見上げるちびにゃん達。
すると、空いっぱい本の群れが、パタパタとページをはためかせて飛んで行くのが見えた。
~おしまい~
【修正後 本文のみ1792字(ルビ換算せず)】
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