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月猫、今宵あなたのもとへ 【空からこぼれた物語】
ルナ・レモン・マロングラッセ・エレファントカシマシ・朔太郎Jr.。
ちょっと長いけど、ぼくの名前だ。息つぎなしで言おうとすると苦しくなるから、良きところでブレスしてくれ。
夕方になると、部活帰りの中学生達がぼくに駆け寄ってくる。「ルナ、ルナ」と呼んで、道端の猫じゃらしを引っこ抜き、彼女達はぼくと遊んでくれる。
商店街を歩いていると、自転車屋のおじさんが、「レモン、おいで」と手招きし、飼い猫のベルちゃんのついでに、ぼくにもカリカリを用意してくれた。んーまい!
夜がやって来た。ケーキ屋のパティシエのおねえさんがお店のシャッターを閉めているところにさしかかると、おねえさんは、「マロングラッセ、きみもお勤めご苦労さん」と言って、ぼくの背中を撫で、毛並みを整えてくれた。
駅に電車が次々到着し、人々が流れをつくって出てくる頃、ぼくは特等席に座り、彼が路上でギターを掻き鳴らして歌うのを聴く。チラホラ立ち止まる人もいる。
歌が終わり、パラパラ拍手のあと、ギターケースに投げ込まれるコイン。
「よう、エレファントカシマシ。今夜もご静聴ありがとう」
ギターを担いだ彼が、最後ぼくに挨拶をして帰ってゆく。
スナックやバーの建ち並ぶ路地裏で、ポリバケツに腰かけて休憩していたバーテンダー見習いの男子が文庫本から顔を上げ、チョッチョツとねず鳴きしてぼくを呼んだ。ぼくは彼の膝にピョンと飛び乗った。
何を読んでるの?と覗き込む。
「朔太郎Jr.にはちょっと怖すぎる本だよ」だなんて言う…『犬神家の一族』?!うぅ~、ぶるるる…))
さて、ぼくの最後のルーティーン。
小高い丘の上にある公園で、仲間達とお月さまを眺めるんだ。気分が良くなると、ぼくらはアオーンと月に向かって声を届ける。なんかオオカミみたいだね。
「ルナ・レモン・マロングラッセ・エレファントカシマシ・朔太郎Jr.」
「はい。ぼくはここです、お月さま!」
「人間達は、おまえの瞳の色から私を連想するようね」
「え?どゆこと?」
「ふふ、とにかく、ルナ・レモン・マロングラッセ・エレファントカシマシ・朔太郎Jr.よ」
「はい、なんでしょう?」
「よく食べ、よく遊び、よく寝て、健康に安全に、この世を楽しみながら生き抜くのですよ。みんなもね」
お月さまは何でも見えているんだな。
「あなた達によって、この世は捨てたもんじゃないって思った人間達が、あなた達に名前をくれるはず」
お月さまからの言葉に、ぼく達はなんだかくすぐったいうれしさが込み上げてきて、ムンッとアゴを反った。
ぼくの名前、ルナ・レモン・マロングラッセ・エレファントカシマシ・朔太郎Jr.!
ちょっと長いけど、残さずぜんぶ、ぼくの名前。
~ fin ~
最後まで読んでいただき、ありがとうございました🍀
😺かよんさんの可愛い絵を、みんなのフォトギャラリーより見出し画像に使わせていただきました!
🌟この物語は、ピリカ文庫に寄せて“月”をテーマに、前記事の『月』と同時に書き始めていたのですが、さて、どう着地させればよいものか?と悩み、置きっぱなしにしていました。それを今回、やっとこさ書き終えたのでした。
というわけで??【空からこぼれた物語】として成仏😌🍀
大好きなアニメ、名探偵ホームズ(犬が擬人化されたアニメ)の主題歌が、『空からこぼれたストーリー』だったなあと思い出したりもして。オープニング&エンディングのダ・カーポさんの歌、好きです🎵
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