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【パロディ】神曲(4-1/10)_悪魔と英雄<前編>

地獄篇 第26歌より
Considerate la vostra semenza:
fatti fossimo a viver divertendoci,
anche in inferno, è una bella esperienza.

(日本語訳)
何のために生まれついたか考えてみなよ。
僕たちは楽しく生きるために生まれたはずだ。
地獄にいてもね。いい経験だろ。


僕はダンテ。
さて、打鍵ウォーミングアップはこれくらいにして、さっそく本題に入ろう。第四章は前章にも増して長いから。

*****

僕はダンテ。空飛ぶ半人半鰻の人外、ゲーリュオーンの背に乗って、地獄の崖を降りたところです。

ところで、地獄には「マーレボルジェ(悪の嚢)」と呼ばれる場所があります。
百聞は一見に如かず。まずはその全容[↓]をご覧ください。

細かく区切られている部分が『Malebolgeマーレボルジェ

マーレボルジェは、鉄の色をした10の環に分けられている...と "Classiciniクラッシチーニ" には書かれていますが、写真(?)では、赤錆のような色をしていますね。
中央には溝に分けられた嚢があり、この嚢では、生前、人を欺いた者たちが罰を受けているのです。

さて、上の図ではマーレボルジェから点線が引かれており、その先に、1から10までの数字が振られていますね。その中の『7』をご覧ください。

7a7番目の BOLGIA - Ladri

...と書かれています。
上記、和訳ルビの振られていない単語 "Ladriラードリ" は、イタリア語で「泥棒たち」という意味。ちなみに、「泥棒」は "ladroラードロ" といいます。

仕事納めを前に、「来年はイタリアへ旅行に行こう!」と計画を立てて胸を弾ませ、イタリア語の基本フレーズを覚えようと意気込んでいる、そこのあなた。
ボンジョルノやグラーツィエと併せて、ぜひ「ラードロ!」も覚えておくといいでしょう。
現地でひったくりに遭った際、逃げる犯人を指さしながらそう叫べば、親切で屈強なイタリア人(あんまり見たことないけど)が、泥棒からあなたの荷物を取り返してくれるかもしれません。

...さて、本題に戻りましょう。
僕と、ウェルことウェルギリウスは暫く歩いたあと、つり橋に足を踏み入れました。
橋の下では、汚職者たちの魂が、煮えたぎるタールに浸けられています。(←第五の嚢。ちなみに、ダンテ・アリギエーリは、名目上、汚職の廉でフィレンツェを追放されました)
僕たちが橋を渡っていると、罪人のうちの一人が、こちらを見ようと水面もといタール面から頭を出します。すると、すぐに2匹(?)の悪魔が飛んできて罪人を捉え、タールの海から引き上げて鉤爪でひっかきました。

そのような恐ろしい光景を前にし、ウェルは僕に隠れるよう指示します。そこで、僕は音を立てないように岩の後ろへ走り込みました。
つり橋を渡っている最中なのに、どうして岩の裏に隠れられるんだよ、と思われたでしょうが、 "Classiciniクラッシチーニ" のことです。大方、橋の上に都合よく岩が置かれていたのでしょう。まぁ僕は背が低いですからね。ちょっとした大きさの石さえあれば、どうせ十分隠れられますよ。

身を隠す僕とは対照的に、ウェルは悪魔たち(←第五の嚢には、マレブランケという12匹の悪魔ユニットがいます)のボス、マラコーダに歩み寄りました。彼は悪魔たちの中で最も体が大きく、光る鱗に覆われ、真っ赤な色をしています。

赤毛と赤鱗は長いあいだ話し合い、ついには赤毛が僕に、岩の裏から出てくるよう身振りで示しました。(こいつの顔の広さは一体なんなのでしょう。そして、さすがはイタリア。地獄の沙汰も人脈次第のようです)
一方、赤鱗は部下を呼び、
「アリキーノ、カルカブリーナ、カニャッツォ、バルバリッチャ、それに、リビコッコとドラギニャッツォ、牙の鋭いチリアット、グラッフィアカーネ、ファルファレッロ、そして、頭のおかしいルビカンテ。お前らが第五の嚢の境界まで彼らを護送しろ」と、なぜか最後はディスりながら命令します。
選ばれた者たちは(といってもほぼ全員ですが)、風に黒い翼を広げ、こちらに近づいてきました。彼らの目は赤く燃え、鉤爪が光っています。
僕は、ウェルに耳打ちしました。
「付き添い無しのほうがいいんだけど... こいつら完全にヤバいだろ」

するとウェルは、黙れ、と、悪魔よりも怖い顔でこちらを睨みます。
こうして、この半端なく奇妙なグループは僕たちについてくることになったのでした。

進軍を今かと待つ騎士の集団よろしく、悪魔たちは隊列を組みます。彼らのうちの一人が... えーと... ラッパのように甲高い、"後ろから出る" 大きな音で出発の合図をしたとき...

...僕は、リアルウェルに言いました。
「これってさ、けっこう下品なシーンでいいんだよね? それとも、僕の読解が間違ってるのか?」

「...いや、君が読んで理解した通りで大丈夫だ」

「こんな場面、『神曲』にあるの? 子供ってこういう下ネタ好きだから... ガキ用のアレンジだよね?」

「違うよ。ねぇ、君のその聞き方だと、まるで今までに一度も『神曲』を読んだことがないように聞こえるんだけど...」

「読んだけど忘れちゃったの! 原典のどの辺に載ってる?」

「えーっとね... 地獄篇 第21歌の139行目。ちなみに、出発の合図をした『彼らのうちの一人』は、バルバリッチャ」

「...ほんとだ。信じられねぇ... ダンテもこういうことするんだ... 十返舎一九だけじゃないんだな...」

「そう。しかも、それだけじゃないんだよ。マレブランケには今回出てきた悪魔以外にも、スカルミリョーネっていうやつがいて、そいつは君に...」

...そんなわけで、今回は "Classiciniクラッシチーニ" でいうと2ページ半しか進みませんでしたが、ここまででもう2,600文字を超えていますし、ダンテが意外と下品だったということが分かったところで、一旦筆もとい羽ペンを置きたいと思います。
この話の続きは、『【パロディ】神曲(4-2/10)_悪魔と英雄<後編>』に譲ることにしましょう。


本編と全く関係のない、心弾む今日の短歌:
予約した 白い翼で 春の日に
黒い翼の 国へ旅する

外国語の基本フレーズ覚えるの、すげぇ楽しい!

241221


参考書籍:
Classicini La Divina Commedia (Gisella Laterza) Edizioni EL

トップ画像:
アルノ川に架かるふつうの橋。ポッピ(イタリア/トスカーナ州)にて撮影。第五の嚢ではありません。