【パロディ】東海道中膝栗毛_初編(2/8)
神奈川宿の高台に着いた二人は、世間話をしながら、さらに先へと進みます。
※このお話の冒頭は、ほぼ会話のみで構成されているので、どちらの発言であるかを明確にするため、弥次さんの台詞にはY、北八の台詞にはKを、「」の前に付けてお送りしたいと思います。
K「ねぇ弥次さん、新しいすまほ買って...じゃなかった、僕が好きな作家が新刊出したから、次 本屋見かけたら買って」
Y「いいよ。本だったらいつでも買ってあげる。ところで、その新刊って誰の?」
K「木槿」
(※ "木槿" は当記事での当て字です。本当のクリエイター名は "りんどん" さんとおっしゃいます。)
Y「君、本当に彼の作品が好きだよね」
K「当たり前だろ。それに、僕だけじゃねぇよ。今や "江戸の十返舎一九、京の木槿" っていって、二大センセーショナルなんだから」
Y「確かにね。ちなみに、彼の作品の中で一番のおすすめは何?」
K「まぁ人それぞれ好みはあるだろうけど、僕に言わせれば、断然、これ(↓)」
K「もう本当これ(↑)最高だから。あ、そういえばさ、今度の流行語大賞、全ワード 木槿による造語からノミネートされるって知ってた?」
Y「へぇ、そうなんだ。例えば、どんなのがあるの?」
K「”INBI”」
Y「どういう意味?」
K「意味は読んだまま “淫靡” なんだけど、漢字は表意文字だから、どうしても字面がエロくなっちゃうだろ。でも、表音文字であるアルファベットを使えば、エロくならずクールに “淫靡” を表現できるっていうわけ」
Y「なるほど。よく考えてるなぁ... 他には?」
K「 ”KCQLAN” 」
Y「KCQLAN? なんて読むんだ?」
K「KCQLANって読むんだよ。意味はね...ちょっと待って、すまほで調べるから...『道理にはずれていて、はなはだよくない(goo辞書より)』だって」
...道中、二人がこのような会話を交わしたかどうか定かではありませんが、どうやら次の休憩地点である茶店が見えてきたようです。
「Benvenuti! あたたかい冷飯、つめたい煮たての魚もございます。太い蕎麦や大きなうどんはいかがでしょうか。Benvenuti! 」
茶店の店先に立って客引きをする見目麗しいバリスタを見て、弥次さんがKCQLANことを言いました。
「北八、見て。最高に美味そう」
「ぁあ、はいはい、めちゃくちゃ美味そうな食べ物だね。で、フードメニューは何があるんだろう?」
北八が弥次さんを軽くあしらい、店内をきょろきょろ見回すと、店先に立っていた美女がこちらへやってきて、
「鰺の塩焼きがおすすめです」と微笑みました。
「君、かわいいね。地元の子?」と身を乗り出す弥次さんの脇腹に、北八は結構本気の肘鉄を食らわせ、
「じゃぁそれで。あと、ノンアルコールの酒もお願いします」と言います。
二人がカウンター席について待っていると、ほどなくして麗しのバリスタが、温め直した鰺の塩焼きと、銚子盃を持ってやってきました。
「おまちどうさまでした!」と、彼女は微笑みます。
弥次さんは、また身を乗り出して口を開きました。
「君の焼いた鰺なら、アドリア海の鯛よりも美味しいだろうね。ねぇ、今日、何時上がり? もしよかったら今夜、海辺のレストランで一緒に食事でもしない? あ、でも、うちの近所のアドリア海は汚いから、もし嫌だったら、ティレニア海のレストランへ行こうか。少し遠いけど、君のためならどこへだって行くよ。君が望むなら、南極海にだって連れて行ってあげる」
それを聞いた娘は弥次さんに冷ややかな視線を向け、
「だいじょうぶでーーーす」と、単調な声音で答えると、店先へ戻って客引きを再開しました。
「Benvenuti! 店の奥は広くなっております!」
北八は弥次さんを横目で一瞥し、嘲笑を浮かべ、
「奥は広いはずだよ。安房、上総まで海続きだもんなぁ... 初対面なんだし、近場のレストランに誘えばよかったのに。なんで南極海なんて言い出したんだよ」と、吐き捨てます。
弥次さんは、それをガン無視して言いました。
「そんなことより、北八。この鰺の目を見て」
そうなのです。
弥次さんは女の子が大好きです。しかしながら、結局のところ彼の不等式は、
女の子<<<<<<飯<<<金
なのです。
弥次さんは、北八に向かって続けます。
「俺は焼いてあろうがなかろうが、魚の目を見ればその鮮度が分かるんだ。この鰺は全然新鮮じゃない。というより、むしろ、腐りかけだ」
彼は、おもむろに皿の上の塩焼きを裏返し、一首詠みました。
それを聞いた北八も、半ば呆れてこじつけます。
ちなみに、弥次・北の狂歌も面白いですが、こちらの短歌(↓)も素晴らしいので、是非!