ペイン☆ウォーズ:NPOへのSOSが気づかせてくれた痛み医療の盲点
えばらです。
私の原点でもあり、仕事でもある痛みのリハビリでめちゃくちゃ大事なことを思い出したので、noteにまとめます。
まずはお決まりのように『慢性疼痛』の基本的事項から振り返ります。
体の痛みは軽くてすぐ治るものから、強くてなかなか治りにくいものまであります。
慢性疼痛に関わる問題をいろんな媒体で取り上げましたが、『今どこも痛くない』という方には響かないことは、NPOの活動の経験上わかっています。
これを読んでいる皆さんにも想像してもらいましょう。今までに経験したもっとも強い痛みを思い出してください。怪我でも頭痛でも何でもいいので。その痛みはほとんどが今は治っていると思いますが。
そのもっとも強い痛みがいつまでたっても止まらず、今も続いていたとしたらどうしますか?
学校にも行けない、仕事もできないかもしれない、それより家の中でも動けないかもしれない。ずっとこのままなのかと不安がつのり、今まで普通にできていたことができなくなり鬱っぽくもなります。
このような複合した状態が慢性疼痛です。
そのまま想像を続けてください。あまりにも治らないので病院に行った皆さんは、そこで信じられない言葉を聞かされます。
『原因がありません。なので、治療のしようがありません』
「痛い原因があるから痛いのではないか」そんな誰もが想像する当たり前を超えてくるような、皆さんの考えを全否定するような一言を言われてしまいます。
実はこの言い方は医療職から見れば確かに正論なのですが、このような相手の知識や気持ちを無視した言い方が、患者のために良いわけがありません。いまだ患者の気持ちを無視した医療がまかり通っています。
そんなことを言われたしまった皆さんは、
とつぶやいてしまうでしょう。
慢性疼痛は原因がないことが多く、専門用語では非器質的な痛みともいいます。
慢性疼痛のことをしっかり勉強した医師であれば、このあたりをうまく説明するのですが、時折字面通りに『原因がないから治療しようがない』と元も子もないことをいう人がいるため、当事者である患者さんは本当にショックを受ける。そんな問題が痛み医療にはいまだ残っています。
(麻倉未稀さんの『HERO』のイントロ♪)
この記事は
医師に『原因がありません、治療のしようがありません』と言われる慢性疼痛あるあるに戦いを挑んだNPO(特定非営利活動法人)の記録である。
医療・介護界で全く無名のNPOが、ネットワークを駆使し医療機関でのリハビリを開始することに成功。
患者の落ちまくった意欲や体力、偏った認知のゆがみを改善し、2年で改善に至った軌跡を通じ、その原動力となった、NPOのシステムとリハビリとご本人の根性を余すところなくnote化したものである。
今回の記事は、私が運営するNPO法人ペイン・ヘルスケア・ネットワークにかかってきた1本のSOS電話の話についてです。
悩みを抱えた患者からのSOSともいえる電話は、患者の痛みや生活そして新たな問題を認識する貴重なターニングポイントになりました。
1本のSOS電話
それは今から2年前の7月のこと。その年の2月にNPOを設立した私はスタッフとともに、学術大会においてもらうためのNPOの宣伝チラシを作っていました。
滅多にならないNPOの電話が鳴ったのはお昼近くだったでしょうか。たまたま手が空いていた私はその電話に出ました。
『あの~治らない痛みに困っています。ここ(NPO)で私の痛みを診てもらうことはできないのでしょうか?』
電話の相手は男性でした。
慢性疼痛を診てもらいたいというSOS
電話の相手は陰部の痛みに困っている男性で助けてほしいというSOSでした。私は男性の訴えを受け止め、話を聞きました。内容をまとめると、
色んな病院にかかったがよくならずに困っている。いろんな治りにくい痛みがある。腰が痛いならまだわかる。
でも私は陰部が痛い。陰部というか陰茎も含めてだ。
座っているといてもたってもいられなくなるくらい痛い。歩くと痛みが増してくる。
毎日麻薬を使って耐えている。こんな痛みでも対応してもらえるのか?
(内容は変えてあります)
会陰部というのは体の部位のことで、外陰部(性器)と肛門の間のことを指します。
男性が陰部を痛がる病気には、代表的なものとして前立腺炎というものがあります。慢性疼痛の病態を知らないと、このように痛い部分に何か病気があるんじゃないかと考えるのが通常だと思います。
例えば前立腺炎かなと思ったのならば、泌尿器科かなと何となく思いつきます。実際それは正しくて泌尿器科を受診したならば、前立腺炎は必ずと言っていいほど診断がつく病気だと思います。
しかしながら、慢性疼痛、非器質的な痛みの多くは原因がありません。病気が見つからないにもかかわらず、会陰部、陰茎が痛くなることもあります。
この男性も血液検査、MRI、おそらくがんに関わる検査もすべて行ったのですが前立腺炎も含め、何も痛みを起こす異常がないと言われたそうです。
まさに前述したように
『原因がありません。なので、治療のしようがありません』
とリアルに言われたということでした。
ただ幸いにも『そんなに痛いのなら痛みは治療はしよう』ということで、麻薬・モルヒネが処方されていました。それでかろうじて痛みは減り何とか動けるようになっているそうなのです。
これは慢性疼痛の分類で『慢性一次性疼痛』に含まれる『慢性骨盤内疼痛』に分類されると思います(診断は医師が行う仕事です)。原因がないけども骨盤周辺のどこかが痛くなる状態です。
せっかく連絡をいただいたのですが、私たちのNPOは医療機関ではありません。痛みを治療することはできません。
NPO法人だからできること
しかし、
・慢性痛のグローバルスタンダード!
・痛みの悪循環を断ち切る!
をスローガンに、痛みの社会問題を解決するために活動しようと設立したのが、私たちのNPOであり、ミッションであります。
あまりに突然に解決すべき課題に直面すると何をしたらよいのか、言葉が出ませんでしたが必死に考えました。
そして、ラグビーボールをタッチラインの中に置きながら、
『ちゃんと治療をやればよくなるかもしれない。痛みを恐れるあまり、心まで死んでしまうんだ。今あなたはどのあたりにいる?まだこのあたりだろっ!』
(これ昭和50年前後生まれの方なら涙なしには読めないところです)
と熱き想いとともに、痛みについて診断はできないが、解決できる可能性についていくつか案を出しました。
すべての慢性疼痛患者にリハビリテーションを!
男性は私のアドバイスに同意し、後日とある病院を訪ねました。
あの一本の電話から2年の月日が経ちました。風の噂では、あの男性は熱心にリハビリに通いつづけ、痛みは座っていて感じることはなくなり、歩行はは問題なくなりました。
明け方に痛みが強まりますが、それは陰部や陰茎ではなく右モモの付け根になったとのこと。つまり、
陰部の痛みは治ってしまいました。
2年間の自分との闘い『ペイン☆ウォーズ』に勝利することができたのです。間接的に結果に関わることができて、私もうれしく思いました。
このような慢性疼痛、非器質的な痛みの改善に『運動を中心としたリハビリテーション』を行うことはとても効果的だと世界中の研究で分かっています。
体を動かすことは基本中の基本。しかし、男性のように痛みが治ってない方に、
『これまでに(体を動かす)リハビリをやっていましたか?』と聞くと、ほとんどの方は『やったことはない』と答えます。
それどころか、同じく慢性疼痛に対する研究で電気治療などの物理療法はあまり効果的でないこともわかっているのに、漫然と治療されつづけてきた方がほとんどです。
つまり多くの症例では運動を中心としたリハビリを開始することが、最も改善つながる方法の可能性が高いと言えます。なのでSOSの男性にそのようなアドバイスをしたところ、狙い通り痛みが改善したと考えています。
陰部に感じていた痛みの正体はモモの付け根が大元であり、陰茎の痛みはまぼろしのようなものに感じます。最初に痛くなったところから拡大する慢性疼痛をchronic widespread painと言い、これもまた慢性一次性疼痛の特徴でもあります。
ペイン☆ウォーズでの気づき
2年前に私が電話でアドバイスしたのが、
『ちゃんと慢性疼痛のリハビリテーションを行える病院に通うこと』。それだけですが、それが未来を変えるステップだと伝えました。
ちゃんとした慢性疼痛治療にはリハビリが必要、そんな普通の情報が伝わっていないだけで、こんなに不利益を受ける患者がいる。医療は日々進歩しているのに、必要な人に必要な情報が届いていない問題が慢性疼痛の改善を妨げている、そう思っています。
また一方で『リハビリが慢性疼痛にいい治療だとわかっている。でも紹介できる病院もわからないし、理学療法士全員が慢性疼痛に対応できないじゃないか。』という医師の話も散々聞きます。
これも大きな問題で、リハビリを処方したくても、『慢性疼痛にリハビリなんかできない』とリハビリ科に処方が来た時点で跳ね返される事例や、そもそもリハビリ科がない病院もあり、多職種間連携の問題も慢性疼痛にはまだまだ大きく残っています。
さらに保険制度の問題もあります。すべての痛みを起こす疾患でリハビリの処方や医療保険の算定ができるわけではないことや各自治体のローカルルールの違いもこのような取り組みの阻害要因であります。
他の病院内部や制度の問題まで口を出すことはできません。しかし、慢性疼痛に対して適切な取り組みをしている病院間の情報網を繋ぎ、医師や理学療法士で共有できるネットワークをつくることで、患者に伝えることで陰部痛の男性のような患者を限りなく減らせると考えています。
幸い医療機関ではないNPOでは、このようなシステムを作り運営しやすいのです。現在法律の専門家に依頼し、制度上の問題について確認しています。私は今後起こるいろいろな慢性疼痛の問題とのペイン☆ウォーズを続けていきます。
電話は暑い夏の時期のことでしたので、ちょうど思い出してしまいました。
NPO法人ペイン・ヘルスケア・ネットワークをご存じですか?
ところでNPO法人ペイン・ヘルスケア・ネットワークのことをご存じでしょうか?
弊社では以下のウェブサイトやSNSを利用し、情報発信に力を入れています。
・ウェブサイト:https://www.painhcnet.org/
・FBページ:https://www.facebook.com/painhcnet/
・YouTubeチャンネル『痛みと闘うチャンネル』:https://www.youtube.com/channel/UCTh5YXydhHx_CAUpGwe9mFg
この記事で取り上げたネットワークシステム(仮)は、万が一できた場合には、ウェブサイトに掲載予定です。
FBページはウェブサイトやyoutubeの情報拡散や活動報告や日々のことについて書いています。
youtubeはこれまでは専門職向けの動画が多かったですが、医療職が当たり前と思っていることが想像以上に伝わっていないので、一般向けの慢性疼痛動画も今後拡充予定であります。
是非ご期待ください。
最後にお願いです。今まであまり書きませんでしたが、実はこの私のnoteへのサポートは全額、NPO法人ペイン・ヘルスケア・ネットワークに寄付されます。
立ち上げる予定のネットワークシステム(仮)を含む痛みに困っている方を助ける事業、慢性疼痛を知らない方々へ伝える事業、痛みやリハビリや健康に関わる事業を行っています。
慢性疼痛医療の周りから変えていくNPOの活動。共感していただけたなら、その思いとともにサポートいただけるとても助かります。
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