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12月32日の夢

どうやら私は忘れられてしまったらしい。
日付は2020年12月32日。
清算出来なかったものが取り残される本来存在しないはずの一年の終わりのロスタイム。
机の上にはラジカセ。鞄の中には、街の音が詰まったカセットテープの束。そして、ノートの切れ端。
「鳴らせ。それが足跡となる。探せ。それが時計になる。」

静けさが支配する街をラジカセの爆音でかき分けて進む。
歩くのじゃ遅い、自転車もちょっと遅い。かといって自動車は速すぎる。
道端に倒れていた蕎麦屋の配達の原付を拝借する。
ここに法律は存在しない。が、法則は存在する。
ヘルメットは被らない。けど、ゴーグルはつけなくては。

ブルルルルルルル
ラジカセから原付のエンジンの音。
此処で物は音を持たない。だからこそ明日にいくためには音が必要。

昨日、年越し蕎麦は食べたっけ。ふと、蕎麦屋の原付の速度計を見下ろし考える。
お前はカップラーメンに居場所を奪われたのか。

探す。音を探す。静寂だからこそ、此処に雑音は存在しない。音には必ず意味がある。


ハッハッハ。賑やかなどこか遠い笑い声。
赤信号に巻き付いたケーブルからブラウン管のテレビがぶら下がっている。

新年のお笑い番組が流れていた。
『明けましておめでとう』
『いや、俺まだ2020年なんだけど』
『今日は一月一日だぞ。もう2021年だぞ』
『いや、おれは12月32日にいる。どうしたら2021年に行けるんだ?』
『夜になったら寝る、そして起きる。そしたら明日。そんな当たり前のことがなんで出来ない?』
『何でだろう。大掃除しなかったからか?それともお前に貸した金返してもらってないから?あいつが線路に飛び込んだから?それを一瞬でも面白いと思ったから?』
『俺も笑ったんだけどなぁ...』
『明日になれば追いつくかなぁ』
『いや、お前が今日の時、俺は明日だ。』
『あいつはずっと昨日だし、ちょうどいいかもな』
『そr』
投げつけた石が無音で画面を砕く。反吐が出るほどつまらない漫才だ。

信号が青になる。

 ブルルルルル
原付を適当に乗り回す。
12月32日の明日は一月一日なのだろうか。
「今日」に明日は存在するか。

すこし休もう。見つけるまで今日は終わらないだろうから。
スクランブル交差点の真ん中に敷いた布団の上に寝転がり、ラジカセに「声」とかかれたテープをセットする。

『夜寝れば朝が来る。それは当たり前のことd』
ラジカセを叩き壊す。


雑音はいらない。

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