【随想】小説『掏摸(スリ)』中村文則
中村文則氏の、
『掏摸』を読んだ。
大江健三郎賞の受賞作らしい。
聞いたことがなかったが、大江健三郎一人によって選考され、2007年から2014年の間で計8回行われた賞という。
知らない作品ばかりだ。
中村文則氏の本は、『銃』を読んで以来。
だいぶ久々である。
どんな本であったか、引っ張り出してパラパラとめくってみると、
こちらの方が『掏摸』よりも文章は読みやすいと感じた。
主人公の内面描写が多いからだろうか。
日本語がすんなりと入ってくる。
『掏摸』は、内面描写は最小限に、アクションで見せていく物語である。
つい最近読んだ、『老人と海』の話法に近い。
即物的なリアリズムだ。
その情景描写の文体が、独特なのである。
動作の流れや視点の移動を、そのまま書いているといった感じであろうか。
主語を見失ったり、代名詞に惑わされたり、句読点の位置に躓いたりした。
また、時系列でも混乱をきたした。
「今は回想ですよ」とか「今から過去ですよ」とか丁寧な説明がないので、
登場人物が脳内で生き返ったりしてしまった。
ただ、100ページを超えた辺りから、だんだんとストーリーが理解できてきて、面白くなった。
特に、木崎というキャラクターの登場は大きいだろう。
圧倒的な恐怖として描かれる彼は、12章で超絶長台詞を主人公に向けて発する。
その台詞はまるで、紙面を通り越して、直接読者に訴えかけるかのようであった。
映画『ドライブ・マイ・カー』で、岡田将生が車の中で長広舌をふるうシーンがあるが、それと似たような狂気さだ。
ここは、本作でも見せ場なのではないかと思う。
それにしても、河出文庫の裏表紙のあらすじは、ネタばれすぎた…。
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