見出し画像

【随想】極私的ドラマランキング『最高の教師』『VIVANT』『こっち向いてよ向井くん』他

この夏の極私的ドラマランキング!

普段はそんなにドラマは見ないのだが、この夏は、なぜかたくさん見た!松本人志の言葉を借りれば、「見すぎ見すぎ見すぎだから」。ドラマは映画と比べてタイパが悪いなんて思ってるわけではないけれど、だいたい1作品8話〜12話とかあって、全部見るのに10時間以上かかることを考えると、迂闊に手が出せない。ところが、昨今の見逃し配信は倍速再生機能があり、TVerは2倍速はないものの、1.75倍速まで早送りが可能。この1.75倍速というのが絶妙なラインだ。2倍速までいってしまうと、さすがに早送りしている感が強く、コミカルな印象になってしまうのだが、1.75倍速は、早送りしている感があまりなく、自然に見られる。そうすると、1話につき30分そこらで視聴することができるので、空いた時間にもう1本他のドラマを見てみようという気になる。まあ、このせいで最初見始めたら最後まで見なきゃいけないという謎な義務感が発生し、さらに沢山の時間を奪われてしまうわけだが…。いずれにせよ今回は、割と全部のドラマを楽しむことができたのは良かったといえよう。

ゲームをする。YouTubeを見る。Netflixを見る。ドラマを見る。TikTokを見る。映画を見る。漫画を、小説を、ラジオを、音楽を…。よく現代のエンタメは可処分時間の奪い合いだと言われるが、今回ドラマを浴びるように見て、同じ映像コンテンツでも視聴方法により、その中身の性質が大きく異なることを改めて実感した。当たり前の話だが、ドラマは映画をただ長くしたものではない。逆に映画はドラマを短くしたものでもない。どちらかといえば、ドラマは週刊連載の漫画に近い。1個のまとまったストーリーを追うというよりも、魅力的なキャラクターを登場させ、次週もそのキャラクターを見たいと思わせられるかが、ドラマや漫画の基本使命だ。もちろん漫画とドラマにも違いがある。ドラマは1クールという単位があるから、最初から終わりが見えているが、漫画の場合、キャラクターに人気があれば、編集部はなるべく連載を終わらせたくないだろう。キャラクターが愛されれば連載はどんどん続くが、連載を続けることが目的になって延命処置のような状態になると、物語はどんどん疎かになる。これはどちらかというと、打ち切りまで続くバラエティ番組の作りに似ている。映画には、そのような作りは必要ない。もちろん、続編が作られるものもあるが、基本は1話完結。その2時間を有意義に感じられるように、キャラクターよりもストーリーが大事な要素となる。ドラマを見ていて、ストーリーがいまいちでも、つい続きを見てしまうのは、ドラマというコンテンツが、キャラクターとの接触時間が長いコンテンツだからであろう。そう、プラシーボ効果やザイアンス効果が働いているのだ。もちろん、クリフハンガーをラストに持ってきたり、ミステリーを残して展開するなど、10時間かけて1つのストーリーを伝えるというドラマもままあるだろうが、この夏のドラマにはそういった作品はあまりなかった。『VIVANT』なんて、毎話違うドラマを見ているようだった。

ということで、前置きが非常に長くなってしまったが、この夏視聴したドラマの感想をランキング形式でお届けします。


13位 ハレーションラブ

うーん、色々難ありだったが、最後まで見てしまった…。急に差し込まれるホラー演出がやたらと怖い。最後には謎が解けたはずなのに、まったくすっきりしない!


12位 ブラックポストマン

とにかく奇妙な話だった。途中一応どんでん返しが用意されているが、なんでそうなるのか色々腑に落ちない。


11位 ハヤブサ消防団

池井戸潤原作なら間違いないだろうと思って見ていたが、『半沢直樹』とは全然違った。1話ずつの密度が薄く、ミステリーの引っ張り方もあまり惹きこまれなかった。撮影が荒っぽいのもあまり好ましくなかった。


10位 何曜日に生まれたの

現代社会が抱える問題をなるべくたくさん詰め込んで1つの作品に仕上げました!と言っているようで、どうにも最後までむず痒い感じが抜けなかった。重くならないよう全体的にコメディタッチにしているのが、なんとも痛ましい。先の展開がまったく読めないプロット運びは良かったが、登場人物たちの行動や発言があまりに記号的すぎて共感が難しかった。


9位 警部補ダイマジン

もうほとんどあらすじが『VIVANT』なのである。『VIVANT』と比べるのは流石に酷な気もするが、同クールであまりにも似たような設定、キャラ、テーマで話を展開されたらそりゃ見劣りしてしまう。テンポよく話が進むので飽きずには見られたが、ぎゅっとしたら1話で済んでしまう話なんじゃないかとも思えた。そして警察内部に黒幕がいるという話は、もう流石に食傷気味。長期政権で腐敗した権力に物申すといった志も特になさそうで、ただの物語のギミックとして乱用されているように感じた。


8位 トリリオンゲーム

わりかし面白く見れた。けど、類似作品の『会社は学校じゃねぇんだよ』の方が面白く見たような気がする。やっぱりフィクションといえど、あまりに現実離れしてしまうと乗り切れない。登場人物のキャラクター造形も、どこか着せられた服みたいでよくも悪くも漫画的でした。


7位 CODE-願いの代償-

ダークすぎる!ずっと暗い!願いを叶える「CODE」というアプリを使って、人々が悪の欲望を叶え合うというテーマは面白いのだが、いかんせん登場人物たちの行動があまりに隙だらけで脇が甘すぎて浅はかでどんどん被害が拡大していくのが目も当てられない。何やってるんだ!喝だ!!の連続…。やりたいことはよくわかる。信じてた人が、実は…という裏切りを毎話用意して、どんでん返しで視聴者を驚かせたい。でもその作り手側の狙いが透けて見えてしまうと、一気に冷めてしまう。物語のために用意された単なる駒に登場人物たちが見えてしまうのだ。本当は復讐心に燃える主人公に共感して、諸悪の根源を成敗するカタルシスを感じたかったのだが。「CODE」というアプリがなぜ開発されたのか、主人公のパートナーを殺した犯人はいったい誰なのか、はなかなか予想しえない結末だったので、そこは面白かったけども。


6位 真夏のシンデレラ

途中までは最高に良かった。後半からは、もう何も得るものがなかった。いい人と悪い人の差が激しすぎる。いい人は本当にいい人で眩しくてキラキラしていた。反対に悪い人は、ディズニーのヴィランかっていうくらい、わかりやすく悪役で、もうただの作り物にしか見えない。主人公たちのキャラクターに一番はまったのは、このドラマかもしれない。この人たちが、今後どうなるのだろう、幸せになってほしいと願いながら、見続けるというのは、レアな視聴体験であった。海が青くとても綺麗だった。


5位 彼女たちの犯罪

ダークでノワールな雰囲気はとても良かった。深川麻衣の部下とか友達とか、南沢奈央とか、あかりのお母さんとかは、湊かなえのような「嫌ミス」を読む感じ。ただ謎解きというよりかは、途中からは犯罪を犯した彼女たちの追い詰められる姿を見ていくという時間が長くて、そこにいたたまれなさと、痛々しさと、息苦しさと、居心地の悪さを感じた。綿密な計画の上に、実行された犯罪が、彼女たちを幸せにする瞬間は、ほぼ訪れない。『最高の教師』では、九条里奈の友達とか、九条蓮がいい塩梅でシリアスな空気をいっぺんさせる「抜け」を作り出していたが、このドラマにはそれがない。ずっと酸素が薄い山の上にいる感じ。でも、続きを見させる力があったことは確かで、ミステリーとして情報を小出しにしていく見せ方は巧みであった。負の連鎖の果てにまさかああいう結末が待つとは思いもよらなんだ。


4位 転職の魔王様

正直前半はほぼ見ていない。のに、後半の満足度の高さから最終的には上位にランクイン。1話完結で、シナリオがしっかりしている。求職者の葛藤と挫折、救済までが、1話の中でだれることなく描かれる。求職者の浮き沈みを波グラフにしたら、相当綺麗なカーブを描くと思う。毎話途中まではトントン拍子でうまくいくのだが、そこに落とし穴が待っている。その落とし穴から這い出すために、主人公たちがサポートするという仕立てだ。エージェントという狂言回しを使うことで、現代の幅広い世代にフォーカスを当てられている。そんなドラマはほとんどない。成田凌の、ドライでクールなキャラクターと、小芝風花の人懐っこく天真爛漫なキャラクターは、どちらも違和感ない。『波よ聞いてくれ』を直前にみたので、小芝風花の豹変ぶりには少し驚いたが。毎話一人ずつ求職者が、求職相談にやってくるのだが、エージェントたちによる解決方法が毎回斬新なのである。行動力がすごい。はたしてそこまで現実でやるのか?との疑問はさておき、人が人のために動き、求職者の人生を変えていく姿は、胸を打つものがあった。学園ものとかだと、生徒の悩みをその子の家庭まで立ち入って解決するみたいなのもよくあると思うが、そういう押し付けがましさがあまり感じなかったのは、もしかしたら成田凌のキャラクター造形のせいかもしれない。決め台詞は「あなたの人生、それでいいんですか?」


3位 こっち向いてよ向井くん

今期一番等身大な作品だったんじゃないか。原作が漫画だからって侮っていた。荒唐無稽なドタバタコメディなんかじゃない。さまざまな価値観が許容され、多様性が尊重される社会における恋愛迷子の悩める現代人に送るピュアラブストーリーであった。最後はハッピーエンドのような、みな、自分の気持ちを確かめながら、前を向くような終わり方をしていたのも良かった。途中、主人公の妹夫婦が、ひょんなすれ違いから別れることになってしまうところは、王道ではあるけれど、見ていて苦しかった。妹役の藤原さくらが、ちょっと特徴のあるキャラクターで、何を考えてるのかわかりにくい、表情の乏しい演技をしていて、難しい役所だなと思った。主人公の赤楚衛二は、はじめて演技を見たけれど、好印象だった。ハマり役な感じがした。序盤のストーリーは、この主人公の前に現れるさまざまな女性との恋の駆け引きになるのだが、ラストで毎回どんでん返しが待っている。最後の最後で、急に相手側の女性視点に切り替わって過去を回想するのだ。映画『羅生門』のような、物語の語り部が変わる(主観が変わる)感じ。実はあの時あの瞬間、相手はどう思っていたのかを突きつけられる怖さたるや。主人公がポジティブな意味合いで受け取っていた相手の行動が、大きく認識違いであることを、全部伏線回収していく。この見事な謎解きの感じは映画『ユージュアル・サスペクツ』とかを見た時の感じに近い。最後の解決編でそれまでの思い込みや認識を180度ひっくり返される。最後の最後まで主人公に共感して見ていればなおのことびっくりする仕掛けだ。元カノが登場するあたりから、そのどんでん返しの展開が少なくなっていったのが、残念。「そう簡単に相手の心の内は、見せたりはしませんよ。想像して見てください。」ということなのかもしれない。


2位 VIVANT

お金かけすぎ。見ていて心配になったドラマは初めてだ。テレビはオワコンだったんじゃないの?底力を見せつけられたとも言える。最初の方は、アメリカのドラマを見ているような気分だった。懐かしの『プリズン・ブレイク』のクリフハンガーを思い出しながら、日本ドラマでもこんなことができるんだと素直に感心した。ちょっと砂漠の辺りは、だれてしまったけど、それ以外は、もう全然違う景色を、毎話見せてくれる。テレビの前にかじりつくなんて、『半沢直樹』以来の体験だ。最初の方こそどんぱちあって、アクションとスリル、ジェットコースターで、アメリカっぽいと思ったけど、日本に着いたらまた様相が変わって、『半沢直樹』感も出てきて、またバルカに戻ったら、今度はまるまる会話劇みたいな回とかあって、なんなんだこれは、となった。結局のところ内容はどうだったんだ、ということであるが、内容については正直なところ『半沢直樹』の方が面白かった。なぜなら『半沢直樹』の方がリアリティがあったから。地に足がついてるというか。『VIVANT』は、もう途中からは『スター・ウォーズ』のパロディにしか見えなくなってくる。いつライトセーバーが出てきてもおかしくない。フォースみたいなシーン(堺雅人が言う「眼光紙背に徹す」)も出てくるし。ただ、どのシーンもカットも、ストーリーも、キャラクターも、すべてにおいて、視聴者を楽しませようという気概が伝わってきて、それをやると絶対無理が出るに決まっているのだが、それがそこまで破綻していないのが良かった。色んな考察を与える隙を作る脚本など、そう簡単には作れまい。乃木の役(堺雅人)なんて、難しすぎるだろう。あんな複雑な状況、感情がバグってしまう。『半沢直樹』は、下剋上、反体制の物語であったが、『VIVANT』は、エリートたちの巧妙な駆け引き。公安、別班、テント。ああ、そうか。『コナン』とか『ジェームズ・ボンド』だったんだなこれは。


1位 最高の教師

大きく予想を裏切られた。何が考察ドラマだ。ただのストレートメッセージドラマであった。『3年A組』や『あな番』のような、どんでん返しや、謎解きを期待してみると、毎話肩透かしに合う。あれ、おかしいな、この感じは、武骨で真っ直ぐな、往年の学園ドラマじゃないかって。令和の金八先生をやってるんじゃないかって。思春期独特の危うさを抱える生徒たちに、真正面から向き合っていく。金八先生が体罰教師と言われる時代だ。向き合うことが困難な時代に、先生はどのように生徒に接するべきか。ひいては、大人たちは、子供たちに何をどう伝えていくべきか。君たちはどう生きるか?九条里奈先生は、声を荒げない。静謐なトーンで、訥々と言葉を訴えかける。言葉だけで、世界を変えようと試みる。声を荒げ、感情を支配することだってできただろう。しかし、このドラマはそれをしない。あくまで大人たちは対話を試みる。吉田羊も、荒川良々も。そして、生徒一人一人の悩みや葛藤をときほぐし、救済していく。それは、まるでカウンセラーの仕事のようでもある。この徹底ぶりが、どうしても緩慢に、不器用に、青臭く感じることもないわけではない。でもまずは、それをやり切ろうとした作り手たちに賛辞を贈りたい。


この記事が参加している募集

#テレビドラマ感想文

21,638件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?