【LTRインタビュー:佐藤允彦(さとう・まさひこ)】その4〜ぼくのランドゥーガな日々(後編)
(初投稿2024/6/14、最終改稿2024/6/14)
野外フェスで誕生し、道場の実践を通して、より自由でオープン・マインドなものに変容したランドゥーガ。後編は海外展開とワークショップの活動をご紹介する。ワークショップでは楽器を演奏するもよし、なにもなければ声や手拍子でも参加できる。その場で生じた音に誰かが応え、意外な方向へ……。音遊びに興じるメンバーを見ていると楽しいと、佐藤さんが笑顔になった。
2012年11月、佐藤さんはスリランカを訪れ、この国のミュージシャンと共演した。内戦が終結しても異民族であるシンハラ人とタミル人の差別構造は残ったままで、文化を通じて和解の道筋を探る国際交流基金(注1)から、インプロの手法を用いた平和構築プロジェクトへの協力を請われたのだ。この試みに参画するとともに、コンサートで自らリーダー役を務めた佐藤さんは、国や地域の境界を越えて拡がるランドゥーガの可能性をあらためて感じたと振り返る。
この時は、ぼくとボーカル2名、パーカッション1名で行ったんです。シタールやタブラなどの奏者とワークショップをして気づいたのが、シンハラとタミルとでは同じ楽器でもスタイルが少しずつ違うこと。違っていていい、なんでも受け入れるというスタンスでいると、すごくうまくいくんですね。コンサートの日、ぼくがこういうキューを出したら曲は終わるけど、きみたちは演奏しながら会場を出て裏庭に向かってくれないかと伝えたの。そうしたら、裏庭に着いても誰も帰ろうとしない。暗闇のなかで1時間ぐらいセッションしたかなぁ。民族間の対立は収まらなくても、そこで生まれた音楽という共通言語で語り合い一緒に笑って、不思議な経験でした。
4年後、大地震のあったネパールへ。復興を支援する企画の一環です。とにかく向こうの連中の音楽を一生懸命聴いて、さっきこういうふうにしたのはどうやったの? もう一回叩いてよ、なんて言うと彼らは喜んで教えてくれる。で、次はこうしましょうという提案にも生き生きした反応が返ってくる。一方、ぼくたちはぜんぜん知らなかった拍(はく)の勘定のしかたを習ったり、勉強になるわけです。自分たちの流儀を押しつけないことが大事ですね。
この集落はこういう音階や節回しやリズムを持ってる、あっちは違うのを持ってる、ということは、アジアに限らず少なくありません。地元の人に混じって10分も演っていたら仲間になっちゃうでしょう。それでこっちが少しできるようになると、うまいなーとか(笑)。どんな土地でもいちばん楽しそうにしてるのがぼく、いちばん学ばせてもらってるのもぼく。出かけた先々でそういうことを繰り返すうちに、インプロヴァイズするとは実際にどういうことをいうのか、だんだん身体感覚でわかるようになった感じがします。これもランドゥーガだ、と。
ランドゥーガ道場はアルバム『直会(なおらい)』(注2)の発表を経てワークショップに引き継がれ、現在も不定期で開催している。心を開いて誰かとなにかを共有できる人なら、音楽経験の有無を問わず受け入れるとのこと。むしろ音楽について知識も技術もない人のほうが、新しい音が創り出される場面で柔軟に反応できるというのが佐藤さんの実感らしい。ランドゥーガとは、参加者一人ひとりを既成の音楽システムから解き放つための仕掛けといえるかもしれない。
ランドゥーガのワークショップは、即興の面白さを発見する集まりです。基本的なやり方は、3人とか4人がグループになって5分間音を出す。ほかの人はその音の面白いと感じた部分を自分の内側に取り込んで咀嚼し、出てきたものをアウトプットする。そういう音のリレーを続けていると、うまくいけば、どこかへ抜け出てしまうようなことが起こります。
これはぼくがよく演ってるインプロと共通している。たとえばフリー・ジャズのライブでは、外国から来たプレイヤーが見たことのない楽器を持っていたりします。すると、やはりその楽器でしか表現できないことがあって、こっちはピアノやシンセサイザーを奏でながらどう対応していくか必死に考え続ける。そこでは、山ほどあるジャズの手法によらずヘンな発想ができたほうが強い。だから、最近はインプロに特化した活動がメインになっているんです。インプロというのは面白いと思わなかったらできない。じゃあ、面白いってなに? 演奏中に出てきた偶発的な音のつながりとか組み合わせに面白さを感じることはあるけど、うまくいかない時も多いです。
ワークショップはこれまでの積み重ねである種の方法論ができて、ずっと参加してるメンバーにはランドゥーガ的な感覚ですばやく音をつかむ技術を会得した人も。そういう人が何人かいると未経験者の理解も早まります。これは最初のころには考えられなかったことで、驚きましたが。
これからランドゥーガはどうなっていくのか。確たる方向性は自分にも見えてないんです。次にどういう人が集まってどういう状況になるかで決まるので。指導する立場で心がけているのは、みんなで集まってやるなかでポジティブな面だけをピックアップして伝えること。難しいけど、1日目と2日目とで、なんでこの人たちこうなるの? というぐらい大きな変化が現れることがあって、彼らのそういう様子を目にするのが楽しいです。
自分に関していうと、ワークショップを通してどんどんフレキシブルになれている気がするんです。もっといろんなことを試したいし、やりたいことはいっぱいありますよ。
(注1)総合的に国際文化交流を実施する日本で唯一の専門機関。「文化」と「言語」と「対話」を通じて日本と世界をつなぐ場をつくる事業に取り組んでいる。
(注2)1994年11月、大オーケストラ・レコーディング@SOUND CITY、小オーケストラ・レコーディング@日本クラウン第1スタジオ。1995年3月に発売。
(インタビュー&文:閑)
(Headline photo ©2023 J@TokyoJapan)