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ノイズキャンセラー 第十五章

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第十五章

 ベガとのやり取りが途切れて、一週間以上が経つ。
 最後にメッセージをもらった日に、ベガが、本当に佐藤亜沙美を監禁したのがわかった。
 佐藤亜沙美が拘束された状態の写真が送られてきた。セーターをまくり上げられて、下着が見えていた。
 自分の思い描いた通りにことが進んでいる。
 琢磨は、そのうち、佐藤亜沙美の『ハメ撮り』も手に入るに違いないと、異様な達成感を味わった。
 あの時、ベガが、佐藤亜沙美が琢磨の性器を見たがっていると言ってきた。そんなはずはないことはわかっていた。それでも、写真を送ったら佐藤亜沙美に見てもらえるかもしれないと、興奮した。
 ベガとのやりとりをする間、いつでも琢磨は勃起していた。
 琢磨は、スウェットのパンツごとトランクスを下げてペニスを出し、先から、透明の液体が滲んでいる写真を撮って画像を送信した。
 露出したついでにしごきながら、ベガに、ダメ元で、佐藤亜沙美の局部写真をねだってみた。案の定拒否された。おまけに山中健太郎の情報について催促された。
 琢磨は、まだ母親と話せていなかった。話せたからといって、山中を見つけられるとは限らない。
 適当に報告をしてベガに取り入っておけば、いつか気が向いて動画をくれるかもしれない。
 この先をどう展開させていくか画策していると、ベガが出かけることになったと、メッセージを送ってきた。
『放置プレイですね』と、送った琢磨のメッセージには、閲覧済みの表示がつかなかった。
 それからは、ベガとのメッセージ欄を、三十分置きに、チェックをした。ついでに過去のやりとりを何度も読み返していた。
 一向に、『閲覧済み』にならなかった。
 琢磨は、何度かベガにメッセージを送った。
『ブログの更新待ってますよ』
『監禁の様子知りたいです』
 何を送っても、反応がない。ブログの更新も止まっていた。

 今は、ベガから反応がない理由がわかっていた。
 世間では最近、滋賀県で起こった事件が話題になっている。事件の概要はこうだ。
 行方不明の男性の家族が、アパートを開けてもらい中に入ったところ、女性の絞殺体があった。そして、その被害者の自宅には、別の女性が監禁されていた。監禁されていた女性は衰弱が激しく、回復を待って話をきくことになっている。行方不明の男性が何らかの事情を知っているとみて、行方を探している。
 琢磨はずっと、ベガを男だと思っていた。
 絞殺体でみつかった女性だけが、氏名を公表されていた。
『村田 琴美』
 ベガのハンドルネームの由来がわかった。
 ベガが女性だったことで、いろいろと納得ができた。
 女友達だから、ベガは佐藤亜沙美の家になんなく入れ、隙を見て盗聴器をしかけたのだろう。
 眠らせて、触っても、挿入しなかった理由もわかった。ベガには突起物がついていなかったのだ。
 それにしても不可思議な事件だった。
 行方不明の男性が容疑者ではないのは、先に男性の方が消えたからだと、ネットに考察があがっていた。
 男性はすでに殺害されており、その犯人が、村田琴美も殺したのではないか。今のところ、それが有力な説だ。
 三人は同じ職場だったらしい。
 監禁されていた女性は、佐藤亜沙美で合っているはずだ。
 琢磨は、あれだけベガを煽っておいて、亜沙美が命に危険が及ぶほど衰弱していたと書いてあるのをみて、気の毒に思った。
 ただ悪いのは誰でもなく、ベガを殺した犯人だ。
 死ななければベガはきっと、今も亜沙美との監禁ライフを楽しんでいたはずだ。琢磨にも、もっと面白い画像が手に入っていた。琢磨は、犯人が憎らしかった。
 琢磨は、滋賀の事件の情報を集めることに夢中になった。ネット上とはいえ頻繁にやりとりをしていた相手が殺されたのだ。
 そのうち、行方不明になっている男の顔写真と名前がSNSで拡散された。男は、どこにでもいそうな顔をしていた。 
 全国から、目撃情報が寄せられているらしい。
 
 しばらくして、佐藤亜沙美が退院したあと、仕事を辞めて地元に戻ったことがわかった。
『あの事件のあった会社で働いている友達から聞いたんだけど』
 ネットの世界には、又聞きならなんでも話していいと思っているやつが溢れている。浅はかではあるがそのおかげで琢磨は有益な情報を得た。
 佐藤亜沙美の家を母親に調べさせることにした。
「調べてくれたら、外に出ても良い」と言えば、喜んで調べるはずだ。
 佐藤亜沙美と会う前に、床屋に行く必要がある。服も、新しい物が必要だ。
 ベガから以前もらった写真は乳首部分にスタンプが押してあったが、乳房の形は十分にわかる。脅しに使えると考えていた。
 琢磨は、もう返信がないとわかっていながらベガにメッセージを送った。
『自分で、あさみんのハメ撮りをしますね』
 ベガのパソコンやスマートフォンには、無修正の画像が残っていたはずだ。警察が捜査で中を見たかもしれない。
「ずるいな」
 琢磨は、「絶対に直接見てやる」と、思った。
 

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