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読んだもの断片記 4/28-5/28

↑の続きです
この一ヶ月はサボり気味、5月ということもあり、メンタル的にもしんどい一ヶ月でした〜。
走り書きですが、読んだ本などを記録しておきます。


2024/4/10〜2024/4/28

1 星野太『食客論』(講談社)

 共に生きることとは何か、という問いに、食事という側面から切り込んでいく論。バルトの講義録、サヴァランから九鬼修造、石原吉郎まで、非常に広大な範囲で繰り広げられている。第四章まで読了したが、とても読みやすく、また、各章で取り扱う内容は焦点化されていて良い。「共生」「孤食」「口唇」「海賊」など、チャプタータイトルもシュアな感じだ。随所にフランス哲学のテクストにあたっている著者の丹念さを感じて、丁寧に読んでいきたいと思った。

2 大江健三郎『われらの時代』(新潮文庫)

 薄暗いバンドハウスで鬱屈する〈不幸な若者たち〉、中年の娼婦から逃れられない青年、彼らを取り巻く闘争と絶望の時代。自殺ということを一つのテーマとしながら、世相を剔抉してみせた23歳大江健三郎の秀作。
 文庫版あとがきにもあるが、この小説は病的な匂いがする。初期大江の特徴をさらに煮詰めたような、執拗なまでの性、血生臭さへの執着が見て取れる。
 物語の全編を賭して呈示された〈われらの時代〉は実は現在と地続きなのだろう、と思える。毎日電車に人が飛び込んでいく、絶望的現在を、この小説は抉り取っていく。

3 目取真俊「ブラジルおじいの酒」「軍鶏」「赤い椰子の葉」

 朝日文庫版を読んでいるが、この小説家はやはりすごい!と思える。幼少の時代の疼き。大人と比べて不能でありながらも憤り、愛し、何かに懸命になったころを非常に精彩に描き得ている稀有な作品群。「軍鶏」が特に良かった。雛から育てた闘鶏のアカ、鮮やかな流血の数々、殴られたときの自らの熱を伴った痛み、死ぬ寸前の鶏の熱、そしてそれら全てが重なる狂熱的なラスト。流麗でありながら暴力的なまでに熱い描写が燦然とそこにあった。最高だった。

4 テニスン『イノック・アーデン』(岩波文庫)

 牧歌的な語りで描かれる叙事詩。深く愛し合う二人の男女が、やむなく別れ、男は大冒険の末ボロボロで帰還し、女は新しい幸せとして裕福な男のもとで暮らしている…という筋書きだけ書けば単純すぎる悲劇だが、テニスンの描写のある意味での大げさなドラマツルギーが、美しくイノックの背負った運命と愛の重みを際立たせる。悲しみの中にパストラルな趣があり、なんだか不思議な読後感の一冊。

5 その他進行予定

堀江敏幸『雪沼とその周辺』(新潮文庫)、マルクス・ガブリエル『なぜ世界は存在しないのか』(講談社選書メチエ)、カルヴィーノ『不在の騎士』、山内士朗『わからないまま考える』、松本和也『テクスト分析入門』、山野辺太郎『恐竜時代が終わらない』、坪井秀人『戦後表現』などなど

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