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2021年1月の記事一覧

#48 JAZZ

 

ピアノが一音ずつ繊細に、けれども確実に響いていって、ドラムはそれに合わせて、しかし前に出過ぎない。サックスがその音楽に声をもたらすまで。だからぼくは”それ”が嫌いだ。音楽は絶望なのに、”それ”は何かを笑い飛ばそうとする。前に進もうとする。ストレートノートの整然を突き崩すスウィング。でも悪びれずに、あくまで笑っている。”それ”に触れてから、心臓の鼓動もスウィングの中にあって、ぼくの四肢は、指は

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#47 生きるとき

#47 生きるとき

ぼくがもっとも生きるとき

あなたとことばを交わすとき

ぼくがもっとも生きるとき

濡れたインクの書きかけの文字

ぼくがもっとも生きるとき

雨は冷たく心臓は迅く

ぼくがもっとも生きるとき

あなたのことを空に描いて

そのほっそりとした白い手が

太陽を抱く夢をみるとき

#46 リングワ・フランカ

#46 リングワ・フランカ

 夜には言葉が浮かんでいる。愛情、社会、本棚、楽しい歌、教授、先端恐怖症、性交、最新、幻想。それらは全てくだらないジャンクだ。しかし脳はそのガラクタの浮遊体たちから夢のロジックを組み立てる。簒奪されたすべての物たちが、夢から漏れ出る。その白い光の瞬きは、さながら夜に散る白梅。だから、夜にほの明るい残光が散っていたら、それは誰かの夢の欠片だ。継ぎ接ぎにされた主題たちの、真昼へ向けた一つの挽歌だ。夢は

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#45 屈折率

#45 屈折率

皮膚を齧り 空を描く

虚ろに這う 蛇の如くに

室外機から零れる 排水のような

そんな空ばかりしか

描けない。

俺はあの日に確かに視えた

うらぶれた灰色の四阿で 

女の中に 海を見た

深遠とうねりの悦び

それはたしかに虹のように

色のない 色彩の蝕知

もう思い出せやしない、

映像にも満たない想

自分のはらわたを 

いくら抉っても

それは見えない。

空を描きながら 海を

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