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bookmark

2011年 東中野の小さな映画館で『ちづる』を鑑賞した。自閉症の妹を撮影した兄、赤﨑正和監督によるドキュメンタリーだ。

暗闇の中、「自閉症の弟の兄」である僕は「自閉症の妹の兄」である赤﨑さんの視点を通して、予期せぬ形でこれまでを振り返ることとなった。
幼いころからうまく言語化できなかった気持ち、生活の中で浮かんでは消えていったいくつもの感情が、会ったこともない誰かのつくった映像の中に散りばめられていた。

――いつか赤﨑さんと会って話がしてみたい。
そんな漠然とした思いを抱きながら帰路についた。

その願いは、2019年に叶うことになった。
多くの人の支えのおかげで、生まれ故郷の神奈川県藤野町で自主上映会を企画したのだ。
イベント名は『bookmark』とした。
まずは赤﨑さんにメールで自分のことを伝えなくてはいけない。真夜中に作成したため、なんだか暑苦しい文章になってしまって翌朝少し恥ずかしくなった。そんなことを繰り返しながら何度も推敲した記憶がある。

突然のメールにも関わらず、赤﨑さんは丁寧に返信をくれ、新宿の純喫茶で打合せをすることになった。

初対面の僕たちは
幼少期に感じていたこと、妹や弟のこと、家族のこと、障害のこと。
時間を忘れて話し続けた。
互いの表現や手段は違っても、なぜ?という気持ちを抱き続けてきたこと、考え続けることを止めたくないという想いは共通していた。
赤﨑さんは繊細ながらも強い意志を持ち、「言葉」をひとつひとつ大切にする人だった。

福祉を志すものとして? きょうだいとして?
そんなことはどうでもよくなって
“○○として” ではなく、ただただ昔からの友だちのように、コーヒーカップが空になっても、話は尽きなかった。
そして、当日の上映会場はたくさんの人と言葉で溢れていた。
そこにいた一人ひとりがこれまで生活してきた背景と合わさって、「ちづる」が与えてくれたものがある。その違いや共感について考えることができた気がしている。

あれから3年、ここlogueで再び『bookmark』を始める。
本に栞をはさむ行為は、目の前にいる人のこれまでを尊重し、あなたとこれからも関わり続けたいというささやかな祈りに似ている。

ふと考える。
障害を理解することなどできないかもしれない。
それでも
障害を考える人が増え、そこで生まれた言葉ひとつずつを紡いでいくことができたら。

『ちづる』を通して
また誰かの帰り道を照らすことができたら。
その光が読み継がれていくことを願っている。

logueのペースで
bookmarkを発信し続けていきたい。

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