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両親の介護をする両親と暮らした記録:「介護離職」問題に関して

前回のnoteで祖父母とのことを書いた。

私の両親は仕事をしており、今のところ「介護離職」せずになんとかやっている。

近年、介護離職の問題がよく取り上げられている。
生命保険文化センターによると、
「1年間に約9.5万人が介護等を理由に離職している」そうだ。
「男性は約2.4万人、女性は約7.1万人と女性のほうが多く、性・年代別に「介護・看護離職」の割合をみると、男性・女性ともに「55~59歳」で最も高くなっている」そうだ。

家族介護の手伝いをして、仕事をしながら親の介護を全部引き受けるのは無理だと感じた。今回の経験からどのようなことが困難として現れ、解決策として考えられるのかを記録しておきたい。

「親の介護は家族がするもの」とよく言われたりするが、その考えは早い段階で捨て去った方がいい。また、家族の中で介護・看護の仕事をしている人がいたとしても、その人に介護を全て任せたり押し付けたりすることは絶対にダメだ。家族介護において優先されるべきは、介護される側の安全介護する家族の心身の健康だろう。

立ちはだかる困難

困難1)”想定外の連絡”が多数くること

まずひとつ目の困難としては、”想定外の連絡”が突然たくさんやってくることだ。

「買い物に出かけたときに、道で転けて病院に運ばれた」
「外に散歩しに行ったのに帰ってこない」
「用水路に落ちて救急車を呼んだ」
など

仕事中であっても容赦なく電話がかかってくる。
病院から容態の異変で電話がかかってくることもあれば、ケアマネージャーさん、ヘルパーさんからもくる。在宅診療を頼んでいれば、担当医から病状の連絡や薬の変更の承諾などの連絡もくる。

困難2)見通しや予定が立たないこと

連絡を受けたら、大急ぎで次の予定を立てる。
入院の日程や、家族と主治医、ケアマネージャーさん、ヘルパーさん、福祉用具屋さんなど担当者を含めた会議の日程などを決めることもある。ここの段階は、ある程度見通しは立つ。

他方、家族介護の実態の予定は立たない。
老齢の家族の病状が全快に向かうことはなく、現状が無事に続いていればいい。症状や気持ちには波があるため穏やかな日が続くことを祈りつつ介護をするしかない。そんな中で「この介護生活、いつ終わるんだろ」とふと思ってしまうだろう。

しかしながら、これは終わらない。介護が全て終わるときは、お葬式が終わって四十九日も迎えた日くらいだと思っていた方がいいだろうなと感じた。

困難3)全てが初体験であること

終わらない介護生活は介護の経験がなくても突然始まる。
車椅子の使い方、寝ている人を座らせる方法・立ち上がらせる方法、着替え、お風呂、トイレなどの介助、これが結構難しい。無理やりすると痛がり怪我をするかもしれないし、力強く握ったり引っ張ったりしたらアザができたりもする。

介護する相手が親であれば、イライラしたり腹が立ったりする。介護が上手くいかないイライラと仕事先や日々の疲労も相まって、心身ともに疲れてしまう。

困難4)家事が膨れ上がること

トイレに行くことに失敗するようになると、単純に洗濯物は溜まるし増える。
布団で失禁すれば、布団もシーツも毛布も服もなにもかにもを洗う必要がある。家族介護において、家事の中でも洗濯が一番大変になるように感じた。

自分の家の家事もしないとはいけないが、介護をしている家族の分の洗濯やゴミ出し、食事の準備までしなければいけなくなる。単純に家事は膨れ上がる。

困難5)介護する側とされる側の希望が異なること

介護する側は老齢の家族が、家から少しの時間でも出かけることを希望するようになる。家の中だけの生活ではなく、デイサービスやリハビリに行って社会との交流を持ってほしいし、その時間で部屋の片付けや仕事をしたりとは思ったりする。

他方で、当人はデイサービスもリハビリにも行きたくなかったりする。
デイサービスで嫌なことがあったり、一生懸命リハビリをしすぎて怪我をしたりしてしまうと家に居たい気持ちは増大する。

両者の希望があわないため、折り合いをつけようと誰かが無理をすることになる。

デイサービスに行きたくない当人を無理やり行かせると、デイサービスの中で気疲れしたのか、家族の思いを汲み取ろうと頑張ったのかはわからないが、自宅に帰ったときにはクッタクタに疲れていることもある。
かといって、デイサービスを辞めるのは簡単ではない。ずっと家にいることを決めたら、その体制が整うまでは家族は苦労し、少しずつ介護離職への道が開けてしまうわけだ。

とりあえずの解決策

解決策1)訪問看護や在宅医療を上手に利用する

介護が始まったらまずは使える制度を調べることだ。
介護保険の組み合わせ次第では、掃除や食事の準備や介助までヘルパーさんに頼むこともできるし、福祉用具もメンテナンス付きでレンタルできたりする。
自治体ごとに異なるが、配食サービスを頼めたり、おむつやゴミ袋を補助してくれたりする。

個人的にはNHKの受信料が全額もしくは半額免除になる場合があることに驚いた。老齢の世帯はなんとなく満額の受信料を払い続けているかもしれないが、申請すれば免除になる場合もあるそうだ。

介護にはお金も時間もかかるが、制度は当てはまれば助けてくれる。在宅で介護をするのであれば、制度を探してみたり、制度に詳しいケアマネージャーさん・訪問看護師さんに尋ねてみるのがいい。

解決策2)老いていく姿を受け入れること

家族介護をしていると、目の前で親がどんどん衰弱していくことになる
物忘れがひどくなったり、怒りっぽくなったり、躁鬱状態を行ったり来たりすることもある。

全部を見届ける覚悟が家族には必要だ。
「認知症だね」となっても、覚悟ができていなければ「昔から忘れっぽい人だった」となる。「前まではもっと元気だったのに」の気持ちから、一生懸命にリハビリをやらせてしまって怪我につながる場合もある。
人はだんだん老いていき、少し前までできていたこともできなくなっていく。
このことを受け入れる心の準備が整うまでは、介護をする側される側の両方がいろんな場面で衝突しあい葛藤するだろう。

解決策3)人生会議をしておく

以前のnoteでも書いたが、「人生会議」をしておくことだ。
どんな治療なら受けるのか、どんなことは我慢ができるか・できないか、家事はどこまでは自分でできるのか・やるのかなどのことから、家で看取るのかどうかまで話し合っておくのがいいように思う。
一度の人生会議で決め切らずに、最低限のこと(痛いのやえらいのは嫌、転けても歩きたい、など)から少しずつ話を聞いておくのが良いのだろう。

おわりに

ここまで5つの困難と3つの解決策を書いてみた。
家族介護は「過渡期」が一番苦労する。
トイレでの排泄からオムツに移行する前後、デイサービスの利用の始まり/中止の前後、運転免許返納の前後、セニアカーの利用開始前後など、いろんな「過渡期」に親子喧嘩になったり、体調不良が進んだり、仕事をやめざるを得ない状況になったりするように思う。

また、晩婚化が進む昨今、家族介護が始まるタイミングと妊娠出産はもろかぶりするようになるだろう。「介護離職」をしなくていいように、政府や自治体には制度の見直しを、企業には休暇制度を、家族には介護に対する理解をそれぞれのフェーズで進めて行く必要があるように感じている。

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