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「自分の中の『好き』と『問い』を大事にする」畑中翔太のサボり方

クリエイターの活動とともに「サボり」にも焦点を当て、あの人はサボっているのか/いないのか、サボりは息抜きか/逃避か、などと掘り下げていくインタビュー連載「サボリスト〜あの人のサボり方〜」

今回お話を伺ったのは、『絶メシロード』、『八月は夜のバッティングセンターで。』、『お耳に合いましたら。』といった深夜ドラマの企画・プロデュースで注目を集める畑中翔太さん。広告の世界で活躍してきた畑中さんが、ドラマというジャンルに足を踏み入れたきっかけや、その仕事ぶりなどについて語ってもらった。

畑中翔太 はたなか・しょうた
クリエイティブディレクター/プロデューサー。2008年博報堂入社。プロモーション局に配属後、2012年より博報堂ケトルに参加。手段とアプローチを選ばないプランニングで「人と社会を動かす」広告キャンペーンを数多く手掛ける。これまでに国内外の200以上のアワードを受賞。カンヌライオンズ審査員。2018年「クリエイター・オブ・ザ・イヤー」メダリスト。現在は、ドラマや番組などのコンテンツ領域における企画・プロデュース・脚本も務める。2021年dea inc.を設立。

「クリエイティブディレクターって何をやる人なんですか?」

──まず、広告クリエイターの畑中さんが、ドラマに関わることになったきっかけから聞かせてください。

畑中 絶やしてしまうには惜しいローカルな飲食店とその絶品メシ「絶メシ」を紹介する地域創生プロジェクトを手掛けていまして。本を出版したり、いろんな地域に展開したりして、ニュースにも取り上げてもらったんですけど、市民権を得られていないな、という感覚があったんです。一般の人に広く浸透している実感がなかったというか。

テレビで5分のニュースにすることに限界を感じて、だったら、30分〜1時間のメディアになっちゃったほうが早いんじゃないかと思ったんですよね。それで、「絶メシ」ならドラマにできるんじゃないかと、テレビ東京さんに企画書を出してみたのがきっかけです。

──それが、ドラマ『絶メシロード』(テレビ東京)になったんですね。

畑中 でも、最初はいくつもある候補のひとつに過ぎなくて、企画が通る可能性は低かったんですよね。そこで、絶メシを巡る男の話だけでは弱いとなったときに、「ロード」の部分を思いついたんです。ちょうど車中泊YouTuberの動画を観ることにハマっていたので、「車中泊」という要素を掛け算してみたらどうだろうと。車中泊が盛り上がりつつあったし、車中泊をしながら絶メシを巡る話なら地域創生などにもつなげられるかもしれないなと思いました。

──ふたつの要素を掛け合わせることで、企画が通ったんですね。ドラマ作りが始まってからは、現場に立ち会ったりもしていたのでしょうか。

畑中 ドラマチームの方たちに名刺を渡したとき、「クリエイティブディレクターって何をやる人なんですか?」ってシンプルに聞かれたんですよね。それにうまく答えられなくて、広告の中でだけ確立されている役職にちょっと虚無感みたいなものを感じて、ドラマでは一からいろいろ学ばせてもらおうと思いました。

とりあえず、制作プロダクションさんに居候するようなかたちで、撮影だけでなく編集などの現場にもいるようにしたんです。すごく新鮮で、世界が広がるような感覚があったんですけど、だんだんと「ただ居候しているだけではダメだな」と思い、より入り込むというか、自分から関わっていくようになりました。あのころは、本当にずっとプロダクションさんにいましたね。

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ドラマ『絶メシロード』
普通のサラリーマン・須田民生は家族のいない週末、車中泊をしながら
「絶メシ」を追い求めるという小さな大冒険に出かける

ドラマは観る人のことをイメージできる

──畑中さんの場合、「企画・プロデュース」とはどんなことをされているのでしょうか。

畑中 『絶メシロード』や『八月は夜のバッティングセンターで。』(テレビ東京)は、「企画・プロデュース」として参加していますが、わりと原案に近いところから手掛けている感じですね。『八月〜』なら、バッティングセンターが舞台で、妄想の世界に本物の元プロ野球選手が出てくるドラマという設定や、ストーリーラインなどを考えています。

『お耳に合いましたら。』(テレビ東京)は、主人公がチェーン店グルメ「チェンメシ」をテーマにしたポッドキャストを始めるという設定やストーリーを一から考えているので、「原案・企画・プロデュース」ということになっています。12話までの仮の展開も決めて、それをもとに脚本をお願いしました。

──ドラマ作りに参加して、30分〜1時間という時間のほかに広告との違いを感じたところはありますか?

畑中 広告って、どこにどのタイミングで流れるのかわからないことも多いんですけど、ドラマは何曜日の何時って枠が決まっているじゃないですか。すると、「金曜日の深夜にテレ東を観ている人って何が観たいんだろう?」とドラマを観る人のことをイメージできるんですよね。

『絶メシロード』のときは、金曜深夜に観た人が、そのまま主人公と同じように出かけてくれたらいいなという気持ちがありました。車で出かけて車中泊して、土曜日に帰ってくる、みたいな。それと、週末の深夜なので、事件やドラマ性のあるものよりも、楽しそうでちょっと気の緩むようなもののほうが観ている人に届くんじゃないかとも考えました。そういう発想で企画を考えたことがなかったので、おもしろかったですね。

──実際にドラマに登場した絶メシを食べに行った人もたくさんいたみたいですね。

畑中 「絶メシ」という概念がドラマを通じて広がって、SNSでも毎日のように「お店に行ったよ」「マネして車中泊やってみました」といった投稿が上がっていたので、当初の狙いどおりというわけじゃないですけど、本当によかったなと思いました。

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ドラマ『八月は夜のバッティングセンターで。』
高校生の夏葉舞がアルバイトをするバッティングセンターに現れた
元プロ野球選手・伊藤智弘は、バッティングから人の悩みを察し
野球にたとえた人生論で背中を押していく

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ドラマ『お耳に合いましたら。』
主人公の高村美園は、あるきっかけからチェーン店グルメをテーマにした
ポッドキャスト番組を始める。
美園の妄想の世界にラジオ界のレジェンドが登場する展開も話題に

自分の「好き」を掘り下げて、記憶に残るものを作りたい

──その後もドラマを手掛けられるようになったのは、広告的な発想でドラマを作ることができるとわかったのが大きいのでしょうか。

畑中 そうですね。広告でやっていることはドラマに転用できるなと思いました。企画を作るとか、それをプレゼンして通すとか、そのドラマのおもしろいポイントを見つけるとか。あとは、コピーライティングじゃないですけど、ドラマを表すキーワードを考えるとか。そういったことが活かせるとわかって、もっとドラマをやりたいなと思うようになりましたね。

──絶メシ×車中泊や、チェンメシ×ポッドキャストなど、要素の組み合わせの妙にも、企画性の高さを感じます。

畑中 『お耳〜』は、ポッドキャストというテーマは決まっていて、グルメか何かと掛け算できないかなと思っていたんですけど、コロナで外食もできないので、テイクアウトがいいんじゃないかなと。チェーン店グルメなのは、僕が好きだからなんですけど。

広告をやっているからか、テーマを掛け合わせるようなクセがあるんでしょうね。「ただ恋愛ドラマをやる」というだけだと、おもしろくなるか不安になってしまうというか。ドラマの世界では邪道なんだろうと思うんですけど、逆に新鮮に見てもらえているのかもしれないです。

──そこに畑中さんの「好き」も加わっているので、頭の中で考えただけではない、熱のようなものが感じられるのかもしれません。

畑中 テレビ東京さんの深夜ドラマって、カルチャー系のものも多かったりするように、100人に刺さらなくても7〜8人に深く刺さればいいっていう作り方をさせてもらえるので、ありがたかったんですよね。『八月〜』で野球をテーマにしたのも自分が好きだったからなんですけど、自分たちの好きなものを掘り下げて、それに共感してくれた人の記憶に残る、そういうドラマを作りたいと思ってるんです。

──元プロ野球選手の選び方などに、「好き」を感じました。

畑中 僕だけでなくスタッフも野球好きばかりだったので、打ち合わせから撮影までずっと楽しくて。特に「誰に出てもらうか」という打ち合わせは、好きなチームの話にまで脱線して、収拾できないくらい盛り上がりましたね(笑)。主人公の名前が「伊藤智弘」なのも、僕が元ヤクルトスワローズの伊藤智仁さんが好きだったからなんです。

『お耳〜』でドムドムハンバーガーが登場したのも、完全に自分が好きなだけ。僕が子供のころに初めて食べたハンバーガーがドムドムだったので、ハンバーガーを出すなら絶対にドムドムだと言ってたんです。単なるエゴですね(笑)。

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「どちらかというと、走り続けるタイプなんです」

──ところで、2本のドラマを同時に進行するなど、畑中さんはかなり忙しく動いていらっしゃるようですが、「サボり」というか、息抜きなどはしているんですか?

畑中 どちらかというと、走り続けるタイプなんですよね。なので、息抜きといっても、ソーシャルトラベルみたいなことで。スマホの中でいろんなソーシャルメディアをブワーッと巡って情報のシャワーを浴びてきて、また仕事に戻るような感じなんですけど。

──それもちょっとお仕事みたいですね……。

畑中 仕事のためというわけではなく、好きなものが多くて、置いていかれるのがイヤなんです。だから、時間ができたら話題に追いつきたい。大谷翔平選手がホームランを打ったことを、翌日知るなんてイヤじゃないですか。それが僕にとっては息抜きなんですよね。

ただ、企画をする仕事なので、情報に触れることが仕事につながっている部分もあります。ひらめきや要素の掛け算って、自分の中にあるものから生まれるものなので、引き出しを増やしておいたほうが、ふとしたときに何か思いつく可能性も高くなると思います。

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──好きなことに限らず、広く情報には触れるようにしているんですか?

畑中 そうですね。でも、ただ情報を見るというよりは、気になった情報について一度考えることが大事だと思っています。たとえば、事件を起こした犯人が沖縄で逮捕されたというニュースを見たら、「なぜ犯人は南に逃げるんだろう?」って考えてみるとか。そこから、「自分が犯人でも、わざわざ寒い地方には逃げないよな」「警察はどう考えるんだろう?」と広げていく。問いを立てて考えた経験は、あとになって企画に活きたりするんですよね。

──仕事とプライベートの曖昧なところも楽しんでいらっしゃるんですね。純粋に楽しんだり、無になったりする時間はないのでしょうか。

畑中 あの、性格的にあとに残しておくのがダメなんですよ。夏休みの宿題を全部7月にやっていたくらいで、仕事もやり残した状態だと気持ち悪いんです。だから、本当に全部仕事が片づいて、やることはもうない、1日か半日何もしなくていい、という状態になってようやく無になる。その瞬間は好きですね。

楽しいことも、自分で率先してやるような趣味はないんですけど、逆にどんなことでも楽しめるんですよね。情報に対して問いを立てるのと同じように、「なぜ?」と考えながら見ているだけでおもしろい。実家に帰ると、両親や祖母と「花を見に行こう」なんて話になったりするじゃないですか。僕は花には興味がないんですけど、でも、「なぜ人は歳を取ると草花が好きになるんだろう?」って考えるのは楽しいというか。それも結局、仕事につなげちゃうんですけどね(笑)。

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撮影=石垣星児 編集・文=後藤亮平

【サボリスト〜あの人のサボり方〜】
クリエイターの「サボり」に焦点を当て、あの人はサボっているのか/いないのか、サボりは息抜きか/逃避か、などと掘り下げていくインタビュー連載。月1回程度更新。


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