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エブリデイ聖地巡礼

森見登美彦が好きだ。


私と森見(以降おこがましいが敬称略)との出会いは9年前にさかのぼる。中学入学前の春休み、何の気なしに手に取ったその本こそが、のちに我が人生を大きく変える森見の著書との出会いであった。
その本(ちなみに『ペンギン・ハイウェイ』)が大好きになった私は中学の図書館で森見の本を読み漁り始め、すぐに大ファンになった。

森見は京大在学中に執筆した作品でデビューを果たしている。作品内には京大の学生や京都の町並みが度々登場する。私はその描写に触れるごとに京都という町に強い憧れを抱くようになった。もちろんそれだけが理由ではないが、今こうしてかつての森見と同じ大学に通っているのは間違いなく彼の作品の影響だ。

好きな小説の舞台に暮らすということはたいへん幸福なことである。
小説に出てきた電車に乗り、小説に出てきた神社に向かい、小説に出てきたキャンパスで授業を受け、小説に出てきた喫茶店でひと休みする。最高・エブリデイ聖地巡礼・オタク感涙。



昨日、出町座に森見登美彦が訪れたという。
出町座とは大学近辺にある映画館とカフェと書店の融合体みたいな施設だ。森見はそこにお忍びで訪れ、自らが原作を書いたアニメ映画を鑑賞し、いくつかの本にサインをして帰ったらしい。かっこよすぎ。

私はそのサイン本を求め今朝出町座に向かったのである。営業開始時間を検索すると11:00とのことだったため、私は10:58に店の前に到着した。まことに天才的なスケジューリング能力である。
まだ11:00になっていないのに店内には客がいて、映画のチケットを買ったり飲み物を飲んだりしていた。もう開いてるじゃんと拍子抜けしつつも、私は意を決して足を踏み入れた。

店内には中央にカウンターがあり、どうやらその一帯がカフェスペースらしかった。上品そうな貴婦人が2人お茶を嗜みつつ談笑をしている。そしてそのカウンターをぐるりと取り囲む形で本棚が並んでいる。映画館とカフェと書店の融合体とは聞いていたが、融合度が想像をはるかに上回ってきたため私は少々狼狽えた。しかし、一刻も早く森見のサイン本を手に入れなければならぬ。私は店内を縦横無尽に歩き回り森見の著書を探し、貴婦人の背後を風のような速度で何度も往復した。貴婦人達には奇異を見る目つきをされた。

しばらくウロウロしたのち、店の奥に明らかに森見ゾーンと思われる場所を発見した。大急ぎで積まれた書籍を確認する。


サイン本、無いのである。


ど゛う゛し゛て゛だ゛よ゛ぉ゛ぉ゛!゛!゛


私は困惑した。なにしろ開店時間と同時、なんなら2分前に入店していたのである。念のため店のSNSを確認すると、なんとその1時間半前に『ご好評につき完売いたしました!』との記載がされていた。

私はへなへなと膝から崩れ落ちた。

貴婦人達は憐みの目をこちらに向けた。


気力が抜けぺらぺらになった私は出町商店街を這うように抜け、冬の風に煽られながら帰路についた。
どうやら営業時間はGoogle先輩のミスらしかった。お前…確かに11:00って書いてたじゃないか……Googleさんよお……!!


怨念のスクショ

これまでの人生で全幅の信頼を寄せていた検索エンジンにあっさり裏切られ、街の中で私は発狂しそうな心持ちであった。Googleのことは金輪際信用せん。必要であればYahoo!派閥に寝返ることすら検討する。この際bing派でも構わん。とにかく一生呪う。今何らかの理由でデスノートを入手したとしたら私はでっかくGoogleと書いてやろう。油性ペンでな!!!!!


いやデスノートくれるくらいならサイン本をくれッッッ!!!!!!!!



白目を剝いたまま出町柳から大学に続く道をゆく。そういえば今日は大学入試の日なのである。道端には大量のチラシを抱えたお兄さんが立っていて、悲壮感を漂わせ信号待ちをしている私を受験生だと思い込み『お部屋探しされてないですかー?』とにこやかにチラシを差し出してくる。そんなもの要らぬ。私が欲しいのは森見のサイン本、ただそれだけなのだ。
怨念を込めた表情で『私大学生なんです』と言うとお兄さんは『あっ…はい』と言い後ずさりをしたので少しだけ可哀想になってしまった。


好きな小説の舞台に暮らすということはたいへん幸福なことである。
今日も私は小説に出てきた電車に乗り、小説に出てきた喫茶店で昼飯を食べ、小説に出てきた大学の図書館で怨念を込めたnoteをしたためている。最高・エブリデイ聖地巡礼・オタク号泣。


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