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同窓会前日、恩師と恋バナをする。

高校の部活同期と、当時の顧問を交えて飲もうという話になった。参加者はいつもの如く、私・友人A(22歳女・容姿端麗)・友人B(22歳男・挙動不審)である。


元顧問はもう我々の母校を離任し、今年度から遠くの高校で教頭先生をやっている。
私が『お忙しい中来てくださってありがとうございます』と言うと先生は『今の職場は××高校(我々の母校)ほどブラックではないので全然大丈夫ですよ』と冗談とも本気ともいえないような表情で仰ってきた。


注文を済ませ、美味い飯とともに思い出話に花を咲かせる。


顧問の先生には大変お世話になった。

放送部の主な活動は脚本を書き自分達で撮影・録音・編集をした作品を大会に出すというものであったが、我々が提出締切を守れたことはついに一度もなかった。今となっては開き直っているが全くもって開き直っている場合ではない。

先生は日々多忙にしていらっしゃったのに、我々は脚本内容について執拗なまでに相談をしに行ったし、大会前に下校時刻を超えて作業する我々を待って先生がひとり職員室に残ってくれていたこともあった。

私が同期とお喋り中誤って放送機材に触れキレキレの恋バナを最大音量で全校放送してしまったときも、休日に校内で撮影をするとき誤ってセコムを発動させてしまったときも大変ご迷惑をかけたし、大会前に紆余曲折ありBが失踪したときも←?、同じく紆余曲折あり私が失踪したときも←???大変ご迷惑をかけた。

そんな最悪な我々を、先生は人脈や経験や人柄を駆使して色々なものからずーーーっと守ってくれていた。

当時は迷惑をおかけにおかけした我々であったが、そのぶん放送にかける情熱や諦めの悪さは並々ならぬものであった。(ただし情熱があれど迷惑をかけるべきではないというのは言わずもがなである)
我々の世代は結構好成績を残した。特に最後の大会では全国3位という信じられないほどの結果を残すことができたのだった。

先生はそんな我々のことをたくさん褒めてくれる。こういうとき先生は決まって『あなた達は最強の世代ですからねえ』とこともなげに言ってくる。お世辞かもしれないけれど、私はそれを聞くたびにホクホク顔になってしまう。


思い出話の後、話題はそれぞれの近況報告に移った。で、なんか気づいたら皆でめちゃくちゃ恋バナをしてしまっていた。
先生は奥さんとの馴れ初めを語ってくれたし、私は元恋人とのエピソードについてやや詳細に報告し、先生に『どちらの気持ちもわかりますね』と優しく宥められた。

先生はおおらかなお父さんのようであり、なんでも話せる友人のようでもあり、しかし単なる噂好きのおじさんのようでもある。


そして場の議題は巡り巡って『Bはこんなに良い奴なのにどうして恋愛ができないのか』に収束した。
私とAが好き勝手喋った後先生に意見を聞くと、先生は『恋愛的に見てもらうというのはB君にとって難しいことかもしれない』となかなか辛辣な見解を述べた。でも事実本当にそうなのでBは『事実本当にそうなんですよ』と言った。

先生は『B君自身が他人に素を見せなさすぎるのが課題ではないか?』と考察した。
『【素を見せる】と【恋愛的に見てもらう】を両立させるのが大事なんじゃないですか。例えばここにいる同期の女性達には素を見せているけど恋愛として見たり見られたりはないでしょう』


高校の頃私はずっとBのことが好きで、そしてBはずっとAのことが好きだったので、我々は妙な気まずさに黙りこくった。

放送部は先生の思っているほどクリーンな部活ではないのだ。


この飲み会の翌日は高校全体の同窓会だったので、最終的にBは元クラスメイトの女子をデートに誘うというミッションを勝手に課せられた。
同窓会には先生も出席するとのことで、Bは『明日B君がミッションをきちんと遂行していなかったら私が直接○○さんに声をかけに行きますので…』と怖すぎる提案をされていた。


翌日。私が同窓生と談笑していると、遠くのテーブルから先生が速足でこちらに歩いてきて『ミッションが始まっていますよ』とだけ告げてすたすた去っていった。その姿は何かしらの恋愛リアリティーショーの世話役そのものであった。
見ると向こうのテーブルでBが例の女子に身振り手振りを交え話しかけていた。私はしばらくBの奮闘を遠巻きに観察したが、遠巻きでもわかるくらいめちゃくちゃ玉砕していた。
ああこれもまた大人の階段、成長の軌跡なのである。


放送部時代の思い出は私の人生にとっていつまでも暫定1位であるし、おそらく最後まで1位のままだと思う。

そしてその日々を支えてくれていたのは紛れもなく、愉快で親切で優秀な同期達と、我々を優しく見守り続けてくれていた恩師なのである。


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