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タイムイズアンダーマネー

仲間たちをベトナムへ入国させるにあたり、
必要書類は揃えていたが、足止めされ、結果的に空港を出ることができたのは、ノイバイ空港へ到着後4時間近く経ってからである。

夫はカーゴに預けた荷物をカートに積み、私が猫を5匹積んだカートを押していた。
ゲート付近で、職員が私と猫カートは別室へ行くように指示し、室内で別の職員が私に、ベトナムにはペットは2匹までしか持ち込めないことを口頭で伝えた。
そのようなルールがあるという書面を確認したいと伝えたが、書面はないがこれはルールだという一点張りである(実際書面を出されてもベトナム語は読めない)。

そこで私は、
夫と私で4匹持ち込めるわけですかと尋ねると、
日本から持ってきた書類の飼い主の名前は、全てあなたになっているので、あなたの夫はこの件に関与できないとの回答があった。
では3匹入国できないですね、送り返しますか?あなたたちは私の猫を殺しますか?と尋ねると、
まぁちょっと待ってと言われたが、
この段階で1時間経っており、私は早くケージに入れられている仲間たちを出してあげたくて
かなり好戦的な態度だったのである(2匹しか入国できないとは微塵も思っていない。なぜなら彼らはそのエビデンスとなる書類を持っていないからである)。

そしてさらに30分ほど経ち、職員が戻ってきた。
あなたの猫を全て入国させたいなら、新たに書類を作成する必要がある。私と一緒に来てくださいと、その部屋から連れ出されたのである。
部屋を出るとゲートの側で、荷物カートと立ち尽くしている夫に、「ちょっとなんかややこしいみたいやから私行ってくるから、両替してタクシーの人と合流して荷物積み込んどいて!」と声をかけて、職員についていったところなかなか歩かされ、バイクの駐輪場まできたのである。
そして、後ろに乗るように促され、気がつくと税関の職員のバイクに2ケツ(2人乗り)で2キロ以上走っていた。

ビトはキャリーでくつろぐタイプ

そして謎の事務所で2時間半。
ほとんどが待ち時間で、この間に私は予約していたタクシーのドライバーと連絡をとり、
夫が空港にいるので落ち合って荷物を乗せて欲しいことと、夫の電話番号を伝えた。
夫には、タクシードライバーの電話番号、私の位置情報、可能ならタクシーの支払いを済ませるようにと連絡した。
賄賂の話を持ち出されたのは、最後の30分である。
職員は、
「私は20年前に日本の宮崎大学に留学していました。日本語はもう忘れて話せないけど、日本から来たあなたには良くしたいと思っている。だから領収書の発行できないお金を支払えば、すべてのペットを入国できるようにします。」
と、どうも腑に落ちない話を持ちかけた。

回りくどく、しかも不正な金を支払ったにも関わらず、入国許可証は正規の2匹分しか発行してくれなかった。
書類を作成してくれるという話ではなかったのか。
賄賂のために場所を移動する必要があったのか。
結構な時間費やしているが、猫たちがいるあの部屋はエアコンがついていただろうか。
色々と聞きたいことはあったが、最優先すべきは仲間たちの解放である。
空港へ向けて日本の自宅を出てから、10時間は経過している。

しかしそこから金額の話が始まった。
まずいくらかをVND(ベトナムの通貨:ドン)で要求されたが、両替の為ほとんどの現金を空港で別れた夫に渡してきている。
ドンは持っていないことを伝えると、日本円で5万円あるかと聞かれた。
財布には日本円で3万3千円しかなく、5万も持ってないないことを伝えると、3万円ならどうだと値下がりした。
お?これは値切れる?と思った私は、3万は持っていないと伝えた。
すると職員は、空港に戻って夫からお金をもらえるかと聞いてきた。
待てよ、この人は空港で私が夫にお金を渡す現場を見てたな。下手したら5万支払うことになるんちゃうか。と思った私は、
2万なら!持ってます!と即座に彼に2万を握らせ、2万で交渉成立したのである。

一仕事終えた感が半端なかった。

そして空港に戻ることができ、仲間たちの様子を確認すると、しろ以外は寝ていた。
しろは人を殺しそうな目をしていた。
ブチギレである。
死ぬくらいなら殺してやる、くらいの意気込みは生きるうえで大切である。
不安と緊張で口呼吸でもしてるのではないか、泡を吹いているのではないかと思っていた私は、安心した。

そして思い出した。
夫のパスポートは私が持っていることを。
しかし彼は、タクシードライバーと会えたから荷物は積み込んだと連絡をくれていた。
パスポート無しでどうやって出たんと聞くと、
「JAPANブランドは最高やで!パスポート出せってゆわれたけど、フロムジャパン!フロムジャパン!てゆうたらパスポート無しで出してくれたわ。」
とのことで、日本人で良かったのである。


ベトナムにメインクーンはいないそうで、
職員はメインクーンと写真を撮らせてくれと言って、いろんな人を呼んできては「メインクーンメインクーン」と紹介して写真を撮っていたが、キリがないので、猫たちは長時間の移動に疲れているので、次の人で終わりにしてくれと撮影会を切り上げてもらった。

とにかく、私が言いたいことは、
賄賂で解決する話なら、時間をかけないでほしいということである。
とりあえず仕事をするにも、何をするにもベトナムでは時間がかかる。
しかも、日本のように関係各所への承認、などという時間がかかる理由が明確な話ではない。
終わってみれば、最初からこうしたらええやん、ということがほとんどなのである。
生産性、合理性を好む人たち(私を含む)には少々、いや大変消耗することなのだ。
アンダーマネーの慣習、基本的なルールの違い、国民性の違いなど、郷に入っては郷に従うことを加味した上でも、しょうがなくない場面が多々ある。

しかし、
ベトナムへ入国できるペットの数が2匹までということが本当に定められているのであれば、私と仲間たちはこの慣習に救われた(本当に定められているのであればの話、お金を取るためのただのいちゃもんである可能性はある)。
もっと言えば、ベトナム語を話せないのにベトナムで働き、暮らしていける(そこそこ快適に)ということも、受け入れてくれている方々がいるからなのである。
だから私は、ベトナムが嫌いではないのである。

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