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梗概練習

読んだ作品の梗概を数百字程度で書く練習。短編10作を目標📚

No.01『マクスウェルの悪魔』ケン・リュウ

 日系アメリカ人のタカコは家族を守る為に市民権を放棄し、日本軍に捕らえられたアメリカ人捕虜との交換で日本に渡った。物理学を専攻していた彼女は大日本帝国陸軍士官である秋葉の目に留まり、母の故郷である沖縄の研究所に帯同することになった。
 在野の霊媒師であるユタの血を引き継ぐタカコは霊との交信が可能で、秋葉の狙いは〝マクスウェルの悪魔〟の役割を霊に担わすことで軍のエネルギー源を確保する理論を確立させることだった。霊は一本の糸を動かす程度の作用でしか現実世界に干渉できず、タカコは試作品の箱にある絹の仕切りを動かせられるよう霊たちを訓練する。次第に箱が熱を帯びていくことに彼女は恐怖を覚えた。そしてアメリカ軍への密かな報告書に霊たちを忍ばせ外に放ち、秋葉には霊たちは忠実な臣民ではなかった為に逃げ出したと説明した。
 日本軍の戦局は厳しくなり、秋葉が所属する部隊も逃げ場がなくなっていた。彼はタカコに自ら霊となりマクスウェルの悪魔として振舞うよう求めた。天皇陛下の忠実なしもべである彼女なら実験を成功させられるだろうと。死を前にした彼女は最期の慰めにと服を脱いで秋葉を求める。そして隙をついて外へと逃げ出す。
 彼女はアメリカ軍兵士を見つけ、久しぶりに祖国の言葉を発しようとした。その時、集中射撃がタカコを襲った。霊となった彼女は兵士たちが立てた星条旗からほころぶ糸に自らを結ぶ。この旗とともに祖国へ帰ることを夢にみながら。(606字/「宇宙の春」収録)

No.02『魚舟・獣舟』上田早夕里

「私」はかつて生涯を海で過ごす海上民だった。海上民はヒトと魚の双子で生まれ、魚は成長するとヒトの元に〝魚舟〟として戻ってくる。陸上民となった私は〝獣舟〟と呼ばれるヒトとはぐれ変異した魚舟を討伐する部隊で働いていた。
 ある時、立入禁止区域への侵入者が捕まる。その人物は幼馴染である「美緒」だった。美緒と私は幼い頃に彼女の魚舟を子供心から来るいたずらで傷つけたことがあった。それをきっかけに魚舟は美緒の元を去り、彼女には暗い影が滲んだ。自責の念と海上民の慣習への苛立ちから私は海を捨てて陸に渡っていた。美緒の要求は彼女の魚舟が上陸した際に、海へ誘導するから砲撃を待ってほしいということだった。獣舟は人間が浜を監視しているにもかかわらず上陸してくる知能の低い生物だという私に対して、美緒は魚舟から変異した獣舟には別の狙いがあるような気がすると告げる。
 獣舟が出現すると、彼女は海上民と魚舟を繫ぐ〝操船の唄〟を歌いはじめる。動きが鈍くなったように思えた獣舟だが、鰭で彼女を叩き飛ばした。射撃がはじまる中、美緒は私の腕の中で絶命する。討伐後、獣舟の死骸は突然蠢き、中から大量の小さな生物が現れ内陸へと消えていった。獣舟はあくまで器であり、進化した中の生物たちが上陸することこそが狙いだった。
 私は獣舟の死骸から鰭を切り取り彼女の身体に結わえた。そして獣舟への憎しみを抱えながら亡くなった双子を海に還した。(597字/「魚舟・獣舟」収録)

No.03『ジーマ・ブルー』アレステア・レナルズ

 美術ライターのクレイは高次元サイボーグのアーティストであるジーマの招待を受け、彼の島を訪れた。クレイは〝AM〟と呼ばれる外部記録用のAI機器を使用していたが、ジーマからの要望で島へは持ち込まなかった。ジーマはAMではなく神経インプラントを使用していた。記憶を機械的に記録するAMに対し、自意識と統合されるインプラントは機械的な記憶ではなく想像力や誤謬を伴う。ジーマはその感覚を大事にすべきだと主張する。
〝ジーマ・ブルー〟と呼ばれる彼の作品群を象徴する青色を生み出した時、ジーマはこの青色に自分の重要だった経験が眠っていると直感する。そして自らの過去を探っていくなかで、自らがサイボーグではなく完全な機械だったことを知る。ジーマは元々、プールの壁面を清掃する為の掃除用ロボットで、ジーマ・ブルーはプール内のタイルの色だった。彼の歓びはプールのなかで生まれ、この原風景こそ取り組むべき最期の作品だと彼は告げた。
 多くの観客が見守るなか、ジーマは最期の作品としてプールに身を投じた。そして自らを段階的にシャットダウンしていく。高次元の機能を持ち合わせていたジーマは、次第に単純な掃除ロボットへと逆行し、原風景へと還っていく。(508字/「2000年代海外SF傑作選」収録)

No.04『適切な愛』グレッグ・イーガン

 カーラは事故で重傷となった夫のクリスを救うために、クローンへ彼の脳を移植することを考えていた。しかしクローンが育つまでの二年間は夫の脳を生命維持装置につなぐ必要があり、彼女の収入でそれをまかなうのは難しかった。保険会社が代替案として提案したのは、費用が最も安い〝生学的生命維持〟と呼ばれる人間の血液供給による臓器の維持技術だった。それは彼女の身体を「入れ物」として使用することを実質的に意味していた。カーラは保険会社に勝手に身体を使われることへの嫌悪と夫への愛との間で苦悩し、最終的に自らの身体で夫の脳をつなぎとめることに同意する。
 二年後、代理母がクリスのクローンを産み、カーラの子宮から摘出した脳が移植された。クリスもリハビリを重ねる内に自らを取り戻し、夫婦は少しずつ以前の生活を取り戻していったようにみえた。変化が起きていたのはカーラの方だった。
 クリスの脳を育てるなかで、カーラは子宮から本能で感じる母性愛を拒絶し、彼の死そのものを踏みにじっていることを悟る。かつてクリスに感じていた適切なはずの愛情を理性によって抑え込んだ。
人間性を失ったカーラは、様々な本能を克服する感覚が自分のなかで育っていることを感じていた。(516字/「しあわせの理由」収録)

No.05『ドッペルイェーガー』斜線堂有紀

 沖野慶樹けいじゅは彼女の婚約者である阪本光葉みつはと同棲している。正しさを重視する彼は慶樹の優しい性格に惚れていたが、彼女自身はそう思っていない。彼女は光葉が言う優しさと、嗜虐性が自分のなかに共存していると感じていた。
 正確な3DCGモデルを作成する技術である〝ライカス〟には、脳波から生み出した意識をインストールすることが可能だった。慶樹は自らの意識から抽出した3DモデルであるケイジュをVR空間に保管し、狩人のアバターを使用し定期的にケイジュを狩り・・に出ていた。何度も狩られる内にケイジュ自身もまた自らの嗜虐性に目覚めていく。
 ある時、光葉に狩りの記録が録画されたハードディスクが見つかる。彼はこれまで信じていた婚約者の優しさが崩れていくことにショックを受けながらも繰り返し狩られている3Dモデルを不憫に思い、ケイジュを救うためにVR空間へ入っていく。駆け寄ってきた狩人にケイジュは殴り掛かる。そして遂に狩人を狩ることに成功した。ケイジュのなかは達成感と快楽で満たされていた。(451字/「狩りの季節」収録)

No.06『円円のシャボン玉』劉慈欣

 幼い頃からシャボン玉に夢中になっていた円円ユエンユエンは大学でナノテクノロジーを学び、起業すると先進的な太陽光電池を開発し巨額の富を得た。円円の父親は水不足により荒廃した故郷の市長となり、娘に市の水処理計画への投資を打診するが、円円は表面張力が自動調節される〝飛液フライング・リキッド〟の研究開発に用いたいと断る。彼女の目的は巨大なシャボン玉を作ることだった。
 二年後、父親の誕生日に円円は故郷の空に飛液で作った巨大なシャボン玉を出現させる。シャボン玉は街に落下するが割れることなく街の一部を覆った。固体は通すが気体を通さないシャボン玉の性質に注目した父親は、海から湿気を含んだシャボン玉を故郷の上空で破裂させ、街に雨をもたらす計画を思いつく。十年後、海上には巨大な〝天網〟が建設されシャボン玉が飛びはじめる。円円の故郷に雨が降る。(373字/「」収録)

No.07『砂と灰の人々』パオロ・バチガルピ

 人類以外の生態系は滅び、人間もまた章句両利きに対応するために自らの身体を変化させている世界、資源採掘会社の現場警備員と働くチェンは同僚のリサとジャークと採掘場で働いていた。ある時、システムが敷地内に異常を感知し、彼らが駆けつけるとそこには今はもういるはずのない本物の犬だった。リサは犬を食べようと提案するがジャークは物珍しさから飼ってみたいと反論した。結局、ジャークが餌代を持つことを条件に三人は犬を飼うことにした。ジャークは古いデータベースを漁り、犬に芸を教え込む。犬はチェンにも懐き、彼の横で朝まで眠るようになった。チェンは不思議な感覚を覚える。
 休暇に訪れた海辺で犬が有刺鉄線に絡まり瀕死の状態で見つかる。リサとチェンが助けようとするなか、ジャークは餌代が高いことを理由にこれを機に犬を食べようと提案する。三人は犬を焼いて食べた。その後、海で遊ぶ二人をよそに、チェンは犬に頬を舐められた感触を思い出し何かを失った気分になる。(417字/「第六ポンプ」収録)

No.08『雲南省スー族におけるVR技術の使用例』柴田勝家

 大学で民俗学の研究をしている「私」は〝スー族〟についての調査報告を記録している。端童ルートンと呼ばれる外部向けの案内役に導かれ、私は自治区に入っていく。スー族はVRのヘッドセットをつけて生涯暮らす少数民族で、籐座アタドウと呼ばれる独特の椅子に座りVR空間で日々の生活を送っている。席を外すのは用を足すときと寝るときのみで介助人の手を借りて移動する。スー族の世界は点と線の集合でできているという。しかし、スー族と私たちではこの点や線に対する認識に差異があり、それを伝える術はないとスー族の長老は語る。
 私はオンラインセッションでまとめたスー族についての記録を学生たちに共有する。私にとっては存在を知らない学生たちもまた記号の連なりであり、文字上でしか彼らを判別できない。そして、それはスー族の見ている世界に近い。(363字/「アメリカン・ブッダ」収録)

No.09『影が重なる時』小松左京

 記者の津田は夜中に友人の野村に呼び出され彼の住むアパートを訪れた。野村によると、部屋にもう一人の自分の幽霊がいるというが津田には見えなかった。同様の事例は街のあちこちでも発生し、そして津田も自らの幽霊を目撃する。津田の幽霊は会社の玄関に走り込もうとしたまま静止していた。
 調査を続ける中で、津田は幽霊たちの時計が七時二十分前後で止まっていることに気付く。そして宇宙空間で一週間以内に核実験が行われる外国の記事を目にした時、街に災厄が降りかかると直感する。空から騒音が聞こえ、津田は新聞社に逃げ込もうと走り出した。津田と幽霊が重なった時、宇宙空間で失敗した実験の影響で街は光に包まれ、人々は時空の外へと吹き飛ばされた。(309字/「霧が晴れた時」収録)

No.10『海の指』飛浩隆

 志津子と夫の和志は泡洲あわず島の小さな町饗津あえづで暮らしている。泡洲の周りには霧が立ち込め、その奥に灰洋うみと呼ばれる灰色の流体が広がっている。それに触れた物質は一瞬で砂のように分解され流体の一部となってしまう。志津子の前夫である昭吾もそうだった。
 和志の勤める泡洲音響工作社では、灰洋と泡洲を隔てている霧に音波を当て、そこが開けたわずかな時間で重機を用いて灰洋から泡洲にはない資源を引っ張り出す。ある時、和志が作業していると霧が晴れた。境目にいたのは昭吾だった。その後ろから灰洋の突起物、通称「海の指」が大量に現れ饗津の町に侵食していく。志津子の前に現れた昭吾は彼女を灰洋に連れ戻そうとする。昭吾の死因は、夫の暴力に耐えかねた志津子が灰洋に突き落としたためだった。和志は音波を頼りに灰洋の中から志津子を見つけ出す。音響車を襲おうとする昭吾の腕を重機で切り落とす。泡洲から指たちが引き上げていった。和志は志津子と再会を果たすが、彼女は既に砂と化していた。
 騒動からひと月、和志は次の襲来に備え、音響車に乗り作業現場へと向かう。(474字/「自生の夢」収録)

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