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音楽は場をつくる「アメニティ」のひとつ カワムラユキ×糀屋総一朗対談2

ローカルツーリズム株式会社糀屋総一朗と、さまざまな分野で活躍されている方の対談シリーズ、今回は選曲家・作家・作詞家・プロデューサーとして活躍されているカワムラユキさんです。対談の2回目は、空間に合わせた「音」の考え方、現代社会においての旅と生き方についてです。

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空間に合わせた「音」の重要性

糀屋:これまでのお話をうかがって僕から音について切り出すのは、めちゃめちゃハードルが上がっているんですけど……(笑)。日本って、目に見えるもの、たとえば建物とかにはすごい力を入れてくるんだけど、目に見えないものに対して非常に雑に扱うところがあると考えてます。多分、意思決定者が「ここでこんな音楽かけて」とかは考えもしていないんですよ。本当なら音も時間によって変えた方がいいけれど、それをオペレーションできてない。だから建物としてはすごくかっこいいのに台無しになっちゃう。ここ行って良かったな、というよりは、なんかがっかりしちゃうことの方が多いなと思っていて、そこが問題だなととらえてるんです。

カワムラ:がっかりすること、多いですね。

糀屋:これってなんでなのかな? と考えてて……。なぜここでこんなJ-POPがかかってるの? みたいなことが平気で起こってて、でもそこを運営している人たちはそのことについてなにも思っていないっていうのは、かなりの欠陥だと思うんです。

カワムラ:J-POPがはまる場所、というのもあるんですけどね。そればかりではちょっと。

音楽はアメニティ以上でも、以下でもない

ーーその場所にふさわしい音量とか、出過ぎないバランス感覚っていうのはありますよね。音楽の役割って、何だと思います?

カワムラある種のアメニティですよね。従来のアメニティは「タオルをオーガニックコットンにしました」とか、それを「自然に負荷のない弱酸性の洗剤で洗ってふかふかにしてお出ししてます」とか、「歯ブラシは竹にしてます」とか、目に見える形で反映されやすいんですけどね。音楽も一般的に多く流通しているもの基準ではなく、その空間にこだわったものを出してほしいなと思います。それも、ホテルのシグネチャーっていうものになると思うんですよ。

音楽はその場の「アメニティ」となりうる

糀屋:アメニティって考え方はいいですね。

カワムラ逆に言ったらアメニティ以上ではないと思うんですよ。お客様が必要なければ切ってしまえばいいし、例えば歯ブラシを使い慣れないお客様もいて、ご自身がお持ちいただいたものを使う方もいるかもしれないし、タオルも自分が持ってるものを使うよって方もいるかもしれない。そういう総合演出の一つだと思います。

音楽はなぜか、一番最後になりがちというイメージですね。私は人の注目を集める音楽現場を10代からさんざんやってきて、自分の中で「もうこれ以上の景色は、自分が発信者となる場合には、ちょっとないな」というピークを23歳で迎えたんです。

それで音楽の分野で、サウンドスタイリストという存在として何ができるか。音楽をライブハウスやクラブとかフェスとかで、集中して見てもらう、熱狂させるものだけに特化するのではなく、その逆というか……。熱狂から解放してリラックスして、その景色が消化できるような、そのお手伝いができるようなサウンド空間の提供をやっていこうって思ったのが24歳の頃で、そこからずっと20年近くやってきました。やっと最近、糀屋さんみたいに空間に関しても重要性を考えてホテルを作ってくれる方が出てきてくださって、すごく嬉しいですね。

糀屋:ホテルのアメニティには持って帰れるものもあって、思い出になったりしますよね。

カワムラ:『MINAWA』さんで使ったアメニティが「なんか素敵な香りだよね」って思って調べたら、タイのブランド『THANN』だと知りました。私、タイがとても好きで、やっぱり自分の好きなものとすごくシンクロするものがあったのが嬉しくて。使ったモイスチャライジングクリームの残りをちょっと持って帰って、家に戻ってからも3日ぐらいは『MINAWA』の思い出に浸ってました。

糀屋:そういったとき、そこでかかっている音楽も大事で……音楽って記憶のしおりみたいなものだから。

カワムラ:そうなんです。もし誰かと一緒にいたとしたら、その思い出のシーンみたいなものになるわけじゃない。そのときにやっぱり音楽があった方がもっと強度を増すと思うんですよ。

偶然との出会いを楽しめるかこそが「生きる」こと

糀屋:結構矛盾してるんですけど「いかに偶然みたいなものを、どれだけコンテンツの中に入れられるか?」ってことを考えているんです。「偶然を作る」っていう……。僕らが生きてる世界ってほとんど偶然じゃないすか。でも都市に生きているとそれに気づかず「また明日同じような時間が来て、同じようなところに行って」って、「必然的にまた明日も来る」みたいな世界で生きてるんですよ。けど、そうじゃない場所をどうやって作るかってことがすごい重要だと思ってて。今回の対談するにあたってカワムラさんのテキストとか音楽とかを聴いていたら、そこで大事にしてるのも似たようなことを感じるときがあって「瞬間の刹那」とか「偶然性」とかがあるように思えたんですね。

カワムラ:それはあるかもしれないですね。

糀屋:勝手ながらそういった感受性みたいなところは、僕とカワムラさんはすごい近いものがあるのかな? って感じたんですよね。

カワムラ:いろんなことがアルゴリズムでガチガチになって、行動パターンが決められたり、導かれたりしていくっていう中だと、人間は細胞も活性化しないと思うし、感受性もざわめかないと思うんですよね。逆にサプライズとか偶然から知る驚きとか、そういうものに巡り合えたときって、人間の人生においてすごく豊かな時間だし、思い出に残るし、本当に楽しいことだと思うんですよ。生きるって、感受性を高めていくことだと思うんです。

カワムラさんとの共通点について話す糀屋

そういう意味では旅って日常のルーティンからの解放だから、まさに偶然との出会いだと思うし、そうであるべきだと思うんです。田舎のバスが時間通りに来ない時間、みたいな偶然を楽しめないのは人生にとってものすごく貧しいことだと思う。それをエンジョイできることが、本当に人生を頭の先から足の先まで楽しめてるってことだと思うんですよね。

糀屋:円山町の『渋谷花魁』でやろうとしてることっていうのは、テキストでも拝見して、多分「偶然を楽しむこと」を目指しているんじゃないかなと思いました。

カワムラ:そうですね。完璧は全く目指してないし、例えば働いてるスタッフもミュージシャンのようなものだと思っているんですよ。調子のいい日もあれば悪い日もある。お客さんとの巡り合わせによっては調子の悪いスタッフの調子も良くなって、100倍の結果になるかもしれないし、悪いところで同調しちゃったら闇落ちしちゃうかもしれない。でもそれもこれも含めてその日のある種の結果だと思うし、恵みだと思うし、なんかそういうのを人生で楽しめていければいい。「合理性からいかに解放されるか」がテーマです。なぜならば、こんなに世の中は合理的なんだから。そういうこと、旅する人に感じてほしいですね。

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カワムラユキ
渋谷拠点の選曲家/作家/作詞家/プロデューサー。バレアリックやチルアウトを軸に渋谷区役所の館内BGM選曲や、文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞したオープンワールドRPG「CYBERPUNK 2077」楽曲プロデュースなどを担当。作家としては幻冬舎Plusにて音楽エッセイ「渋谷で君を待つ間に」を隔週連載中。音楽家としての最新リリースはIbiza島のレジェンド、故Jose Padillaに捧ぐ「R.I.P. Sunset」を、自身が運営するミュージック・ブランド&レーベル「OIRAN MUSIC」よりリリース。DJとしての感覚を活かした空間演出やアートディレクター、イベントのプロデューサーとしても融通無碍に活動中。
https://fkg.amebaownd.com
twitter&instagram:@yukikawamura821

聞き手・高橋ひでつう 構成・齋藤貴義 撮影・藤井みさ
撮影協力・BAR TAMBI

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