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外の目を入れることで活性化する、地域×アートの可能性 カワムラユキ×糀屋総一朗対談3

ローカルツーリズム株式会社糀屋総一朗と、さまざまな分野で活躍されている方の対談シリーズ、今回は選曲家・作家・作詞家・プロデューサーとして活躍されているカワムラユキさんです。対談の最終回では、地域とアートの可能性について語りました。

前回はこちら!

「その場所」だからできることがある

ーー『渋谷花魁』は音楽を通してウォーミングアップ出来るお店ですよね。渋谷の円山町で、そういうお店をプロデュースしたのはどういう意味があるんでしょうか?

カワムラ:『渋谷花魁』があるのは円山町のはずれの古民家ですから、飲食店として決して一等地ではないんですよ。ただ、これは「島」や「地方」と同じで、一等地である必要は全くない。「そこ」だからこそできること、というのはあるんです。だから、クラブでもバーでもない、ウォームアップバーということにした。それで12年やっています。

以前、代々木で『代々木カリー』というお店をプロデュースした時もそうだったんです。代々木で何かお店が作れないか? と相談を受けまして……『花魁』みたいなものを期待されたいたのかもしれないんですが、場所も、作りも『花魁』とは全然違う。元々は本屋さんをやっていた場所で、建物は完全に「本屋さん」に向けて作られた構造だったんですよ。それで、ここならカレー屋さんをやったらいいんじゃないかな?って。他にはなかった「和出汁」のカレー屋さんを作りました。

島でも都会でも、その「場」でしかできないものがある

ーー代々木の駅前で和カレー。人気店になりましたよね。

カワムラ:もともと期間は区切って出店したものだったんですが、コロナ禍もあって予定よりは早めに閉めちゃいました。

外部からの刺激で新たなものを生み出したい

ーーカワムラさんと糀屋さんで、何か一緒にやれることがあれば面白そうですね。

カワムラ:純粋に自分ができることでいえばやっぱり選曲。選曲は無限にいくらでもできますので、空間に来てくださったお客さんが良くも悪くも、素敵な偶然に巡り合えるようなサウンドスケープをご提供させてもらうとか……。糀屋さんのお持ちの空間なのか、もしくはそこから発生するサービスだとか、そういったものでコラボレーションできることがあったらいいなとは思いますね。選曲をする人間をこれからも増やしていきたいという気持ちもあるので、選曲家として才能のある人間を積極的に、そういうプロジェクトの中に連れてきたりもしてみたいです。

糀屋:例えば僕が今投資をしている福岡県宗像市の大島でいうと、歴史上、アートに触れる機会が少ないんですよね。貝殻を使って何かを作っているおじさんがいたりとか、それはそれですごくまた面白いものなんですけど、いわゆる「アーティスト」と言われる人たちは本当にいない。僕は島に今までになかった、異分子みたいなものを取り込みたいと思っているんですよ。「この流れでいきなりこれ入れ込んだらどうなるんだろう?」みたいな、ちょっと実験してみたい部分もあって「それによって引き起こされる何か」が島のためになるんじゃないか? って考えているところです。

カワムラ:うんうん。

糀屋:たまたま今回、井口真理子さんって現代アーティストの方が大島を気に入ってくれて移住してくれるんですけど、そういう、大島にいなかったような人、異分子が入ったときにどうなるのか? っていうことにすごく興味があります。もしかしたら島の中に溶け込めないかもしれないけど、もしかしたら溶け込んで、想像もしてなかったような新しいアクティビティが生まれたりとか、想像もしなかったものができるかもしれない。

日本の地域が「駄目になる」「衰退してる」って言われるのって、やっぱり旧態然とした価値観がはびこり続けた結果なんだと思います。旧い価値観のまま地域が良くなるっていうことはあり得ないのは自明なんです。であれば、地域を良くする解は「外との交流、回路をどうやって増やしていくか」。僕はそういう問題意識の中で、地域とアートの関係を捉えてみたいと思っています。

カワムラさんが詩を書いた写真詩集「あなたの水になりたい」。加賀温泉郷『瑠璃光』の25周年を記念して刊行された

カワムラ:やっぱり旧態然として、なかなか新しいトレンドや音楽が入ってこないとかは感じるときはありますね。でも異分子が入ってくることで、これまで見たことのないような産業が生まれたりした一部始終を、実際に何件か見たこともあります。

糀屋:おお!

カワムラ:お父様からそのまま空間を受け継がれた3代目の方が、学生時代に東京でみたものを自分の地元でもやりたいってことで、賛否両論ありながらも、結果評価された、という事例もいくつか見てきました。そういう方々を後押ししたり手伝ったりは、過去に仕事としていくつかやったことがあります。

本当に地方って、40歳とかになってやっと順番回ってくるみたいな状態なんですよね。好きに何かをやれてるんだなって思ったら、その人は40歳くらい。それがもう少し……25歳とか30歳とかってパターンがあってもいいのかなと思ったりしますけど。地域は「よそ者」と「馬鹿者」をもっと育ててかないといけないんですよね。年功序列感はやめたいんですよ。

糀屋:即座に明日からやめたいですね(笑)。

カワムラ:別格の立ち位置で物事をやっている人って、元々年功序列からは最初から外れてる人。上も下も真ん中も、その人自身は全く関係ないみたいにされている方ですね。

糀屋:今日お話してて、カワムラさんってどういう人なのかなって一言で言うと、多分、奇跡を作る人。以前どこかで「ハッピーとラッキーを作る」ってお話をされていたと思うんですが、偶然性、飛躍したものみたいな何かかなと思いました。大げさかもしれないですけど、地域事業で僕がやりたいことってそういうことなのかなって感じました。そういうところの感受性は勝手ながらすごく似てるなって。なので、そういうところをベースに、何か具体化するようなことを一緒にやりたいなって思います。

今後なにか新しい展開も生まれる予感です

カワムラ:私も『MINAWA』に行かせてもらって、そのセンスの極みを堪能させていただいて。あれは、自分でも一生忘れないモーメントの一つです。

糀屋:ありがとうございます。めちゃくちゃ嬉しいです。

カワムラ:それこそラッキーとハッピーです。島だから、雨が降ることもあるよって言われていたにも関わらず、本当に偶然めちゃくちゃ晴れて、すごいサンセットで、星空もめちゃくちゃ綺麗で。買い込んでいったバーベキューの材料、全部消化できるほど! 素敵な時間でした。

糀屋:今後ぜひ、なにか一緒にできたらと思います。今日は本当にありがとうございました!

カワムラユキ
渋谷拠点の選曲家/作家/作詞家/プロデューサー。バレアリックやチルアウトを軸に渋谷区役所の館内BGM選曲や、文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞したオープンワールドRPG「CYBERPUNK 2077」楽曲プロデュースなどを担当。作家としては幻冬舎Plusにて音楽エッセイ「渋谷で君を待つ間に」を隔週連載中。音楽家としての最新リリースはIbiza島のレジェンド、故Jose Padillaに捧ぐ「R.I.P. Sunset」を、自身が運営するミュージック・ブランド&レーベル「OIRAN MUSIC」よりリリース。DJとしての感覚を活かした空間演出やアートディレクター、イベントのプロデューサーとしても融通無碍に活動中。
https://fkg.amebaownd.com
twitter&instagram:@yukikawamura821

聞き手・高橋ひでつう 構成・齋藤貴義 撮影・藤井みさ
撮影協力・BAR TAMBI

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