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旅と音楽は切り離せない存在 カワムラユキ×糀屋総一朗対談1

ローカルツーリズム株式会社糀屋総一朗と、さまざまな分野で活躍されている方の対談シリーズ、今回は選曲家・作家・作詞家・プロデューサーとして活躍されているカワムラユキさんです。対談の初回は、旅と音楽についてカワムラさんが考えていることについてうかがいました。

旅の準備にも音楽を

ーーまずは「旅と音楽」みたいなところをテーマにお話をいろいろ聞けていけたらいいなというふうに思っているんですが。

カワムラ:私は旅に限らず、音楽が頭の中でずっと鳴ってるタイプなんですけど、旅のときはもういつもに増して鳴ってますね。

糀屋:原体験として音楽と旅が紐づいた記憶で、なにか覚えてることってありますか?

カワムラ:そうですね、今の仕事に……音楽業界に最初入ったころ、プロモーターとかイベントのオーガナイザーみたいな入り方をしたので、そうするといろんなアーティストを地方に連れて行く機会があるんです。アーティストたちはアッパーな曲を書く感じの人たちが多かったんで、現地に着くとそういう音楽を聴くことになるんですね。なので、その分、移動中の時間はメロウなものをずっと聞いていたい、って思っていたのを思い出します。それに、移動時間は落ち着きたかったし。それは自分がDJとして移動する時も同じですね。アッパーなゴールに向かっていくまで、ウォームアップの音楽を聴いていたいっていうことでもあるんですよ。

糀屋:なるほど、なるほど。

カワムラ:それから旅といえば、私はゆっくり支度するのが好きなんですよ。ゆっくり洋服選んだり、ゆっくりスキンケアしたり、お化粧をしたり。そういうときにやっぱり音楽は不可欠ですね。

糀屋:それだけは全く逆ですね(笑)。僕は移動中に仕事しちゃってることが多いんですよ。移動時間になると「やっと落ち着いて仕事ができる」って思って、仕事をしてしまうタイプ。そういう意味では「余白」みたいなものがかなり失われてしまった感じで動いてるんです。ただ、音楽は好きなんですよ。そんなに詳しくはないんですけど……聞く音楽は、どちらかというとアッパーな音楽っていうよりは、割と静かなものが多いですね。何にも邪魔されない感じでゆっくり、ちょっとリラックスできるような曲ですね。でも、旅ということになるとどうしても仕事に追われちゃうんです。カワムラさんは、旅の準備のときって、どんな音楽を聴くんですか?

カワムラさんが旅をイメージして持ってきてくださったレコード、本、CD。どれも彼女らしいセレクトになっている

カワムラ:やっぱり、行く場所がどういう環境なのか?ってことによって変わりますよね。例えば、繁華街で美味しいご飯食べに行く時とかだったら、ちょっとシックなジャズを聞ききながら支度して……それでちょっとドレスっぽいものを着たりとか。この前、糀屋さんのお誘いで福岡県宗像市の大島にある『MINAWA』にお邪魔させてもらうことになったときは、自分にとっては未開の地だし、果たして本当にこの書いてある行程通りにちゃんと到着できるのか? とか不安だったりもするじゃないですか。

糀屋:(笑)。

カワムラ:「フェリーに乗る」って書いてあるけど、ちゃんと乗れるかな? 大丈夫かな? とか(笑)。そういうので何かちょっと宝探し的な……映画のサウンドトラックで言ったら、レオナルドディカプリオの『ビーチ』みたいなものを聴いたりとか。Moby(モービー)とか、Orbital(オービタル)とか、Mark Barrott(マーク・バロット)とか、楽園思考を感じられるような音楽を聴きながら、「日焼け止めどれにしようかな?」とか「虫除け必要かな?」とか。気温や湿度を調べて「おしゃれなアウターはどれにしようかな」とか「サンダルは必要かな」とかを考えたりしながら、バゲッジに全部入らない量の荷物をバーっと並べるのが好きですね。女優の萬田久子さんは旅には宿泊数を数えてコーディネートを決めるんだけど、その日数×3から4パターンを余計に持ってくらしいんですよ。

糀屋:へえ!

カワムラ:それは萬田さんだからできることですけど、私も1.5倍ぐらいは持っていきます。例えば気温によってトップス変えたりとか、ちょっとキャップを変えてみたりとか、その日の天候によってでアレンジできるようなコーディネート。「それ、どうやってバゲッジに入れるの?」みたいなことを考えて、集中するとき、音楽は不可欠ですね。

糀屋:すごいな! 自分の旅を映画的に立ち上げるみたいな感じなんですね。

「音」が旅の思い出を作る

糀屋:でも、日本の旅行地って、着いてみると急にJ-POPがかかっちゃってたりとかしますよね(笑)。そのあたりの気配りがなかなかない。カワムラさんは旅先で聴いた音楽がバチッと現地にはまったりした経験ってありますか?

旅に音楽は欠かせないものと語るカワムラさん

カワムラ:それは、いっぱいありすぎるほどあるんですけど……、最近だと、沖縄の屋嘉ビーチで友人がやっている『HOTEL towaie(トワイエ)』っていう小さいホテルがあるんです。古い友達で、元々東京でスーパーラヴァーズとかのデザイナーをやっていたんですけど、数年前に辞めて、沖縄に戻ってコザっていうところでセレクトショップをやってたんです。あ、ローカルに繋がりましたね。

糀屋:ほんとだ(笑)。

カワムラ:ちょっと話がそれますけど、土地代が安いから固定費が少なく済む。そうすると、すごい極まったセレクトショップをできたりもするんです。靴だったら「koji kuga(コージクガ)」とか、「ヒステリックグラマー」、「スーパーラヴァーズ」はもちろん、「20471120」とか、「マサキマツシマ」とか! 90〜2000年代のちょっとある一定の時期だけのものを集めたお店なんて、東京じゃできないじゃないですか。

その子が音楽好きの旦那さんとご結婚して、子供が産まれたから洋服屋さんを畳んでホテルの運営をやってるんですけど、そのホテルは部屋に「知名(ちな)オーディオ」っていう沖縄のメーカーのオーディオセットが置いてあるんです。ターンテーブルもあって、宿泊客をイメージしてレコードも数枚置いてくれている。

糀屋:あ、面白いですね。

カワムラ:そう聞いていたので、あえて自分では音楽を持っていかなかったんです。旦那さんが音楽好きで、私のことも詳しくて(笑)、ちゃんと私をイメージしたレコードが置いてある。その中の1枚がDJ PIPPI(イビザ島の伝説的なDJ)だったんです。それに感激して、部屋で30回ぐらい聴きましたね。

糀屋:ウェルカムカードみたいなもんなんですね。めっちゃセンスいい。

カワムラ:あとはね………あえて音楽がない無音の美っていうものに出会ったこともありました。京都の俵屋旅館さん。父親が生きてるときに一緒に旅行に行ったんですけど、無音ってこんなに美しいんだ! と教えてくれた場所でしたね。

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カワムラユキ
渋谷拠点の選曲家/作家/作詞家/プロデューサー。バレアリックやチルアウトを軸に渋谷区役所の館内BGM選曲や、文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞したオープンワールドRPG「CYBERPUNK 2077」楽曲プロデュースなどを担当。作家としては幻冬舎Plusにて音楽エッセイ「渋谷で君を待つ間に」を隔週連載中。音楽家としての最新リリースはIbiza島のレジェンド、故Jose Padillaに捧ぐ「R.I.P. Sunset」を、自身が運営するミュージック・ブランド&レーベル「OIRAN MUSIC」よりリリース。DJとしての感覚を活かした空間演出やアートディレクター、イベントのプロデューサーとしても融通無碍に活動中。
https://fkg.amebaownd.com
twitter&instagram:@yukikawamura821

聞き手・高橋ひでつう 構成・齋藤貴義 撮影・藤井みさ
撮影協力・BAR TAMBI

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