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まちづくりに必要なのは「冷静と情熱」 大井実×糀屋総一朗対談1

ローカルツーリズム株式会社代表・糀屋総一朗と地域で活躍されている方の対談、第2弾は福岡市でローカルブックストア「BOOKS KUBLICK(ブックスキューブリック)」を2店舗経営されている大井実さんです。まちづくりの中心にもなってきたという本屋の存在とは。1回目は大井さんが「街の本屋」をやっていく上で考えていることについてうかがいました。

大井実(おおい・みのる)
ブックスキューブリック店主。ブックオカ実行委員長。1961年福岡市生まれ。1985年同志社大学文学部卒業。東京・大阪・イタリアなどでイベント制作などに携わった後、2001年福岡市のけやき通りにブックスキューブリックを開業。近年珍しい新規開業の独立系小書店として全国的な知名度を得る。2006年各地に広がるブックフェスティバルの元祖と目されるブックオカを有志とともに立ち上げ、以降、毎秋に開催。2008年カフェ併設の箱崎店を開業。トークショーや展覧会を頻繁に開催し、本や著者の魅力を立体的に伝える場づくりに力を注いでいる。2017年「ローカルブックストアである」(晶文社)を上梓。

本屋から始めるまちづくり

――お二人の出会いから教えてください。

糀屋:僕は福岡に引っ越してきたときに、知り合いに「面白い人がいるよ」と大井さんの本「ローカルブックストアである 福岡ブックスキューブリック」を勧めてもらいました。なので、かなり前から一方的に知ってはいたんです。数ヶ月前に、MINAWAに置く本をセレクトしていただきたいと思ってお願いに行って、そこからおつきあいさせていただいています。

大井:今回はありがとうございます。

糀屋:大井さんは作家さんとのネットワークもあり、魅力的なイベントも多く開催されてらっしゃいますよね。先日僕、木下くんと対談したんですけど。

大井:木下くんとは僕もつきあいが長くて、トークイベントだけでも5回ぐらいやってるんですよね。最初に黄色い本(編集注:まちづくり デッドライン)で彼を知ったんですけど、15~6歳からまちづくりに関わっていて、当時彼は20代でしたけどすでにじゅうぶんなキャリアがあって、言っていることもまっとう。素晴らしい洞察にあふれた本だなと思って、トークをお願いしました。

その本の中で、「街全体を救おうとする護送船団方式は無理」「やる気のあって実力ある人がエリアで固まって出店することによって地域が変わる」というくだりがあるのですが、地域の中に真っ先に出店するのは、本屋とかカフェがぴったりだという話にもなって。そこで本屋はまちづくり的に寄与するんだな、と確信するに至りました。

糀屋:大井さんもまちづくりの先駆者として、他のプロジェクトからもアドバイスなどを求められることが多いんですよね。

大井:好むと好まざるとにかかわらず、そういう感じになっていますね。MINOU BOOKS(福岡県うきは市)の立ち上げに関わったり、うなぎの寝床(福岡県八女市)が本屋を出店したいというので、そこでうなぎブックスの立ち上げに関わったりもしています。

糀屋:本屋から始めるまちづくりってすごくいいなって思うんですよ。

大井:本は、あらゆる先人の叡智が詰まった媒体だと僕は思っています。それを扱う本屋は、対話を誘発しやすい場所となっていく。それがまちづくりにもつながっていくのだと考えています。

――大井さんが2001年にブックスキューブリックを開店されたときは、まず取次から本を仕入れるのも大変だったそうですね。

大井:本当に、その頃は参入障壁が高かったです。ですが最近は郊外の大型書店なども行き詰まっていて、打つ手がない。そこに卸しているだけではまずいと取次も気づき始め、僕が始めた頃よりはだいぶルールもゆるんできました。思い入れを持って、頑張って本屋をやろうという人を応援しないとまずい、という危機感を取次も持っていると思います。

取次と取引を始めるときは、まず高額の保証金を求められていたんですが、信販会社をかませると保証金はいらない、という制度が新しくできた。変わってきたかなという感じがしますね。

糀屋:その事例、初めて聞きました。事例として他にあります?

大井:最近始まったばかりなので、あまりないと思います。今回、うなぎブックスを作るときにいい機会だから使おう、となりました。取次にも喜んでもらえましたね。こういうパターンだったら、横展開して増やしていけるなと感じました。

知識と情熱の両方がないとだめ

糀屋:お店をやりたいと思っているような人たちって、かなりの高確率でお金でつまづいている印象があります。大井さんの話を聞いていると、そのあたりをすごくクレバーにやってるなと。

大井:いやいや、バカですよ(笑)。クレバーじゃない。

糀屋:いや、意外とそこでつまづく人、本当に多いですよ。かんたんな書類申請もできなかったりとか。その中で大井さんには、商売人的に地に足のついた感覚を感じています。だから木下くんとかと話があうんだろうなとも思うんですけど。

大井:そういう意味では、情熱と知識、両方ないとダメだと思います。オガールプラザ(岩手県紫波町)の岡崎(正信)さんが渋沢栄一の名言「右手に志、左手に論語」をもじって「右手に志、左手に算盤」と言っていましたが、そのとおりだと思います。右脳、左脳を両方使わないと。思い入れだけではだめだけれど、金勘定ばかりになって思い入れがないとつまらないものになってしまいます。

糀屋:やっぱり僕も、地域で事業を進めようとしている中でいろいろ起こります。大井さんは地域で仕事をしていますが、地域で仕事するって簡単にはいかないし、小さい商圏で人を巻き込んで継続していかなきゃいけないから、かなり大変なことだと思うんです。でも大井さんはそれを実践している。しかも書籍という、ある意味シュリンクしていくマーケットで、福岡という地方都市の少し外れのところで本屋、カフェ、パン屋と徐々にビジネスをバージョンアップさせて成功しているじゃないですか。僕がやろうとしていることはまさにそこで、すごくグッときたんですよ。

大井:僕はもともと転勤族で、高校時代は福岡にいて、卒業後に実家が千葉に移動したので東京で浪人生活をして、同志社大学に入って京都で過ごして、東京で働いて……と移動してるわけですけど。30代のときに大阪・四條畷でもともと荒物雑貨屋で、いまはギャラリーを開いている池田屋のオーナーの多河清さんと縁があって、「しばらくうちで働けよ」と言われて4年ぐらい働いたんですけど、彼にすごく影響を受けてるんです。多河さんは常々、酔っ払うたびに「商売は楽しげにやらないとあかんねや」って言ってて。深刻な顔をして商売していても人は寄ってこない、人間は楽しそうにしてる人のところに寄ってくるんだ、と。それって、やせ我慢といえばそうでもあるんですよ。

糀屋:本を読んでいても苦労話的なことは淡々と書かれていて、アイディアや実践したこととか、前向きな話が多いですよね。

大井:本屋をやっていく上でたいへんなことは、そりゃすごく多いですよ。でもいちいち愚痴って、「助けてください」っていうモードになっても仕方ない。僕の性格的にもあまり人に愚痴を言うタイプでもないし。苦労を語るよりも夢を語ったほうが楽しいと思いますしね。

実は僕が本屋を開業した同じ週に、小泉政権が発足しているんですよ。ちょっと象徴的な出来事だなと思っているんですが、小泉、安倍、菅と時代が変遷して、ずいぶんと富が失われたなと実感してるんだけど、衰退していく社会、衰退していく業種の中でやっていくんだから、大変なのは当たり前なんです。そういう、商売としては大変なんだけど、「ブックオカ」(編集注:2006年から秋に開催されている福岡の古本市)とかで人がつながっていったりという新しい可能性も見つけられてきた。悪いことばっかりではなくて、いいこともあるんです。

(取材・構成 藤井みさ)

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