見出し画像

地方こそ大都市に学び、人の交流を活発に〜地域活性のための商店街再生について話そう・後編


本記事は有料となっておりますが、最後までお読みいただくことができます。もしお読みいただいて共感いただけましたらぜひご購入ください。

地域活性化とセットで語られがちな「商店街の再生」。実際に商店街を再生し、にぎわいを取り戻すにはどのようにしていったらいいか?ローカルツーリズム株式会社代表の糀屋総一朗が、「商店街はなぜ滅びるのか〜社会・政治・経済史から探る再生の道」の著者である新雅史先生にじっくりとお話をうかがいました。

前編はこちら

地方こそ東京・大阪に学ぶべき

糀屋総一朗(以下、――):そもそも地域に魅力がないところに、商店街の活性化だけを論じても意味がないというお話をうかがってきました。それでも、もし今後活性化させていきたいと思った時は、どのようにしていけばいいでしょうか。

新:現代的な、新しい「商店街」は、チェーン的なお店が連なるのではなく、個人商店の集まりで成り立っていると定義できると思います。実は、チェーン店ではない個人商店が一番多いのは、東京と大阪なんですよ。

――なんとなく意外なイメージですよね。

:先ほども言った通り、住んでいる人たちが商売をやりながら魅力を形作っている場所が多いんですよね。個人店が成立できるような生態系を作り出しているのが、例えば東京だと自由が丘や下北沢、高円寺などだと思います。自由が丘は特に日本最大級の商店街振興組合で、加盟店は1,300軒に迫るというデータもあります。こういう場所は、もともと住宅だったところを用途転換して商売をしているところが多いですね。

――たしかに、東京や大阪にはちょっとご飯の値段は高くても、店主の人と知り合いになって交流を持てる店がありますね。

新:そういう、東京とか大阪のイメージを、地方の人こそ学ばないといけないと思います。「地方創生」「地域創生」というと、東京は大企業ばかりがあって大きなビジネスをしていて、地方はその対局のものとして語られがちですが、本当はそうじゃないんです。大都市こそ、個人ビジネスが集積している場所です。もともと住宅地だったところにうまく商業を紛れ込ませて、商業と住宅が連動していることでブランドを作り出しています。

地方こそ東京や大阪に学ぶべき

だから例えば、地方都市のリノベーションをしようと考えた時には、街の全部を変えようとしなくてもいいわけです。良好な住宅と良好な個人店が成立するエリアを決めて、戦略的に個人が商いをできて、住めるところを作った方がいいと思います。そのエリアの魅力が上がれば、また自ずと人が集まってくるはずです。

――その、「決める」というのが特に地域だと苦手というか難しい感じはありますよね。どうしても「全員が良くなる」みたいなビジョンを求めがちなのかなと思います。

新:日本的発想だとそうなってしまいますが、それだともう立ちゆかなくなります。国の定義に基づいて「商店街」をカウントすると、全国に13,000ほどあることになります。全国の自治体が1,700程度なので、そんなにあるのかどうか実態は疑問ですが、とにかくこれを支えようと流通とか商業の政策が行われてきました。しかしその弊害がいま目に見えてきているのだと思います。

13,000を全部無理に支えるよりは、良好な住宅と商業エリアがミックスされた場所を1カ所でもしっかり作っていった方がいいと考えます。

商店街はもっと外部とのコミュニケーションを

――今後商店街はどういった場所になっていくべきだと考えますか。

新:地域の人と、外部の人が接続できるような場所が望ましいのではないかと考えます。街の持っている資源を掘り起こし、場を作って外部とどう繋がっていくかを考えていかないといけません。そのためには商店街の人間が外部の人たちとコミュニケーションをもっと行なっていく必要がありますが、現状はそこが足りていません。すごく人材不足を感じています。

人が交流できる拠点を作ることも大切です

――人材不足は本当に、地域創生の大きな問題ですよね。

新:コミュニケーション力も高く、ある程度地域のことにも明るく、実行力のある人材はなかなか見つからないのが現状です。東京にしろ、大阪にしろ、名古屋にしろ、うまくいっている商店街はそこの権利者だけでなく、外の人間も含めて場づくりがうまくいっており、エリア全体が変わってきているところが多いです。

ただ、隣町がうまくいったから自分の街がうまくいくか…というと、一概にそうとも言えません。成功している地域を真似ようとするだけの地域、あるいは成功している事例に対してネガティブな感情を持つ人は、地域の可能性を信じることができない当事者意識に欠けた人だと思います。やはり成功しているエリアは、自分たちの地域資源を掘り起こし、その資源を通じて人と人をつなぐコーディネーターがいると思います。

――結局、人が重要ですね。

新:はい。地域振興などという名目で予算をばら撒いている政策が多々ありますが、本当に必要なのは、地域のコーディネーターとなる人に対して、資金面や教育面でサポートすることだと思います。

よく、成功した事例が出てくるとその場所が有名になり、こぞって「視察」などといって全国から行ったりしていますが、結果だけを見ても意味がないんです。「なぜうまくいったのか」というプロセスこそ学ばなければいけないのですが、そこに思い至らない地域がほとんどなのではないでしょうか。

近代家族的思考からの脱却を

――納得いくことばかりです。僕も今、福岡県宗像市の大島で事業をしていて、事業をすることで島の所得をあげているんですが、誰にも褒められないんですね。地域に関わるのは非常にタフだし、損得勘定を抜きにしてやらないこともある。そう思える人材がまず必要ですし、地域で経済を回していくのは一筋縄ではいかないなと感じています。それでも今、地域のファンドを作り、資産を地域で持てるようにして利益を還元していくという取り組みを始めたところなんです。私はこの取り組みを「地域資産の社会化」と呼んでいます。

昔ながらの駄菓子屋もある大阪・中津商店街

新:その発想は非常に重要ですね。先ほどと少し重なりますが、商店街の衰退は近代家族の思想が理由として大きいと考えています。血縁にこだわりすぎ、血縁以外の人は他人とみなすという考えです。

近代以前だと、「イエ」を存続させることが最も重要でした。家元制度などがその例ですね。もちろん血縁は重視しますが、100%ダメなのかというとそうではなかった。子供がいない、もしくは外部にもっと優秀な人がいるという時は、養子をとってその人を跡継ぎとしたわけです。

日本の商店街、個人商店は血縁関係にこだわりすぎだと思っています。子供がいなかったり、跡を継がないとなった時に、屋号や商店街をどう継承していくか。血縁のみを重視する論理だとうまくいきません。本来商売というのは経営の論理が適用されるべきで、「商売をいかにどう継続させていくか」ということが最も重要になります。商店街にはそれがなく、解決する方法論もまだ見つかっていないように見えます。

ですから先ほど糀屋さんが言っていたように、みんなでお金を投資して、ファンドを設立するのはいい取り組みだと思います。複数人の共同の権利として収益を分配できるようにしていくべきです。今までも家族、血縁の論理を優先したがために、なくなっていったものが多々ありました。

地権者が「協力したい」と思えるような魅力ある場所づくりを

――大島にも、人口600人ほどの小さい島なのに空き家が70戸もあってそれを利用したいんですが、権利者の方が島外に出てしまっていたり、そもそも誰の持ち物かわからないという建物がすごく多いですね。「親戚が戻ってくるから」とか「仏壇が置いてあるから」という理由で借りれないことも多いです。

新:それが、全国の地方で起こっている共通の問題です。今僕は兵庫県の明石市の商店街の再生に関わっているんですが、すごく素敵な写真館の建物があるんです。ぜひ街の拠点となるような場所として使いたいねという話が出ているんですが、写真館が閉まってから20〜30年ほどまったく手を入れていないんです。今は娘さんが権利者になっているようで、首都圏にお住まいのようなんですが、まずどう連絡したらいいかわからないというところがあります。

連絡先がわかったとしても、じゃあ首都圏まで誰が行くのか?という問題があります。交通費をかけて会いに行くことができるのか。たまたま首都圏に自分と同じ志を持った知り合いがいれば手伝ってくれるかも…というぐらいになってしまいます。そこが地方都市の厳しいところです。だからこそ、地域創生に関わる人がもっとネットワークを作り、つながっていかなければなりません

地域の人との交流を活発にすることも重要

その一方で、「権利者がわからない」「連絡が取れない」ことをデフォルトで考えないといけません。「権利者がわからないから、連絡が取れないからまちづくりを進められない」と言っていては、そこですべてが止まってしまいます。地権者が別のところにいることを前提に、その人が「自分の持っている土地が面白いことになっている」「こんなに地元が生まれ変わっているんだ」と思ってもらい、協力できるような体制を作っていかないといけません。

――そのような状況にしていくために、まず何をしていけばいいでしょうか。

新:なによりも重要なのは、情報発信だと思います。「この地域は、こんなに頑張ってるよ」と、権利者の人たちの心を動かすような情報発信をしていかないといけない。それがないと難しいです。地域の中でいくら頑張っていても、地域にいない人にはそれが見えませんから、頑張っている様子をローカルメディアでもなんでもいいので発信して、メディアを見てもらい、地域外の人たちに取り組みを理解してもらうことが本当に大事です。

――僕もやはり情報発信が重要だと考えて、この「ローカルツーリズムマガジン」を始めたのですが、まずメディアがないと何も動かないし、変わっていかないこともあるんだなと感じています。

新:理想なのはそれぞれのまちづくりの場所で、街を変えていく実践とメディアが二本柱で走っていくことです。

成功している例としては愛知県岡崎市があげられます。岡崎市のローカルメディアとして紙ベースでは「corin」、ウェブベースで「ぽけろーかる」というものがありますが、ほぼ毎日情報更新をしています。ライターは、在宅時間の長い地元女性の方が多いそうで、地域に根付いた開店・閉店情報やお得情報などを発信しています。

現状だとGoogle MAPのスポットに評価を書き込んだりする人が多いと思いますが、これをローカルメディアにリプレイスしていければ、かなり強力な情報源となります。岡崎でもこの10年ですごく個人店が増えて、街が変わったなと感じています。

今後商店街を残していくにしても、どうやって独自の色を出していくか本気で考えないといけない時期に来ています。単にお店をリニューアルした、とかだけではなく、まちをどう運営していくか。プレイヤーだけではなく、プレイヤーのことをわかっていて、発信力のあるコーディネーターが各地で求められています。今地域創生に取り組んでいる人、今後関わっていきたいと考えている人には、この視点をしっかり持って取り組んでほしいと考えています。

――納得いくことばかりです。今日はありがとうございました!

貴重なお話ありがとうございました!

ここから先は

0字

¥ 280

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?