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アートが生む「偶然性」が対話と交流を加速する フルタニタカハル×糀屋総一朗対談2

ローカルツーリズム株式会社代表の糀屋総一朗と、地域で活躍する方の対談シリーズ。今回は、大阪を拠点に長く音楽、アートなどのカルチャーを牽引し、今年3月に心斎橋パルコの地下にオープンした「心斎橋ネオン食堂街」の仕掛け人でもあるフルタニタカハルさんと語り合いました。対談の2回目は、アートにまつわる「偶然性」の効果と地域コミュニティにおける役割についてです。

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アートは地域を盛り上げるキーになれる

糀屋:アートをSNSで広げていく中でも「個のアイデンティティ」というのは大きな要素だと思うんです。今僕のファンドで支援している井口真理子さんも、アイデンティティみたいなものをどうやって作り上げていくかみたいなことを考えさせられますね。

今は大島に移住して一カ月目(※7月上旬取材日時点)。アトリエがついた住宅を作った段階で、絵を描くどころか、虫を退治するところから始めているんですが、その辺りのことをこのメディアで書いてもらってるんですよ。

フルタニ:生活を始めるまでの(笑)。制作以前の話ですね。やっぱり住むところが変わったり、旅行をすることによってインスピレーションが湧くところはあると思いますね。それを作品に反映していく人達って多いと思うんですが、その辺りが彼女のアイデンティティに大きく関わってきそうな気がしますね。

糀屋:僕も何が起きるか全く分かってないんですけど、どうなるのかな? って感じで見ていますね。島にとっては全くの異物じゃないですか。

フルタニ:みんな「なんでここに来たん?」って思うやろしねえ。でも、それこそモニュメントみたいなもの、彼女の存在感を表すようなものが作れたら、大島にいるアーティストとしてさらに面白い感じになるんじゃないですかね。船着場に絵を飾らせてもらう、みたいなことでもいいと思いますし。

グラフィティ界隈の話で言うと、90年代にアメリカで「バーンストーマー」というイベントがあったんですよ。田舎の掘っ立て小屋みたいな、誰も使ってないような倉庫みたいなところに、グラフィティの連中がみんな絵を描き出して、それが観光名所みたいになって行って、人がたくさん集まるようになった。ローカルで生まれたアートピースが価値を産んで、そこに人が集まるようなことってのはあるかなと思っています。

アートが地域にもたらすものはさまざま

糀屋:へぇー、面白いですね。

フルタニ:ハワイでもアーティストたちが集まって壁画を描く「パウワウ」っていうイベントがあって、それをきっかけに「パウワウジャパン」だったり「パウワウ台北」だったり、いろんなとこでパウワウが行われるようになったんです。

大きめの壁画を描いて、みんながその前で写真を撮って……今でいうインスタ映えスポットみたいな感じですね。それが拡散されて、その街が有名になる、みたいなこともありますね。「アート」と「SNS」と「ローカルツーリズム」みたいなものが、今後ぎゅーっと距離が縮まったりしてくるんじゃないかなっていうことはちょっと思ってましたね。

糀屋:ああ、なるほどね!

フルタニ:僕も結構色々仕掛けてやってるんですけど、大阪も今、壁画が増えてるんですよ。2025年には万博もあるので、アートがたくさんある街、みたいなところはもっと出していきたいと思っているんですよ。観光名所みたいなところをもっと増やしたい、という部分で「アート」の力で何かできるんじゃないか? と。

糀屋カワムラユキさん(選曲家、作詞家、プロデューサー)と話してからずっと感じていることなんですけれど、アートをはじめとして計算の出来ない偶然性の高いものを指向して、そこに人生を費やしている人って特徴があるかなと。「今までにないこと」「飛躍したもの」を見つけるために偶然性を大事にしているんですよね。それはフルタニさんにも繋がるなと思えてきますね。

地域でアートを展開することで、いろんな人たちが来て、いろんな感じ方をして、それがいろんな形でメッセージになって、いろんなことが起きていく。アート的な計算外のものが街の中に現れてくると、結果として今までにいなかった人たちの交流が発生して、街の多様性みたいなものが上がってくると思うんですよ。偶然性みたいなことを大事にする人っていうのが、これからの街づくりでは重要なんじゃないかなと思えますね。

フルタニ:偶然性を求めてるというのはあります。言葉を選ばずに言えば「行き当たりばったり」で(笑)、面白いんじゃないかなって思うことを直感でやってるとこもあるんです。それが誰かにはまって面白がってもらって、今はこの心斎橋パルコの地下で店をやってるようなところまで来てると思ってるんですよ。

コミュニティ作りの大事さ

フルタニ:そもそも最初は「心斎橋パルコに出店しちゃってもいいのかな?」って不安に思ってたところがあったんですよ。

糀屋:すごいことですよね。

この場所もまた、自由な交流が生まれることを意識されている

フルタニ:確か最初、渋谷のカフェ「ON THE CORNER」で家入(一真)くん(現CAMPFIRE 代表取締役・連続起業家・投資家・実業家)に話して「なんか心斎橋パルコから声かかってんねん」って言ったら「すごいじゃん」って言ってもらえて。「絶対やりなよ」「手伝うから」って言ってくれたんだけど……何も手伝ってくれませんでしたけどね(笑)。今年6月に大阪であった「メタセコイア・キョウマチボリ・アートフェア2022」っていうイベントには参加してもらいましたけどね。

糀屋:どんなイベントだったんですか?

フルタニ:声を上げたのが元々俺と一緒に仕事してた谷口純弘さんという方なんですけど、京町堀という公園の横の街でデザイン事務所が何件か集まってアートフェアやろうって。アーティストに5000円のエントリーフィーを出してもらってエントリーするんですよ。で、俺とか家入さんとか審査員の人たちが全部の作品を見て講評もしていく、という。400何人のエントリーがあったんで、それで200万ぐらい集まったものを原資として、最終的には選抜メンバー30人の展覧会ができたんです。

糀屋:なるほど!!

フルタニ:展示してる人達は、その場で作品を売ることもできました。まあ、イベント費用を考えれば全然主催者の儲けはないんですけど、いい仕組みでイベントやれてるなっていう感じがあったんですよ。トークイベントもいくつかやって、そこで家入さんにはアートを購入する側として話をしてもらったんです。あとはアーティストがSNSをどう使うかみたいな話だったりとか……。そこで話をしていましたがアーティストがコミュニティを作るのは今はInstagramなんですって。

糀屋:僕もインスタで見たアーティストに問い合わせしたことありますよ。

フルタニ:家入さんもInstagram 見て、気に入ったらアーティストに直接「作品買いたいです」って連絡するんですって。で、大体、アーティストは最初嘘だと思うんですって。

糀屋:(笑)

フルタニ:まあ、そんな感じでアートフェアをローカルでやるって、いろんな人たちが集まる面白さだとか、発信力だとかを持っているんだなって。地方、ローカルでやるから余計面白いのかな? と、この前改めて感じましたね。

糀屋:リアルな場は大事だってことですよね。

フルタニ:ちょっと変わった人がたくさん集まる。変わった人たちの方がブレイクスルーを作るきっかけになるんですよ。面白い人が面白い人と繋がって、面白いことになっていって……人と人を繋いでいくようなことが大事なんですよ。僕自身、何かを作っている人間ではなくて、場所を作って、人と人をマッチングしていくようなハブになれたらいいなと思ってずっとやっているんです。

糀屋:アーティストにとっては、昔のサロンみたいな場所って、世に出ていくために必要なのかもしれませんね。もちろんそこでアーティスト同士の会話みたいなものから何か生まれることもあるでしょうし……。

フルタニ:たくさんありますね。

糀屋:フルタニさんはご自分のことを「喫茶店のマスターやから」っておっしゃっていますけど。

フルタニ:喫茶店のマスターって聞き役であり相談者。翻訳もするし、通訳もする。俺は「偉い人」の立場ではなくて、何者でもないような存在として、フラットな状態で人とお付き合いしたいというのがあるんです。クライアントでもフラットにしたい。喫茶店のマスターって大体フラットでしょ?話を聞いて「そうやな」って言うて。

糀屋:はい(笑)、そうですね。

フルタニ:そういう意味でずっと喫茶店のマスターをまあ名乗ってるわけです。それが俺のスタンス。だからお金の話でも、知ってる知識の中で値頃感とかは適当にアドバイスするんですよ。「それは高いんちゃうか」「安いんちゃうか」。それは最初の話に戻っていくんですけど、対話をしていくっていうことですよね。基本的には人と喋るのが好きなんですよ。

フルタニタカハル
1972年吹田市出身
ファッションデザイン専門学校卒業後、輸入雑貨卸業などを経て1994年アメリカ村の複合商業施設ガレッジにてTANK GALLERYをオープン。アートを中心に音楽、ファッションなどカルチャーを発信する情報発信基地として注目を集める。1999年、隣接するGtgalleryをオープン。2000年移転。2002年、南堀江にFM802が主催するアートプロジェクト「digmeout」のカフェ「digmeoutCAFE」をプロデュース、digmeoutのアートディレクターとして活動。2006年9月アメリカ村に移転「digmeoutART&DINER」にて数々の展覧会、イベントを企画。2019年3月閉店。
中崎町”usedを拡張する進化型古着屋 森”のプランニングディレクターとしてイベント企画を中心に活動。
2020年心斎橋PARCO地下二階にオープンする心斎橋ネオン食堂街のプロデュースチームで参加。
同施設に2021年3月にTANK酒場をオープン。
その他、アート、音楽など大阪内外で企画を行っている。
DJとしてもKyoto Jazz Massive沖野氏と共に活動。

(聞き手・高橋ひでつう 構成・齋藤貴義 撮影・アサボラケ 杉本昂太 撮影協力・TANK酒場)

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