見出し画像

こんな世の中だからこそ、「利他的」視点で動きたい フルタニタカハル×糀屋総一朗対談3

ローカルツーリズム株式会社代表の糀屋総一朗と、地域で活躍する方の対談シリーズ。今回は、大阪を拠点に長く音楽、アートなどのカルチャーを牽引し、今年3月に心斎橋パルコの地下にオープンした「心斎橋ネオン食堂街」の仕掛け人でもあるフルタニタカハルさんと語り合いました。対談の最終回は、アーティストとの対話についてと「利他的」であることの重要さについてです。

前回はこちら

「喫茶店のマスター」としてのアーティストへの対話

糀屋:僕が今悩んでるのが、アーティストとの対話の内容ですね。僕はアートの素人なんですけど勝手ながら「もっとこうした方がいいんじゃ?」って思う時もあるわけです。そういう時にどういう言い方で話をすればいいのか? っていうところですね。

ビジネス的な観点から話すこともできるとは思うし、「高すぎる」とか「安すぎる」とかっていうのは割と緊張感を持って対話をしなきゃいけない局面だと思うんですよね。他にも「購入する側」からの視点として「この路線はどうなの?」とか言いたくなる時とかもあるんですよ。アーティストからしたら「うるせぇ!」って話だと思うんですけど(笑)。でも緊張感のある会話をしないといい作品もできないんじゃないか? ということもあって……。

フルタニ:批判的な感じのことの場合は、どうすれば柔らかく伝わるか? っていうのは心がけて、言葉の選び方とかも考えますけど、思ったことは言いますよ。

糀屋:やっぱりフルタニさんは数も見てるし、アーティスト側もそれをわかってるからちゃんと話をちゃんと聞く体勢があるんでしょうね。

言葉選びや対話の方法も日々模索する

フルタニ:そうですね。自分は「描く人」ではないんですけど、人一倍、数は見てきましたから、そういう自負はあります。ただ、偉い感じにはならず、あくまで「喫茶店のマスター」としてアドバイスをしてます。まあ、大阪人は最後に「知らんけど」って言うんですよ(笑)。

糀屋:いい言葉ですよね。

フルタニ:「こんなんちゃう? 知らんけど」って(笑)。だから知らん言うたやん! みたいな感じ。そういうのをね、関西人のこのノリで色々伝えます。実際にはうまいこと行く子もいりゃあ、あんまり上手いこと行けへん子もいるんで、そこは責任もあるなと思っていますけど。

糀屋:よく、会社組織なんかで「こういうことができたら伸びる」とかっていう話があると思うんですけれど、アーティストの場合、売れる、伸びるアーティストのわかりやすい共通する指標ってあるんですかね?

フルタニ:そればっかりは何とも言えないですね。例えば、全く対話できなかった子も、たくさんいるんですよ。

糀屋:そうなんですか!

フルタニ:元々俺が関わってやってたディグミーアウト(FM802が行うアート発掘・育成プロジェクト)って元々は「FM 局のビジュアルを若手のアーティストにやらせましょう」ってことから、公募を始めたオーディションなんですよ。それで数が集まってきたので、マネージメントまではいかへんけど、もうちょっとアーティストの子たちが生活していけるようなところまでアドバイスしていこうよ、ということになったんですね。

やっぱりマネタイズも覚えなあかんし、ほんまに請求書の書き方も分からへんという子らを、一緒にアーティストとして育てていこうってことになったんです。そうのうち「僕らも体制作らなあかんな」ってことでギャラリーを作ったりして、若いアーティストと共に僕らも成長してきながらプロジェクトをいろいろ作ってったところがあったんですよ。

対話できるかどうかと、売れる、成長するかはまた別の話

あーやこうや言うて、大成した子もいれば、途中で消えてく子もいる。一概にビジネスライクなことができるから、作品がどんどん良くなっていくわけでもないんですよ。逆に、ほんまに対話もちゃんとでけへんような子もいました。でも作品はめっちゃええねん! みたいな子。だから、アーティストが持ってるそれぞれの良さを、どこをどう伸ばしていくか? なんですよね。そこは経験値とコミュニケーションで判断してアドバイスしていくしかないんですよ。

糀屋:そういう人たちにビジネス寄りの話をしようとすれば、まず警戒されますよね?

フルタニ:ビジネス寄りというか……ディグミーアウトでは、僕らはほんまに「絵を描く」きっかけ作りが根本にあったんです。「絵を描くのが楽しいんやったら、それちょっと売って行こうや、その楽しさを伸ばしていこうや」っていう話しかでけへんのです。10万円の作品を100万円にする仕組みを作ろうとは思ってなかったんですよ。あくまで、その子たちが創作活動を続けられる環境作り、その子たちのファンを作るようなきっかけ作りですからね。

糀屋:お金の話というと「10万円の絵を100万円で売るための仕組み」って浅く考えてしまいがちですけど、その子のファンなりコミュニティなりを作るきっかけづくりこそが大事ということなんですね。その子のアイデンティティなりが上手く作っていけるように応援していくと。

フルタニ:そうですね。継続的に好きなことが続けられるのが一番で。もちろん、その作品の価値が上がっていくように、ステージを上げて行けるように、とようなことも考えてはいるんですけど。

糀屋:金額どうのこうのはあまりその主たることではないと。

フルタニ:そうですね。考えないといけないのかもしれないけど、俺がやりたいことで言うとそこじゃなかったんです。ステージが上がることによってアーティストの生活が楽になることもあるんでしょうけど、基本、僕がやってることはフレンドシップの中でやってることばっかりなんで。ビジネスになればいいけど「仕事」って言われるとちょっと「うーん」ってなっちゃう。もちろん仕事になればいいなという下心もありつつ……80% はフレンドシップですかね。

糀屋:やっぱり喫茶店にフラッと入ってきたアーティストの悩み事に答えていくという。

フルタニ「こうしたらええんちゃう?」とか「この人に1回話聞いてみたら?」 とか、きっかけ作りだったり、気付きだったりみたいなことのアドバイスですね。

活動の原点は「ごちゃ混ぜ」の面白さ

糀屋:フレンドシップっていう姿勢が大事なところですよね。デザインやアートのバランス感もあると思うんですけど、フルタニさんのそういう思考の原点ってどんなところにあるんですか?

フルタニ:元々、雑誌が大好きなんですよね。ポパイとかのファッション誌も含めて小学校の高学年から雑誌をめちゃくちゃ読んでたんですよ。ファッション誌を読んでも、音楽だったりとかアートだったり、カルチャーも紹介されているじゃないですか。そこが好きでしたね。雑誌の雑食性というか、カルチャーが全部詰まってるようなごちゃ混ぜな感じがすごい好きだったんですね。

基本はカルチャーっていうのをまるっと好きでやってるんで、これもあれもやりたいし、これとあれを混ぜたらこうなるんじゃないか? みたいなことを考えちゃうんですよ。それが自分の原点。いろんな人といろんなことを一緒にやっていこうという元にあるような考え方ですね。

糀屋:自分で何か作るというよりは……。

TANK酒場にも「ごちゃ混ぜ」の面白さが詰まっている

フルタニ:コーディネートとかの方が得意というか……。作り手ではないので自分の名前は残らないけど、結果面白いもんができたらその方が満足感が高かったりすることがありますね。お節介、みたいなところがあるのかもしれないんですけど。

糀屋:キュレーターとして誰かすごいと思っている人って誰かいますか?

フルタニ:アンディ・ウォーホールが大好きなんですよ。元々は「ファクトリー」(ウォーホールが作ったアトリエ兼サロン。ミュージシャンや小説家など大奥の文化人が集まっていた)みたいなことをしたくて、自分でお店を始めているんです。そこに集う人達が何か形になるものを作って世に出していくようなことをしたかったんですよ。活動的なことも割とアンディ・ウォーホールがベースになってるのがあります。

糀屋:なるほど。わかる気がします。

フルタニ:だから、アーティストとの関わり合い方もどっちかっていうと自分は土台だと思っています。ここからみんなが育っていけばいいなってところを意識してやってますね。だから喫茶店のマスターなんですよ。

糀屋:確かにガツガツしてたら、こういうことってできてない感じがしますね。

フルタニ:俺がガツガツしてたら、もっと成功してるか、もういないか(笑)、どっちかだと思う。自分はあまり個の強さみたいなものは持ってないと思いますね。他人のことを考えながら陽気に暮らそうって考えているんで。なんか「利他的」ということの方が喜びを感じるし、うまく回るんじゃないかなっていう風に思ってます。

糀屋:「利他的」って大事ですよね。僕も経験上、自分のために何かやるって大抵うまくいかないんですよ。

フルタニ:細かいことは別として、大きく回そうと思ったら自己的なことって無理が出てきて、なんか煮詰まっていくじゃないですか。

糀屋:僕も自分のことだけ考えたら離島なんて行けないんですよ。僕の場合、利他的っていうのはおこがましいかもしれないんですけど、そういう側面がないと自分を駆動できないってところはあると思います。

フルタニ:今の世の中、割と自己的な話の方が多いじゃないですか。利他的な動きをしてる方が面白く回ってくんじゃねえかなと思って。今は生活できてるんでしばらくはこれでいこうかなと思ってますね。喫茶店のマスターとして。

糀屋:フルタニさんだからこそ、喫茶店のマスターって言葉の重さが伝わってきますね。

「TANK酒場」にて。ありがとうございました!

フルタニタカハル
1972年吹田市出身
ファッションデザイン専門学校卒業後、輸入雑貨卸業などを経て1994年アメリカ村の複合商業施設ガレッジにてTANK GALLERYをオープン。アートを中心に音楽、ファッションなどカルチャーを発信する情報発信基地として注目を集める。1999年、隣接するGtgalleryをオープン。2000年移転。2002年、南堀江にFM802が主催するアートプロジェクト「digmeout」のカフェ「digmeoutCAFE」をプロデュース、digmeoutのアートディレクターとして活動。2006年9月アメリカ村に移転「digmeoutART&DINER」にて数々の展覧会、イベントを企画。2019年3月閉店。
中崎町”usedを拡張する進化型古着屋 森”のプランニングディレクターとしてイベント企画を中心に活動。
2020年心斎橋PARCO地下二階にオープンする心斎橋ネオン食堂街のプロデュースチームで参加。
同施設に2021年3月にTANK酒場をオープン。
その他、アート、音楽など大阪内外で企画を行っている。
DJとしてもKyoto Jazz Massive沖野氏と共に活動。

(聞き手・高橋ひでつう 構成・齋藤貴義 撮影・アサボラケ 杉本昂太 撮影協力・TANK酒場)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?