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こんな時期に安倍首相と宴会をした「内閣記者会加盟報道各社のキャップ」たちの心中を察してみた(※20191125追加あり)

 「桜を見る会」問題を巡り、11月20日の「首相動静」がTwitterで話題になっていました。

 で、話題となっていた部分はこちらです。上にリンクを貼った時事通信の記事から引用します(太字は筆者)。

午後6時34分、官邸発。同39分、東京・平河町の都道府県会館着。同所内の中国料理店「上海大飯店」で内閣記者会加盟報道各社のキャップと懇談
午後8時34分、同所発。

 キャップというのは、各社がその現場に配属する記者のトップで、現場レベルでその社を代表して取材先と折衝する役割も果たします。「内閣記者会」というのは、首相官邸内にある記者クラブです。テレビで首相や官房長官の会見の様子をご覧になったことがある方は多いと思いますが、ああいう取材をしている人たちです。
 首相動静には「懇談」とありますが、要は新聞、通信、テレビ各社の記者のトップがみんな仲良く顔を並べ、自民党本部近くにある高級中華料理店で安倍首相と一緒に宴会をしたーということです。

 首相に疑惑が持ち上がっている中、大手マスコミ各社のキャップ(記者)がぞろぞろと首相との宴会に出て行ったわけです。
 5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)では、「機密費バラマキでマスコミをコントロール」「癒着を隠そうともしない」などと批判の書き込みが多く見られました。まあ当然の反応です。

 マスコミで働く「身内」からも、この宴会好きな「内閣記者会加盟報道各社のキャップ」たちへの異論や批判が出ています。

 全国の新聞各社の労働組合でつくる「新聞労連」の委員長・南彰さんのツイートです。

 こちらは、菅官房長官の会見での追及で注目を集め、映画「新聞記者」の原案者でもある東京新聞記者・望月衣塑子さんのツイートです。


 南さんのツイートには、新聞社で働く「まっとうな」労働者たちの心の叫びと、メディアの上層部に対する絶望感がストレートに出ています。望月さんのツイートは、キャップたちの「ヨイショして安倍首相に取り入ろうとする」情けない姿を伝えています。

 「桜を見る会」問題が浮上して以来、安倍首相の擁護に日夜奮闘されているネトウヨ(プロ・アマ問わず)の皆さまだって、この「宴会」は面白くないでしょう。憎くてたまらない「マスゴミ」のエリート記者が、「オレたちの安倍さん」に酒食をたかっていた可能性が高いわけですから。そりゃ許せないですよね〜。

 …とまあ、日本国中に敵だらけの状況にある「内閣記者会加盟報道各社のキャップ」たちですが、ここでは彼らの現在の心境について、「意識低い系」流に読み解いてみようと思います。

 まず前提として、この宴会に参加した新聞、通信、テレビ各社のキャップはみんな、会社の上司の許可を得ているはずです。相手が首相ですし、時期も時期ですので、独断で参加を決めたキャップはいないでしょう。

 許可を出した上司の気持ちも容易に想像できます。こんな状況の中で、現場の記者(キャップ)を宴会に行かせるのは問題だとは思うが、この宴会の場で安倍首相がニュースにつながる何か新しいことを言ったら、うちの社だけ「特落ち」(大きなニュースが載らない状態)になる。そうなれば、オレが上層部から責任を問われる。せっかくここまで出世したのに…。

 そして、各社を代表して宴会に行ったキャップたちは、こんなことを考えていると思います。

 ①政治取材の現場も知らないでキレイゴトを言うヤツが社内にも多いが、オレたちが官邸内のネタ元に食い込むのに、どれだけ苦労していると思ってるんだ!

 ②官邸ネタで「特落ち」したらオレのせいになるし、会社だって困るだろ。オレが会社を代表して汚れ役をやってるおかげで、政治取材でうちが「除け者」にされるのを防いでいるんだ。

 ③なんだかんだ言って、お前らだって、日本の最高権力者・安倍晋三がいま何を考えているか、知りたいだろ? こうしてオレが取材しているから、国民は情報を得られるんだ。

 ④今は社内外から批判されているが、オレはこれまで順調に政治部のエリートコースに乗っている。こんなくだらない騒ぎが沈静化すれば、官邸を離れて出世できるはずだ。

 彼らは各社の「政治部一家」のエリートという自負が強いでしょうから、まあこんなところでしょう。大手の新聞社って、記者の所属が政治部や経済部、社会部、文化部などと分野別に分かれていて、どこの社でも政治部と社会部が威張っていて、お互いを敵視しています。

 社会部の記者からすれば、政治部の記者なんて「政治家にゴマすって自分も権力者みたいなツラして威張っているゴキブリ」だし、政治部の記者に言わせれば、社会部の記者ごときは「ろくに専門知識もないくせに正義漢ズラして批判ばかりしている怒りっぽいバカ」ってな扱いです。
 いずれも穏やかではない汚い言い回しですが、かつて先輩たちから聞いた言葉をそのまま引用しました。

 どちらもほんの少し経験がある者としては、社会部的な「政治家や役人なんてどうぜロクでもない人間なんだから、とにかく叩けばいい」という乱暴なマインドは、どうかと思います。
 しかし、それ以上に、今回の宴会の件みたいな「どんな時でも権力者に取り入って情報のおこぼれをもらう」政治部的な取材手法は、絶望的に前時代的であり、国民には受け入れられないでしょう。

 いまだに続いている悪名高い「記者クラブ」制度とともに、そろそろ政治取材のやり方を変えることができなければ、日本の大手マスコミすべてが国民から見放されることは間違いないでしょう。
 「若者の新聞離れ」とか、そんな生易しいレベルではありません。

(以下の文章は20191125に追加しました)

 11月20日夜に行われた安倍首相と「内閣記者会加盟報道各社のキャップ」との懇談は、「毎日」などが不参加だったことが、「しんぶん赤旗」電子版に書かれているのを見つけました。以下がその記事です。

 そして、この報道を受け、毎日新聞統合デジタル取材センター長の齊藤信宏さんが自身のTwitterでこう答えております。

 「毎日など」の「など」に、どのマスコミが含まれているのか続報が待たれますが、毎日新聞、素晴らしいです。
 この日の「宴会」で何かリークがあれば自分のところだけ「特落ち」になるリスクもあったでしょうし、政府が重大発表の前日にリークする際に毎日だけ外されるという報復を受ける恐れだってあります。

 でもまあ、発表の前日にスクープと銘打って記事を出すことにどれだけの意味があるのか? ぼくもかつて、そんな「いんちきスクープ記事」を書いては喜んでいた時期がありました。マスコミ業界全体でも考え直さなきゃいけないテーマです。

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