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#6 建設と食との関係は?ゼネコンが考える、地方のまちづくりとは

富山で活動している、社会起業家・クリエーターの明石博之です。

今回はじめて、一緒に活動しているメンバーを紹介いたします。東京のゼネコンで働いている青木章宏さん。

ご縁があって、新規事業開発の仕事の一環で富山県を訪れた青木さんと出会い、議論を重ねて、地方の食をテーマにした、ソーシャルベンチャー的なまちづくり会社をつくる話にまで発展しました。その経緯は、ぜひ「#0 はじめまして」をご覧ください。

全国的に緊急事態宣言が解除されましたが、まだ自宅でテレワーク中の青木さんをつかまえて、これからの展開をディスカッションしてみました。

1.馴染みのない土地、富山県。

明石:こんにちは、毎週オンラインで定例ミーティングをしていますが、今日はあらためて青木さんと色々と話をしてみたいと思うので、ぜひお付き合いください。まず、今の状況を教えてください。

青木:まだ自宅でリモートワーク中です。新規事業担当は、「誰とやるのか」が重要なことから、本来であれば、フェイストゥフェイスのコミュニケーションをしたいところです。

今はそうも言ってられないので、慣れないオンラインコミュニケーションを訓練中です。

一方で、コロナ渦の飲食業及び関連産業への影響については待ったなしの状況となっていて、オンラインでの地域の方々との連携方法や仕組みづくりを模索しているところです。

明石:もう2年前になるでしょうか、弊社が氷見市の移住支援事業をやっているオフィスに、突然来られたのが出会いのキッカケですよね。

青木:そうですね、氷見市の官民連携事業のプロポーザルのなかで、地元で活動している民間事業者を探しているとき、明石さんたちの活動を知り、突然おじゃましたのがはじまりです。

地方の官民連携事業は、通常のテナントリーシングでは成立しない条件が多く、氷見案件も空き家活用などで実績・ノウハウのあるパートナーを検索しまくってたどり着きました。

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氷見市に訪れたときに撮影した、湊川の風景。「みなとがわ倉庫」や「Beer cafe ブルーミン」など、話題のスポットが集まっている場所として注目されています。青木さんは、富山県の町並みが気に入っているそうです。

明石:私たちの会社は、何をやっているか一見してわからないので奇跡のような出会いですね(笑)。なぜ、富山で事業開拓をしようと思ったのですか?

青木:私はもともと神奈川出身で、富山県とはご縁がありません。入社してから開発事業や環境事業を担当してきました。出向先では、電源地域や大規模不法投棄地域など、ビジネスライクに解決できない地域課題に30年近く関わってきました。

現在は新規事業を開拓する部署に所属し、2年ほど前から地域連携事業の担当として活動しています。その第一歩が氷見市の官民連携事業でした。

明石:たまたま富山県だったのでしょうか?それとも戦略的に富山県なのですか?

青木:実は、私が働いている会社は富山県が発祥の地なんですよ。最初は、東京の本社からハンドリングできる距離、関東の外れ辺りでパイロットプロジェクトを模索していたのですが、上司とも相談した結果、パイロット事業を試行錯誤する場としては、地域や会社の理解協力が得られやすい富山でプロジェクトメイクするのが近道だと考えました。

2.富山県で信頼インフラをつくりたい。

明石:たしかに、会社発祥の地という材料は、なかなかの強みですね。青木さんの上司にもお会いしていますが、何か面白いことをしたいという気持ちは一緒だと思いました。

青木:上司は良き理解者ですが、会社として新規事業に取り組むためには、取組む意義や目的、なぜ会社としてチャレンジするのかということを明確に位置付けることが必要です。地方の社会課題に取り組むことが、結果的に会社の利益にもなる筋道を示す必要があります。

地域に対しては、社会課題に取り組む主体者としての認知度を高める必要があります。地域の皆さんとの信頼関係の構築が不可欠です。

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ゼネコンがまちづくり、と聞くとハード整備のイメージが強いのですが、そこで暮らす人々が主役になるような発想でまちづくりを考えたいという思いに、意外性を感じる方も少なくないはず。

新規事業へのチャレンジを通じて信頼インフラをつくりながら、地域の方々と連携して社会課題の解決をしていきたいと思っています。

明石:会社をまきこんで地域課題に取り組むプロジェクトを進めていくような動きは、かなり特殊なケースなのでしょうか。

青木:そうですね。今回、明石さんや地元企業の関係者の方と一緒に、まちづくりのことを考えるのは、会社としてはじめての経験です。

会社の遊休不動産というリソース活用をベースにはしていますが、入居テナント側の事業として本業とは異なる分野、つまり、農家さんやシェフと一緒に農業とか、飲食とかの分野を考えるのは、地域で問題解決にあたっている方との連携が不可欠です。

先ほど、信頼インフラと言いましたが、私たちのようにビジネスレイヤーで成り立っている世界とは異なり、地域に飛び込んで、もっと暮らしに近いレイヤーの人たちと信頼関係をつくるのが、とても重要だと思っています。

3.ピボットする先は地域コミュニティ。

明石:ゼネコンであれば、事業の軸足は建設ですが、もう一方のピボットする足は今後どこを向いていくのでしょうか?

青木:官民連携のPPP(Public Private Partnership)事業は、駅前などの集客余力がある場所での開発が一段落した感があります。今後は、ビジネスレイヤーだけでは問題解決が難しいプロジェクトが増えてくると感じています。

全国ブランドチェーンを集めるようなテナントリーシングが成立しなくなるので、今までの民間事業開発が、地域の方々の期待に応えきれなくなる可能性が高いと思います。

明石:世界的に、リアル店舗とECサイトの闘いの構図になっていますよね。

青木:その通りで、ECサイトに勝てるテナントリーシングや、ショールーミングに特化したリアル店舗戦略など、サプライチェーン全体の中での店舗としての役割の再定義が必要になってくるはずです。現在検討している地域内でのD2C(Direct to Consumer)をベースにした戦略づくりでは、地域コミュニティとのつながりが重要になります。

そこに暮らす人々が、本当に求めている施設や事業をつくる。地域の人々がセルフプロデュースして、自らが利用者となって盛り上げていく、マイショップやマイプロジェクト的な発想で一緒に計画を考えていきたいです。

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富山市の松川の遊覧船にて。青木さんは近いうちに、生活と仕事の拠点が、東京と富山との半分ずつになると思います。富山のことなら、何でも興味津々のようです。飲み友達も、勝手に募集します。

明石:既存マーケットを追いかけても未来がない、サプライヤーが他地域で同一サービスを展開しても、ECには勝てない。だからこそ地域コミュニティ、暮らしのレイヤーとのつながりなんですね。

青木:店舗や施設が一方的に価値を提供して、それを地域住民が受け入れるかどうかではなく、地域に必要なものを地域の人たちが集まってプロデュースするクラウドファンディング的なアプローチが求められます。

その観点では、食の分野というのは、誰でも参加できるテーマです。地域で暮らす人々がセルフプロデュースするプロジェクトに向いているテーマだと思います。

4.コロナショックがキッカケで方向転換。

青木:今、明石さんと一緒に考えている「Local Food Table(LFT)」事業ですが、コロナショックを経て、かなり具体的に課題が見えてきたと思います。

当初はリアル拠点ありきで、私ども持っている空きテナントを活用することを前提に議論してきましたが、今はもっと食全体のプラットホームとか、関係主体のネットワークの重要性が見えてきています。

明石:青木さんとしては、どんな事業が見えてきてますか?

青木:新型コロナウイルスの影響で、市民意識や社会構造が急速に変わりつつありますが、食に対するニーズや消費自体は減ることはないので、その提供方法を考えていく事が必要です。

その観点から、生産者と生活者をつなぐ既存のサプライチェーンを再定義しながら、色々な役割の人たちがつながれる新しいプラットホームをつくりたいと思います。

例えば、シェフがプロデュースした地域食材を使ったメニューを宅配する事業や、事業に参加してくださるシェフや会員の皆さんからのニーズを農家さんの生産計画にフィードバックするなど、双方向性のあるコミュニティづくりをしたいですね。これからは、シェフが生産者と生活者の真ん中に立って、両者の翻訳者となるような役割が期待されると思います。

明石:本当に良い意味で、考え直すキッカケとなりました。

青木:そうですね。当初は、シェフの独立開業支援を目指した調理食材の安定供給という観点で計画を始めましたが、今後は地域食材の安定流通をベースとするサプライチェーンの中で、飲食店及びシェフの新しい役割を提案していきたいと思っています。

明石:生産者、シェフ、生活者が食のコミュニティでつながり、お互いにプロデュースするみたいな発想がありますよね。自然農の土合さんも同じようなことを言っていました。

青木:そのために、地域住民の方々に私たちの事業が目指していることや、その具体的な拠点であるチャレンジキッチン(仮称)の価値を知ってもらい、事業や拠点づくりに参加してもらえる企画を考えています。

5.食コミュニティのためのインキュベーション。

明石:あらためてお聞きしますが、ゼネコンの本業と今回の事業との親和性はどこにあるのでしょうか?

青木:正直なところ、ダイレクトに本業には結びつかないアプローチです。会社のCSV(Creating Shared Value)的な地域テナント育成事業としてステップを踏みながら、新しいまちづくりプレーヤーとしての立ち位置を固め、全国にも展開していけたらと思っています。

明石:もの凄く意味のある大きな一歩だと感じています。こういった座組で、まちづくりを進めていくことは、私にとっても念願の夢でした。

青木:明石さんのようなまちづくりプレーヤーや地元企業は現場を持って、すぐに実践できるノウハウも持っています。逆に私たちは、企業としての信用力や資金調達力などの強みを活かせます。

互いに足りない部分を補完しながら、地域に求められるまちの機能や施設を、自治体や市民の皆さんと連携しながらつくるソーシャルベンチャーとしてのまちづくり会社が必要だと思います。

明石:最終的には、ゼネコン的な本業に貢献するかたちで合流できれば理想ですね。

青木:まちの活性化に、建設や不動産賃貸事業という側面から関わっていくことも最終的な目標にしています。

チャレンジキッチン(仮称)は地域の食コミュニティ形成のためのインキュベーション施設であり、利益連動型の賃料設定などで事業の継続性を担保しながら、一定数のファンが獲得できたシェフが空き店舗を利用して独立開業するまでの支援をイメージしています。

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チャレンジキッチンの場所は、富山市中心部を考えています。私が富山市に住んでいた頃に借りていたオフィスのすぐ近くになる可能性が高いので、なんだか楽しみです。

LFT事業はそんなシェフを裏方でバックアップする、サプライチェーンネットワークとなります。

明石:私は、自分がほしい店を自分でつくるという思いでカフェを経営しています。そういうまちづくりが広がれば楽しいですから。(笑)

青木:市民生活に不可欠なローカルグリッドを、地域自らプロデュース、更新しながら自律的に変化するまちになれば楽しいですね。

しかしながら、まちづくりをプロデュースするプレーヤーが少ないのが現状です。今後は、活動のビジョンに共感してくださる市民がプロデュース母体となるような会員コミュニティをつくり、LFT事業やチャレンジキッチン施設の内容を考えていきたいです。

これから本格的に動き出しますので、今後ともよろしくお願いします。

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対談は以上となります。

私は、地方に活動の拠点を移してから、まちづくりの考え方が大きく変わりました。自らの活動、自らの事業が結果的にまちに貢献すること。

ニーズありきではなく、必要なものは自分でつくるという精神。こういったことの集積によって、いいまちが出来上がるのだと思います。

それをプロデュースという言い方で表現すれば、生活者がプロデュースする楽しさを味わえる場をつくることが、今回の事業ではとても大事な視点になると思います。

次回は、Local Food Tableの実現に向けたイメージが湧くような図を描いてみたいと思います。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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