檸檬草

ある時ふと思い出す。私の人生に訪れた誰かの記憶の記録。

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ある時ふと思い出す。私の人生に訪れた誰かの記憶の記録。

最近の記事

トリガー

ドキドキワクワクしなくても忘れることのない心の動かされ方をする映画がある。 たくさんの人の共感を得ていると聞く “Past Lives.” 私もそう。メインの3者それぞれの気持ちが胸が詰まるほどわかる。役者さんの演技が素晴らしいのはもちろんあると思うけれど、静かに、でもしっかりと、自分の胸の奥にしまっていた過去の感情の機微がこうもリアルによみがえるとは。 好きになって、好かれて、幸せな時間。 壊れるのが怖くて相手に確かめきれない気持ち。 壊すのが嫌で隠してしまう本音。

    • 一人旅の醍醐味

      何年ぶりだろう。 飛行機で数日泊まりの一人旅。 コロナが流行ってからというよりもっと前 結婚してから2泊以上一人で遊びに行くことがなかった気がする。 普段の生活に文句があるわけではなく、 とにかく一人だからこそ生まれる旅先の人々との出会いが本当に楽しくつくづく幸せだった。 応援してる地元バレーチームの遠征試合の応援が目的。 完全アウェイの中、自席周りの現地チームサポーターがめちゃくちゃウェルカムな人柄な方達ばかりで、 ・私の推しチームも応援してくれる ・推しの誕生日も祝

      • ディナーのお供に音楽を

        春、ドイツを旅行していた。 雪が溶けて美しい緑色をたたえるレヒ川の流れる小さな町にその晩は泊まった。 ホテルのオーナーは日本が大好きで、姉妹都市との交流大使をしているという。大きな瞳に大きな前歯、悠々とした白髪に黒いジャケットが長身の彼にとっても似合っていた。 ホテルのレストランで夕食をとっていた時、声をかけられた。ちょっとおいで、と。 何だろうと思えば、一角に据えられたピアノの前へ。そして普通に言う。 一曲弾きなさい。へっ? 呆気に取られた。 突然?ここで?みんな

        • そこに還る理由

          何度も何度も同じ場所に出かけた。 27歳の春。 誕生日を過ぎて同じ年の夏。 すぐ後の秋。 28歳の春。 同じ年の秋。 30歳の冬。 32歳の春。 37歳の夏。 もっと行ったかもしれない。 飛行機直行便で12時間。 始まりは3回目の訪問。 一人旅のスタートで、何もかも自分のプランだった。 好きな時に好きな場所で好きなことを好きなだけ。 私に先入観を持たない人たちが相手なら 何も怖がらずに自分が自分でいられることが幸せだった。 友人と呼べるほど仲良くなった現地人

          爪を切るのは人前でよりこじんまりと

          ネイルサロンには行かないけれど、爪を切るのも甘皮の処理もマニキュアを塗るのも自分でやっている。 衛生面でも爪は適度な長さにしておきたいし、デスクワークの多い私は、目に入る指先に色があると気分転換になる。 爪のお手入れはもっぱら夜。1日の終わりが近い時間や、明日から頑張ろうというタイミングに思い立つことが多い。 *** ふと思ったが、爪を切るというのは、割と個人的な時間なのだろうか。 誰かに見せる行為ではないし、でも、見られてまずいものでもない。 耳掻きをするとか、鼻

          爪を切るのは人前でよりこじんまりと

          成績が良くても退学させられる

          高校生の時、いわゆる予備校に通っていた。といっても大学は推薦での進学と決まっており、受験はしない。学校の成績も特に問題ないが、なんとなく、遊ぶより勉強しといた方が安心というような、保険のようなものだった。そして、それは自分の意思ではなく親の意思だった。予備校というより補習塾という位置付け。 数学と英語。入学テストの結果で振り分けられたコースは、数学: 早慶上智、英語: 東大・京大 を目指すクラスだった。もともと英語教育が進んだ私立校に通っていたため、多分普通の公立カリキュラ

          成績が良くても退学させられる

          美しいものを見ると心がスーッとする

          実家の近くに古美術・骨董品を扱う和風喫茶店があった。 日本家屋ののれんをくぐると最初に五感が感知するお香の匂いで「あぁ、この店に来たな」と実感する。 中はカウンターとテーブル席3席ほど。 歩く通路を最小限残し、あとは所狭しと置かれた売り物の骨董品。 時刻を知らせるのは鐘が鳴るアンティーク時計。 まさに「大きなのっぽの古時計」だった。 かき氷1200円。 昭和の時代からこの金額はなかなかのインパクトだった。 絶妙な加減に炊かれた大納言小豆、 口溶けが程よい氷、 濃厚な練乳に

          美しいものを見ると心がスーッとする

          先生から人生を学ぶ。塾で教わったこと。

          小学生とか中学生の頃って、好きな教科はつまり、好きな先生の受け持つ教科なことが多い気がする。 授業が楽しいかどうかは、もちろん授業内容がわかる/わからないの問題もあるけれど、 先生が面白いかどうかはかなり大きいと思う。 授業の記憶って、先生に関するエピソードが多くないですか? 卒業してから話題になるのは、ほとんど先生じゃないですか? まだ生徒が小さければ小さいほど先生の役割は大きいと思う。 学問に興味を持つかどうかは、そのきっかけがあったかどうかだと思うし、 興味を持ちさ

          先生から人生を学ぶ。塾で教わったこと。

          「お金ください」

          トルコの田舎を歩いていた。 慣れた道も初めての道も散歩するたびに新鮮な気持ちで。 地方都市の商店街、くらいの規模の街の中心地。 チェーン展開する大型スーパーマーケットや イオンモールみたいな映画館の入ったショッピングモールがある。 とはいえ根強くローカルな持ちつ持たれつが息づく個人商店の連なり。 道路はコンクリート製で、たまに落とし穴サイズのポットホールが出現する。 あー、日本でお世話になってるトルコ語の先生がここの高校出身って言ってたなーなんて思いながらただただ歩いてい

          「お金ください」

          “好き”の炎を絶やさない

          小学生の時、出会いは突然やってきた。 隣のクラスのオシャレで大人っぽい憧れの女の子が マイクを持ったポーズでフリ付きで歌って見せてくれたのがaccessだった。 CDジャケット見て脳天に稲妻が落ちた。 衝撃だった。 HIROの美しさよ。かっこよさよ。 このビジュアルにこの歌声か。 そんなヒトが世の中に存在するのか。 音楽雑誌を読み漁り、お小遣いの限りをCDやVHS、アーティスト本、雑誌、ジグソーパズル、ポスター、ポストカード、その他世に出るあらゆるグッズ購入に充て、自分

          “好き”の炎を絶やさない

          知らない人に首を絞められる

          電車を待っていた。 人の行き交うホーム。 ベンチの近くに立っていた男性が近づいてくる。 私の隣に立った。 「キスしていいですか。」 はっ?えっ? 「だめです。」 「抱きしめていいですかっ!」 いや、そういうことじゃない。 「だめです。」 次の瞬間。 獲物を捉えるサバンナの動物のようなスピードで ガッッッッ!!! 首を締めてきた。 声が出ない。 訳がわからない。 なぜ誰も助けてくれない。 周りに人はいるじゃないか。 このまま顔が近づいてきたらどうしよう.

          知らない人に首を絞められる

          君は人の財産を相続できるか

          電車に乗っていた。静岡から神奈川またいで東京へ。 扉のすぐ横の長椅子の端、そこが空いていればたいてい座る。 この日もそうだった。 天気が良く、太平洋の面にキラキラが舞っているのがよく見えた。頭を空っぽにしたい休日にふさわしい鈍行路線だった。 ガタンゴトン    キラキラ シュー 人が乗ってくる。 おじさんが私の左横に座った。 グレンチェックのツイードのジャケットに シルバーのジェラルミンケースを膝に乗せて。 電車が動き始め、おじさんの口が開いた。 何と話しかけられ

          君は人の財産を相続できるか

          シリアとの国境の町マルディンで美肌を褒められる

          トルコにマルディンという町がある。 シリアとの国境の町。 町全体が丘に這りついているような傾斜地で 丘に登ると目の前に圧巻のシリア平原が見渡せる。 19年の夏に訪れた。 ずっと行きたかった場所の一つであり、 宗教/民族問題や社会情勢が落ち着いている一瞬を狙っての訪問だった。 海外ツーリストにはマイナーなのか上記のような問題からなのか、 滞在中、外国人観光客らしき人には1人も出会わなかった。 トルコ人観光客はたくさんいた。 国内でも、アラブの香りがする町が新鮮なんだろう

          シリアとの国境の町マルディンで美肌を褒められる

          いつもの朝

          中高一貫の学校に通っていた。 中1なんてこの前まで小学生。 かたや高3はもうすぐ大学生。 中1から見た高3はめちゃくちゃ大人だった。 毎日の電車通学。 田舎の路線はそれなりに毎朝混んでいたけど、 毎日誰がどこに乗っているかわかるくらいに周りの景色は見えていた。 中3の頃。 朝の楽しみができた。 私はいつも同じ学校の仲良しメンバーと通学していたが、 別の高校の制服を着た1人の男子を目で探すようになっていた。 私は女子校だった。 異性の話なんて、ジャニーズやJ-POPアーテ

          いつもの朝

          遠くに潜むご近所さん

          大学一年の冬、東京で一人暮らししていた。 アルバイトをしてお小遣いを稼ぎ、 長期連休に友達と沖縄に旅行することにした。 はじめての沖縄。 学生向けのパッケージツアー。 いろんな大学から参加者がくるのも交流が楽しみだった。 ツアーについていたダイビング体験。 慣れないウェットスーツに水中マスク、酸素ボンベを背負って講習を受けた。 ものの30分くらい。 いざ、海へGO。 太陽の光がクリアに届く海の中、 目の前に広がる珊瑚礁、熱帯魚群。 インストラクターとは小さい電子黒板みた

          遠くに潜むご近所さん

          ハローアゲイン

          イタリアからの帰りの飛行機。 窓  中央 通路側 ♀ ♂ 私 左の2人はイタリア人カップル。 搭乗の時によろしくねのご挨拶。 嫌な感じなくとっても仲良しの2人。 私はフライト中なるべく寝ておくタイプ。 2人は周りに気を遣いながらずーっとおしゃべりしてたと思う、たぶん。 (この辺が嫌な感じないところ。) 目的地の東京に近づいてくると、2人は 地図を広げたり宿泊予約を確認したりし始めた。 どうやら空港からホテルまでの移動方法を考えているらしい

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