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─僕/君がどこにいても想い続ける─ 僕愛・君愛 感想と考察

ハヤカワ文庫原作らしく本格的なSFという印象が強く残ったロマンスだった。

特に「君愛」はSF世界の上で繰り広げられるロマンスで、「僕愛」はロマンスの描写も含めてSF世界を表現しているという印象だった。それぞれをSFとロマンスどちらなのかと言い切ってしまえば、「君愛」はロマンスで「僕愛」はSFだった。

君を愛する想いが君を生かしている:「君愛」

パラレルシフトの上で繰り広げられる二人のロマンスと、暦が栞のために捧げる一途な想いが切なかった…

「私のために、それだけのために暦くんが生きてるなんてそんなの嫌だよ」と栞が暦に訴える。その言葉に返した暦の台詞、「栞のためだけに生きていたい、俺を一人にしないでくれよ」に二人の全てが詰まっているような気がした。

虚質のもつれでどんな世界線でも一緒に結び付けられた二人や、世界線と時を超えた二人の約束の再会は、二人が想い合ったからこそ掴めた運命や繋がりを感じて、切ないけれど幸せだった。

生きている者には可能性があって、死んでいる者には可能性がない。その可能性こそが生きている暖かさだと栞は言っていたけれど、確かにそうだと思う。栞は幽霊になっちゃったし肉体はもうないけれど、暦が栞を取り戻せると信じている。そんな風に栞の幸せのために暦が想い続けている限り、有り得ないはず栞の可能性を暦が有り得るものにしている限り、栞は生きているんだと思う。

全ての君が一人の君:「僕愛」

分岐を繰り返しながらくっついたり離れたりして、目の前にいる君は君でも、それが今までこの世界でずっと共に生きてきた君なのか定かでない。だけど、どの世界の全ての君が僕の愛する君であることに違いはない。全ての可能性上の君が、僕の愛する一人の君を形作っている。

そんな答えを導き出したこの物語には、この平行世界の証明されていない世界でも通じるものを感じた。時に喧嘩したりすれ違って、想いがくっついたり離れたりしても、愛する君を愛していることに違いないということと同じような感覚を覚えた。

表裏一体な二つの物語

そんな切ないけれど幸せなSFロマンスという相反する二つが表裏一体な二つの物語。

「君愛」には僕が君を愛するから、君が存在し続ける。「僕愛」にはどの世界に生きる君も、僕が愛する君という一つの存在である。どちらの物語にも、君を愛することと表裏一体な場所に君の存在を感じるようだった。


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