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OLLD2023報告会 イベントレポート

LLL×坂倉研で、OLLD2023報告会を開催!

9月にバルセロナで開催されたリビングラボの国際カンファレンスOLLD(Open Living Lab Days)2023。現地でご一緒した、唯一の日本人参加者2名(東京都市大の坂倉さん+三木さん)と、報告会イベントを開催しました!

今回の報告会は、参加者の方々との対話を重視するという観点から、限定公開(招待制)の形式で実施。10/25(水)19:00-20:30、Zoomでの完全オンライン開催でした。当日は、30名強の方にご参加いただきました。主催者側としては、20名前後でこじんまりとやろうかなと企画していたので、想定よりも多くの方にご参加いただきました。ありがたし。

本イベントでは、まず、OLLD開催の前日(Day0)に開催されたLeanrning Lab Day(リビングラボに関するトレーニングセッション)について報告。その後、OLLD本番(Day1-3)での研究発表やその他のセッションについても報告しました。最後に、参加者の方々からの質問やコメントをベースに、ゆるくディスカッション/対話を行いました(図1)。

図1:報告会(オンライン開催)の様子

Day0 (=Traning Session) のリフレクション

Day0(Leanring Lab Day)のTraining Sessionにおけるレクチャやワークショップの内容(※Day0の概要は過去記事を参照ください)をご紹介しつつ、実際に参加した坂倉さん、三木さん、赤坂で、「Day0で、どのような”学び”が得られたか?」について、対話しました。

3人の共通の感想としては、リビングラボに関する概念の整理、知識の体系化が思ったよりも進んでいて、とても有意義なイベントだった、ということです。坂倉さんと三木さんからは、リビングラボに参加する生活者とのやりとりを行うPanel Managerの必要性や、ドロップアウト分析(プロジェクトに来なくなってしまった人々の分析)の重要性、といったトピックが、特に大きな学びだったというお話がありました。

Day1-3 (=OLLD) のリフレクション

次に、OLLDのメインコンテンツである、Day1-3についての振り返りを行いました。まず、OLLDで研究発表を行った三木さんと赤坂から、自身の発表内容とそれに対する参加者(オーディエンス)の反応を共有しました。
(※赤坂の発表内容やQAの詳細は、こちら

その後、「これが私のハイライト!」というテーマで、OLLDの3日間で特に印象に残っている発表や出来事についての対話を行いました。

坂倉さんが印象に残っているのは、あるスペインの研究者が提示していた、「ラボの時代」という概念だそうです。新たな社会へのトランスフォーメーションを実現するためには、「ラボ」が必要だ、というもの。ここでの「ラボ」とは、統制された環境で詳細なデータをとるような「実験室」ではなく、野性的な実社会環境で、新たな仕組み(技術や社会システム)を探索的に試行錯誤しながら試していく活動、をさします。
そして、「ラボの時代」との対比で述べられていたのが、「ネットの時代」という言葉。ネットの時代とは、実社会での探索は含まない、デジタルなシステムやインフラを創出するための活動のことです。ネット的な活動、すなわち、デジタルやテクノロジーだけを見ているだけではなく、みんなで野(の)に出て、ラボ活動をしましょう。それが、社会課題解決や社会変容のために有効な手段なのである。というメッセージ。
これ、そりゃそうだよねって思う方もいるかもですが、かなり本質的です。
社会のトランスフォーメーションを考える際に、トップダウン的に大きな「構造」を変えようとするのではなく、小さくてもいいからラボ的な「ムーブメント」を社会で起こしていこうという考え方なのです。(こういった考え方は、国内でも先進的な取り組みもあるのでまたご紹介します。)

赤坂が印象に残っている研究としては、「Festival as Living Lab」という発表がありました。お祭り(フェスティバル)という、多くの人がポジティブなマインドセットで参加する場を、ラボの場として活用しましょう、という考え方です。地域や都市に根付いているローカルなイベントや活動を、「ラボ」と捉え直すことで、The ワークショップには来ないような、多様な市民との関係構築やコミュニケーションができるようになりますね。
ここで本質的に重要なのは、ラボ的な活動やイベントを「新たにつくる」だけではなく、地域や都市に既にある有形/無形の資源(リソース)を上手に「活用する」という考え方です。参加型デザイン分野の概念でいえば、Installed base(現場に埋め込まれた基盤/リソース)の活用です(注1)。こういった視点は、ローカルな文脈でリビングラボを実践する上で、とても重要になりそうです。

全体ディスカッション:トランジションの起こし方

最後のディスカッションタイムでは、新たな社会(例えば、サーキュラーエコノミーのような世界観)へのトランジションをいかに起こすかというトピックで盛り上がりました。欧州のような、ルール形成や機運の醸成を起点とした「トップダウン的なやり方」が日本にも適しているのだろうか。そうではなく、特定の地域で、「小さな動き」を起こしていきながら、徐々に社会を変えていくようなアプローチが適しているのではないか。まさに、前述の「ラボの時代」という概念に紐づきます。

今回のOLLD2023では、抽象的で概念的な発表が多く、リビングラボを通じてトランジションをいかに起こすか?ということに関する、具体的な方法論や手法の話は少なかったように感じました。しかしながら、地域や社会のトランジションのためのポイントは、「ラボ的な活動」を実践することにあることは間違いなさそうです。
地域や都市、社会全体として、ラボ的な活動を実践しやすい環境や文化をいかにつくっていくか。そういったことが、今後の重要な論点になりそうです。

Author: Fumiya Akasaka



注1: Installed baseとは、対象とする地域や現場に埋め込まれている基盤やリソースのことをさします。例えば、新しい社内システムへの移行をめざすプロジェクトでは、現状の社内システムや、それに関連する業務プロセスや組織構造、企業文化、ルールなどが、Installed baseに相当します。より詳しく知りたい方は、以下の論文をご参照ください。
Pipek, V., & Wulf, V. (2009). Infrastructuring: Toward an integrated perspective on the design and use of information technology. Journal of the Association for Information Systems, 10(5), 1.

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