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079. ガーディアンルームからの警告|オーベルニュ編

bonsoir!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。
今号はサンチアゴの巡礼路の出発地点の一つ、Le Puyル・ピュイ-enアン-Velayブレへ行った日の夜に泊まったちょっと不思議な宿について。

Le Puyル・ピュイ-enアン-Velayブレについてはこちら↓

「うーん、この辺だと思うんだけれど・・」

暮れなずむオーベルニュの景色を眺めながら車を走らせ、近くの小さな石造りの古い街の中へ。スマホに表示される地図を頼りに、今夜予約をとった宿があるであろう周辺をグルグルと回る。パッとみてわかるホテルのような場所は見当たらないので、どうやら民泊のような場所らしい。

「これかな?」

しばらく彷徨ったのち、それらしき建物に入ると、オーナーさんらしき人に昔の農具がぶさ下がった倉庫のような場所に車を停めるよう案内された。そして荷物を下ろし、宿の中へ。この宿というのがまた、趣があるというか何というか、るで旧時代にタイムスリップしたかのようで、今までいろんな場所に泊まった経験はあるけれど、その中で一番強烈に印象に残っている場所かもしれない。

扉を開けると、その中は温かな風合いの石に囲まれた空間が広がっていて、ちょっと妖艶な雰囲気のライトがうっすらと照らしており、ピラミッドの中ってこんな感じなのかな、と思った(入ったことないけれど)。気分は考古学番組の取材班(やっとことないけれど)。

チェックインを済ませると、石作りの螺旋階段をくだっていく。現代建築ではあまり出会わないコントラストが低く微妙な段差。ぼーっとしているとアンモナイトのグルグルの中に吸収されてしまいそうな錯覚を覚える。危ない危ない。ゆっくりゆっくり降りていこう。

小さな木製のドアを開けて、ここが共有スペースですと紹介された場所の入り口にはワイン樽が置いてあった。つい最近まで使われていたのでしょうか、とても綺麗な状態だった。

ここが共有ルーム。真っ白くドーム型のお部屋にエスニックな家具たちが並ぶ。ヨーロッパっぽいような、ヨーロッパっぽくないような不思議な空間・・。オーナーさんによるとこの建物は700年ほどの歴史があり、農作業をするような場所だったのだとか。もはや宿というよりも歴史建造物の中に泊まるような気分。眠れるんだろうか(笑)。

妙に気になる賢者の置物。この場所の主です感が半端ない。そして、まもなくその理由がわかった。この部屋の奥に今夜わたし達が泊まる部屋があるというので行ってみると、そこには・・。

囲まれた空間の中にオレンジ色の椅子が四つ並んだ部屋に出た。何だろうこの既視感。まるで古代人が洞窟の中で語らっているような絵が浮かんでくる。何ならわたしがその絵の中にいるような気がする。オーナーさんによると、この部屋は「ガーディアン守護者のルーム部屋」というらしい。・・なるほど。さっきの部屋にいた老賢者の長老はここの部屋の主か。

このあと近くのレストランで食事をとり、夜遅くに部屋に戻ったのですが、夜のこの街は魔界感が満載だ。頭の中ではムソグルスキーのはげ山の夜一がエンドレスで流れまくる。

外はビュービューと風が吹いて、車のライトに照らされて時折姿を表す十字架のモニュメント・・。あぁなかなか怖かったねぇと宿に着いたのも束の間、夫が車の中に鍵をさしっぱなしで来てしまったのを思い出して一人で取りに行くことに。たった数分の出来事だったのだけれど、頭の中ではますます高らかに鳴り響くはげ山の夜一。「どうしよう、このまま帰って来なかったら・・」と妙に不安になり、何度も時計をみてはチラリとカーテンを開けて闇夜を見つめる。

「はーーーほんっとうに怖かったーーー!!!」と夫が帰ってきた時にはものすごく安堵したのを覚えている。「なんか面白い体験しなかった?」なんて聞きたいが怖くて聞けない。そうこうしているうちに先ほど飲んだワインがいい感じに回ってきて体力が尽き床に伏せた。

その夜のこと。

体から魂が抜け出て、この建物と上空を彷徨い、かつてこの場所で暮らしていた自分を発見する・・というちょっと不思議な夢をみた。フランスでは何度かはじめてきた感じがしない、既視感のある場所と出会ってきたのだけれど、もし前世という物が存在するならば、自分はこの辺りに暮らしていたのかもしれないなぁ・・なんて思いながら朝目覚めてからしばらくぼーっとしていた。カーテンを開けて窓の外をみると、昨夜漂っていた魔界感が嘘かのようにちょっと湿気を含んだ爽やかな風が吹き抜けた。

ガーディアンルームの主は「のみ過ぎに注意」と警告していたのかもしれない。いやはや、なんて夜だったのだろう。今日はゆっくり朝食をとって、散歩に出かけよう。


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