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121. フランス人マダムに教わるランチ時間の大切さ

bonjour!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。今号は時を2023年現在に戻して、お友達になったフランス人マダムにランチをご馳走になったお話。


2023年4月29日。
この日はフランス人マダムのお家に招かれ、ゆっくりランチをいただいた。
マダムとは、ちょっと前まで同じマンションに住んでいて、クレープの作り方を教わったり、お菓子やお惣菜を送りあったり、とても楽しい時間を過ごしたのだった。

マンションを引越す前に、マダムを我が家に招いて寿司パーティをした折に、「次はうちにも」行ってくださり、今回さっそくランチに誘ってくださったのだった。

「フレンチレシピのお肉料理にしようと思うんだけどいいかしら?」
数日前にマダムから送られてきたメールにわたしは胸を躍らせ、「もちろん!みんな大好きです」とお返しした。


13時半。
机にはランチョンマットにナイフとフォーク、ワイングラスが並んでいた。
ゆっくりゆっくりアペロ(前菜)からスタート。

ビーツのムース、スパイスの効いたアボカドやツナのディップを、フランスパンとクラッカーにのせていただきます。あぁ、懐かしいな。これ、フランスのカフェやレストランでよく食べていたっけ。でも、マダムの用意してくれたこれらはどれもやさしい家庭の味だった。不思議だ。見た目はまるで異国料理なのに、まるで海外から日本に帰ってきて久々にお味噌汁をすすった時のようなじんわりと染み入るような味だった。(すごく美味しかったけれど、写真を撮り忘れてしまった)。

「何を飲む?」とお水や炭酸を進めてくださったけれど、今日は歩いて来ましたと言うと、「それはいい!」とリキュールコーナーからお酒を出してきてくださった。私はシェリー酒をショットグラスに注いでもらった。いや甘くなく、すっきりと喉に流れてくる。美味しい前菜も手伝って、スルスル飲めてしまう。出だしから、危ない危ない・・。

「新しいお家はどう?」
「生活には慣れた?」

他愛のない会話をしながらゆっくりゆっくりとアペロを楽しむ。うーん、これを贅沢と言わずして何と言うのだろう・・!シェリー酒が終わると、グラスにコトコトと赤ワインが注がれた。なんてスマートな時間の流れ。そしてこんなにゆっくり料理をいただいたのはいつぶりなんだろう。

しかしそんな大人をよそに「ねぇ〜ママァ〜!!お腹すいた〜!!ねぇ、お肉は〜?」とふて腐れる娘。それを「今はアペロのフランスはゆっくりランチを取るんだよ」とたしなめるわたし。

普段は納豆ご飯をかっこんでいるような母からまさかそんな言葉が、と思ったのだろうか(わたしの邪推だろうけど)。きょとんと不思議そうな顔でこっちを見ていた。バゲットやクラッカーをポリポリ食べ、その後お絵描きをしながら彼女は彼女なりにアペロの時間に参加していた。いいなぁこういうの。

赤ワインでいい感じに体も心も温まってきた頃、ランチョンマットの上のアペロ用のプレートを旦那さん(ムッシュ)がさっと下げた。そして、台所からマダムがメインディッシュのお肉料理を持って登場。

マスタードとチーズのソースがたっぷりのお肉料理。日本料理とのヒュージョンだね、とお箸も添えられていた。

これまた懐かしい香り。あっという間にフランスで生活していた頃の時間にタイムリープしたかのような錯覚におそわれた。そして、こちらも家庭の味がした。一口運ぶごとに、五臓六腑を突き抜けていろんな思い出がわわっとよみがえってきて、隣にいる夫が思わずうなった。魂が震える感じがした。そうか、これがソウルフードというやつなのか。メインディッシュをすっかり堪能すると、またサッとお皿が新しいものに取りかえられ、今度はいろとりどりの葡萄でおめかししたフロマージュタイムがやってきた。「うわぁ・・・!」

これぞ!フランス

チーズには苦い苦い想い出もあり(→参照:106.忘れ去られたチーズ)思わず感嘆の声を上げた。

フロマージュタイムを楽しみながら、ムッシュがフランスの学校給食はたっぷり1時間あって、前菜からデザートまでちゃんとコース料理の形式で出てくるんだよと教えてくれた。うわぁ、いいなぁ。そこは比較したってしょうがないのだけれど、最近、娘の小学校給食の食べる時間が20分と聞いて「えぇ!?」となっていたところだったので(用意の時間含めたら50分くらいあるかもしれないが)、子どもだからこそ、こういう文化的ゆとりを残してあげられるって素直に羨ましいなと思ってしまった。

その横から「二人きりの時は簡単に済ましますよ。休日はこうやって家族や親しい友達とたっぷりランチを楽しむけれど、平日や夜はパンとスープだけ」と、横で聞いていたマダムが微笑んだ。

OECDによると、フランスの食事にあてる時間は世界一なのだそう。フランスの人々にとって食事がいかに食べる以上の文化として大切にされているのかがわかる。けれど、平日はササッと簡単でシンプルに、休日や特別な時間はたっぷり楽しむというメリハリが効いた過ごし方がフランス流らしい。バカンスもそうだけれど、楽しむときは思いっきり、でも普段から無理をせず合理的にパパッと割り切るところは割り切る。土井善晴先生の一汁一菜で良い、に感銘を受けつつもついつい副菜は二つ作らないといけない気がしてしまう日本人主婦のわたしにはそんなフランススタイルがかっこよく映る。来世はフランスに生まれたい(笑)。いや、それを今世やればいいじゃないか。とほろ酔い気分で一人ツッコミをしてみる。

フロマージュで身も心もすっかりフランス色に包まれているところに、最後はデザートの盛り合わせが登場!マダム特製のアーモンドケーキが絶品です。

盛り付けも可愛らしいデザートプレート。

フランス料理に感じる不思議な郷愁を噛み締めていると、だんだんと部屋に入ってくる光が薄くなってきて、マダムがパチンとダイニングテーブルの電気をつけた。え?と思って、時計を見るとなんともう18時半。実に5時間にも及ぶリッチなランチタイムだった。

わたしが初めてフランスとご縁を持ったのは新婚旅行で南仏を訪れた時。その時はフランスのバカンス文化に衝撃を受け、仕事ばかりの人生を考え直し、次に母になってから経験したフランス生活ではフランスの子どもを包むおおらかさに母親としての自分を考え直して。そして今回。忙しさの中でただただ口の中に放り込むようになっていた食事という行為を考え直す。フランス文化には触れるたびにわたしの人生を大きく変えてくれる。

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