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153. 忘れたくない、と娘は泣いた。

Bonjour!🇫🇷 毎週金曜日に更新のフランス滞在記をお届けします。
フランス滞在記は長い旅を終え、いよいよ着陸体制に入りました。前号を書き終えてから「もう忘れてもいい」と思えるようになったら、最近急に娘(6歳)が夜寝る前に「昔のことを思い出せなくなってきた」と泣き出して——。



フランスに滞在していたのは、もうかれこれ4年前。その時の記憶をふり返って書いているのだが、ときどき今という現実でシンクロするような出来事が起こる。
前号を書き終わったあたりで「もう書き切った」「忘れてしまってもいいかな」という気持ちになったのだが、そのあたりから娘が夕方や夜寝る前にシクシクと涙ぐむようになった。

「どうしたの?」と尋ねると、
「幼稚園のことを思い出したいのに、思い出せなくなってきた。忘れてしまったらどうしよう」と号泣した。

彼女は小学校一年生だが、入学当初から行き渋りが激しく、昨年の秋、2学期がはじまってからは体調不良のためとうとう学校へ通えなくなってしまった。今現在は毎日フリースクールに通い、勉強も楽しくなってきたようで親としてホッとしていたのも束の間、最近急に幼稚園時代や乳児期のことをふり返ってなんとも言えない切なそうな顔をすることが増えてきた。

「毎日、何か新しいことを覚えると、幼稚園や、赤ちゃんのときのことを忘れちゃうようで悲しい。このまま、思い出せなくなったらどうしよう!わたし、お月さま(娘にとっての乳幼児期の象徴)とお別れしたくないよ・・」と言って顔をくしゃくしゃにしてワンワンと泣いた。

そうだよね、幼稚園から小学校ってとっても大きな変化だよね。としばらくギュッとして話を聞いていたら、彼女はわたしの気持ちも代弁してくれているような気がして、わたしも泣けてきた。

しかし同時に、この子はこれからうんとうんと成長するんだろうな。とも思った。そのために、一時的に乳幼児期に甘い甘い時間や体験は健在意識から消えてしまう。それでいい。ちょっと切ないけれど、それが大きくなるってことだもの。

今月末、彼女は7歳になる。フランスで3歳のお誕生日をお祝いした頃が、とても昔のことのように思えてしまう。


「大丈夫。今は忘れてしまうかもしれないけれど、本当に思い出したくなった時が来たら必ず思い出せるから」

そう言って、背中をなでた。
娘はずいぶん大きくなった。けれど、思いっきり泣いている時の顔は赤ちゃんの時のままだ。

過去に引きつける力は、いつか背中を押してくれる大きな力になるでしょう。
お母さんは、ずっとこの滞在記を書いてきて、そう確信しています。
あなたがもっっと大きくなったら、もう一度過去をふり返りたくなる時が来るでしょう。その時は、ここで書かれたことを本にして、そっと渡してあげたいのです。

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