見出し画像

老人ホームでのマグロの解体ショー

最近、いたる所で見られるマグロの解体ショー。
結婚式などの余興や商業施設などでのパフォーマンスにはじまり、最近では一般的な回転寿司店でも導入しているところもあります。

巨大な魚がさばかれ、次々とお皿の上に盛り付けられていく…… 視覚でも味覚でも人を惹きつけ楽しませるパフォーマンスですが、高齢者が暮らす福祉施設での導入は可能なのでしょうか? また、どういった施設で実施しているのでしょうか?

財力のある老人ホームが有利か

ざっと、インターネット検索で調べたところ、いくつかの施設ではマグロの解体ショーを実施しており、そのときのレポートが施設のブログなどで紹介されています。ここで見る、共通点として、

1.介護付き有料老人ホーム
2.大手資本

が挙げられます。「観て・食べる」パフォーマンスですので、重度の要介護者やリハビリ目的の人が大勢いる施設向きではない。そして、マグロ本体の価格だけでなく、ショーを行う職人の日当、車での移動費用なども含めて考えると、どうしても高額になることからある程度財力のある事業者に絞られるようです。

画像1

↑ 2020年豊洲市場の初ゼリで1億9320万円の高値が付いた大間(青森)産のマグロ(筆者撮影)。さすがにこんなマグロを使う事業者はいないが。

最大の敵は「食中毒」の発生

コストよりも気になる懸念事項は、やはり「食中毒」ではないでしょうか。通常、衛生面に配慮して介護施設の日常食事メニューに刺身などの生魚は出てきません。僕がかつて取材した、某大手有料老人ホームの管理栄養士の話によると、サラダに使うレタスを切るとき、盛り付けるときにもゴム手袋は必須とのこと。それくらい食中毒予防に神経を尖らせているのです。

入居高齢者を楽しませるために、何か新しい催し物をと頭を悩ます職員は多くいるとは思いますが、衛生面での保証がやはり一番のネックとなります。ちなみにかつて取材した会社のホームでの活動を見る限り、マグロの解体ショーの実績はなく、そこの施設で働く職員自らが買い付けした魚(ブリなど)などをさばいて振る舞うくらいでした。

マグロ解体ショーに必要な資格とは?

まずは魚を取り扱い、販売する時点で「魚介類販売業」「食品衛生責任者」は必須となりますが、この資格さえあれば、特に解体ショーを実践するのに資格は要りません。ただし、あれほど大きな魚体をさばくとなると、当然マグロ解体の経験者でなければ務まりません。

きちんとした技術を持ち、正しい知識でお客さんと接することのできるスペシャリストを育成しようという目的から、一般社団法人全国鮪解体師協会による「マグロ解体師認定制度」という資格が創設されています。最上級の1級は、独力でマグロをさばけるだけでなく、口上パフォーマンスも同時に行うなど、コミュニケーション面での実力も問われます。

一般社団法人全国鮪解体師協会HP

なおこの1級、全国で数人しか有資格者がいないのですが、ジャニーズ「Kis-My-Ft2」の横尾渉さん、元演歌歌手の香田晋さんなどが保有しています。同協会の公式HPからも有資格者の情報を確認できますが、有効期限があるため香田さんに関しては資格はすでに失効しているようです。

静岡出身の祖母を見ていて思うこと

92歳になる僕の祖母は静岡・三島出身。静岡の人なので生魚が大好き。でも有料老人ホーム暮らしで、普段の生活では刺身を口にする機会なんて皆無です。お盆などで実家に戻ったとき、刺身を細かく切って渡してあげると、とてもおいしそうに食べます。ところが今年は新型コロナウイルスの影響で親戚一同集まることはなく、祖母は刺身を食べることはできませんでした。

僕の顔や名前も思い出せないほど認知症が進んでいます。「ボケてるんだから何食べても一緒だよ!」という意見もありますが、幼いころに記憶した味というのはしっかり脳に刻まれており、たとえ認知症が進もうとも、祖母にとって刺身の味というのは、きっと心の琴線に触れる味なんだと思います。

衛生面、金銭面での問題は依然大きな壁ですが、解体ショーをやる業者と介護事業者の歩み寄りによって前進できる部分はあるはずです。今はコロナの影響で外出できる機会はありませんが、そんな高齢者にとって「食事」は何物にも代えがたい楽しみとなります。祖母の残り少ない人生。きっともう一度、ウマい刺身が食べられる機会が来ると信じています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?